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異世界事件簿 双月にほえろ!  作者: おっこの
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第十六話 異邦の忘れ物(ジン:四~五日目)

 葛城が月光亭(ムーンライト・イン)で目を覚ましたのは、もう正午に近い時刻だった。 全身の節々が軋む。 迷いの森でのトロールとの死闘が、まだ骨の髄にこびりついている。


 月光亭(ムーンライト・イン)の看板ウエイトレスのリナがとびきりの笑顔で出してくれた昼食を掻き込み終わったころに、ルカが葛城を迎えに来てくれた。 警備隊本部までの道すがら、ルカは何度か大きく伸びをして、まだ強張った肩をほぐした。


「午前中休みもらえて良かったですね えっと・・ ジン」


「そうだな ルカ。 今日は何をすればいいんだろうな」


 ルカのぎこちない呼びかけをこそばゆく感じながら、二人は警備隊本部に向かった。



・・・・・



 二人が警備隊本部に到着すると、第三小隊同僚のトバイアスから、ランドルト隊長から二人が到着したら顔を出すようにと言われていることを伝えられた。 

 

 ランドルト執務室の扉をくぐると、ランドルト・バーグは机で書類の山と睨み合っていた。 頑丈な体躯に不釣り合いなほど、疲れた顔をしているランドルトの隣に立って、補佐のヘレナ・ドノバンが、書類を一つ一つ説明しながら、ランドルトの目の前に置いていった。


「おう、来たか。 今、手が離せないから、そこに座って待っててくれ」


 葛城とルカは促されるまま、ランドルトのデスク前の応接椅子に腰を下ろして、ランドルトを待った。

 

 一通りの書類対応を終わらせると、ヘレナはぶ厚い書類の中身を確認した後、「お待たせいたしました」と二人に会釈して執務室を出て行った。 


 ランドルトは重い息を吐いてからルカと葛城に向き直って切り出した。


「お前たち、昨日は大変だったようだな。 ノーラから報告は受けている。 手傷を負っていたとはいえ、二人でトロールを討伐するなんて大したもんだ。 普通なら死んでるぜ」


「ジンがあの不思議な黒い筒でトロールの両目を潰して倒しました。 あたしはただ足止めしただけで」

 ルカが下を見ながらランドルトに報告する。


「黒い筒ってのは?」


「ああ......。 これだ。 でも、これはもう使えない。 そもそも五回しか使えない代物で、全部トロールにつかっちまった」


 葛城は拳銃(S&W360M)をホルスターから取り出して、目の前の机の上に置いた。


 ランドルトは拳銃を机の上から摘まむと目を光らせてマジマジと観察(再度、『鑑定』を行ったのだろう)して、また机の上に置いた後、続けた。


「......。 俺からも報告しておこう。 お前らと別れた後、モントブラン邸に行ってきたが……前会長のロベルト・モントブランは外出中だった。 代わりに執事長のセバスチャン・ヴァルクって男から話を聞いた」


「で、何か分かったんですか?」


「いや、思ったより収穫は薄い。 マルコって従僕については知らないの一点張りだ。 ナルデニアン家の従僕が、なぜモントブランの紋章メダルを持っていたのか――そこも分からんと言っていた」


「紋章メダル……ですか」

 ルカが首を傾げる。 ランドルトは顎鬚をしごきながら続けた。


「あのメダルは、以前モントブラン商会が忠勤の従僕たちに配った装飾品らしい。 誰にでも渡すものじゃない、それなりの立場の者に与える褒賞品なんだそうだ。 だが、なぜそれをナルデニアン家のマルコが持っていたのかは、執事長にも見当がつかんということだった」


 葛城は腕を組んだ。


(知らないの一点張りか……。 本当に知らないのか、知っていて隠しているのか。 判断がつかねぇな)


 その疑問は、とりあえず頭の片隅にそっと仕舞っておく。 今はまだ、情報が足りない。


「そういえば 娘さんは山賊から助かったんですよね? 通りすがりの旅人が助けたとかなんとか」


「そうだな。 さすがにエレナお嬢様も両親が目の前で惨殺されたショックで寝込んでいて話は聞けなかった。 お嬢様を助けた旅人も前会長からの謝礼を受け取って、すでに別の町へ出発したそうだ。 カイザー・ローとかいう冒険者だったらしいが、詳細を聞く前に旅立ったということだ。 冒険者ギルドに問い合わせたが、そんな冒険者は居なかった。 潜りの可能性は残っているがな」 


 ルカが遠慮がちに尋ねた。


「その執事は何か隠してるんでしょうか?」


「それは分からんが、屋敷の中も、あの騒ぎのせいでどこか空気がピリピリしていた。 商会長夫妻が殺されたんだ。 無理もないがな」


 ランドルトは椅子の背もたれに体を預け、片手で目元を揉んだ。 葛城には分からない苦労がこの隊長さんにもありそうだなと少しだけ同情した。


 ランドルトは咳払いを一つして、話題を変えた。


「あーー。 そうだ。 ルカ。 今日からお前の動いてもらう部署が変わる」


「え? あたしまだ配属されて、まだ一週間もないですが」


「ルカ・クライン。 本日付けで、東門担当の第三小隊から、捜査担当の第一小隊への異動を命ずる」


 ルカが目を丸くする。


「第一小隊!? まだ実戦経験も浅い、新米の……」


「復唱は?」


 ルカはハッとなって、直立不動の姿勢を取ると敬礼して復唱した。


「ハッ! ルカ・クライン! 本日付けで東門担当の第三小隊から、捜査担当第一小隊へ異動いたします!」


「よろしい。」


 ランドルトは笑顔になると、葛城に向き直る。


「カツラギさん。 あんたも一緒に第一小隊に行って、ルカを助けてやって欲しい」


 葛城はそこにある真意を探ろうと、ランドルトの顔をじっと見た。


(隊長さんは第一小隊を助けろではなく、ルカを助けろと言った。 これはどういうことだ?)


「カツラギさん。 正式な手続きを経ていないお前さんを俺の権限を使って正式な隊員にはできんが、第一小隊付きの協力者として動いてもらうことはできる。 これを持っていってくれ」


 差し出されたのは、警備隊の紋章が彫り込まれた小さな銀色のバッジだった。 掌に乗せると、ずしりとした重みが伝わってくる。


「これがあれば、第一小隊の連中もお前を無下には扱わんはずだ……」


 その言い方に、微かな含みがあった。 葛城は苦笑いを浮かべる。


 ランドルトはそれ以上語らず、机の向こうで書類仕事に戻っていった。



・・・・・



 執務室まで迎えに来てくれた案内役のノーラ・ビショップに連れられて向かった先は、一階受付裏にある五つの小隊が机を並べる大部屋だった。


「ここが小隊大部屋だよぉ。朝はもっと騒がしいんだけどねぇ」


 ノーラの言う通り、部屋は少しがらんとしていた。 第二から第五までの小隊は、すでに哨戒や門番の任務に出払っていて人はまばらだ。 最も人が残っているのは、窓際の一角に固まった第一小隊の面々だけだった。


「みんなー、紹介するよぉ。 今日から第一小隊に来る、ルカっちと、その協力者のカツラギっちょだよぉ」


 小隊員達の視線が、一斉にルカと葛城に向いた。


「んじゃ。 ウチ。 外回りあるからぁ。 あとよろしくぅ」と、言うとノーラは踵を返して、受付口から出て行った。


 ルカと葛城、第一小隊のメンバーも、そんなマイペースなノーラに少しあっけにとられる。


 最初に応じたのは、長身で筋骨隆々の熊獣人だった。

「おう!  あんたら隊内で噂になってるぞ! 俺はガーウィン・ロックだ。 見た通り熊の獣人だ。 よろしくな!」


 その隣で、まだあどけなさの残る青年が勢いよく立ち上がる。

「ト、トム・ウィッカーです! ルカとは警備隊学校の同期で…… その、よろしくお願いしまむ!」と最後に少し噛んだ。


 だが、ガーウィンとトムから以外の反応は薄かった。


 小隊長らしき鉄灰色の髪の男は、視線を書類に戻し、手を軽く振りながら自己紹介した。

「ああ。 大隊長から話は聞いてる。 小隊長のオーウェン・ブラックウッドだ。 まぁ よろしく頼むわ」


 その隣に立っている赤毛を結んだ細身の女性が、その素っ気なさを取り繕うように微笑む。

「私は小隊副長のセリーナ・マーロウ。 よろしくね。」


 その横の机に座る細面な女性は感情の読めない静かな目でこちらを一瞥し、「イレイン・ヴォス」と呟いただけだった。 その視線の圧に、思わずルカがびくりと肩を揺らす。


 イレインの机の向かいに座る少し猫背気味な若い男性は早口で「コリン・ラドクリフです。 よ、よろしくお願いします」とだけ言うと、また帳面に視線を落とすと何やら絵を描き始めた。


 コリンの隣の栗毛の長髪でスラリとした長身の色男は如才ない笑みを浮かべたが、その目はどこか品定めをするようだった。


「フィリップ・ラングフォード。 この時期に外部協力者、ですか。 第一小隊に配属される理由は何なのでしょうねぇ」

 柔らかい物腰の裏に、値踏みするような響きがある。


 その隣の少し地味な女性に至っては、こちらを見もせず書類仕事を続けている。 ペンを走らせる音だけが、やけに大きく耳についた。 セリーナが「彼女はドロシー・ケイン。 基本的には彼女は内勤で、資料整理と書記を担当しているわ」と紹介した。


 葛城は内心で肩をすくめた。


(突然どこの馬の骨とも知れない”協力者”が上司命令で捜査に加わるってのは不自然だ。 歓迎されないだろうとは思ったが...... 俺たちにもこの状況サッパリなんだよなぁ。 誰か説明してくれんのかな)


 だがルカは、そんな空気にまるで気づいていないようだった。 目を輝かせながら室内を見回している。


「第一小隊の皆様……! ずっと憧れていました! 本日付けで第三小隊から異動になりましたルカ・クラインです。 よろしくお願いします!」


 その屈託のない声に、セリーナが困ったように苦笑した。


「潜入調査中の一人を除けば、これが全員です。 彼女が帰ってきたら紹介しますね」


(へえ、潜入捜査官もいるのか....)


 葛城がセリーナに頷くと、ガーウィンが豪快に笑った。


「まぁ 分かんねぇことがあったら、俺やノーラに聞きゃあいい。 後は慣れだ!」


(さて。 ランドルト隊長は俺たちに何を期待してるのか…… 機会があれば聞いてみよう)


「協力者ということで配属になった。 ジン・カツラギだ。 よろしく頼む」


 その後、第一小隊は書記のドロシーを残して外出してゆき、ルカと葛城は先日の山賊襲撃事件現場検証のレポート作成(ルカがほとんど書いた)を終えると定時でその日は帰宅(葛城は月光亭)した。



・・・・・



 翌朝、ルカに連れられて警備隊本部に出勤してきた葛城は、一足早く机に座っていたノーラを見つけた。


「あっ ルカっち、かつらぎっちょ。 おはよぉ。 昨日はごめんねぇ~。 ちょっと色々やることあってさぁ」


「おはよう。 ノーラ。 変なことを聞くようだけど、俺らはここで何をするのか ノーラは聞いていたりするのか?」


 葛城は昨日から疑問に思っている事を思い切ってノーラに直球で聞いてみた。


「だよねぇ~。 んじゃぁ お二人さん。 ウチについてきてぇ」 


 ノーラに連れられてルカと葛城が向かったのは、警備隊本部の大部屋奥にある証拠品倉庫だった。


 扉を開けた途端、うずたかく積まれた木箱と麻袋の山が視界に飛び込んでくる。 その真ん中で、ドワーフのグスタフ・ホーレンダーが太い腕を組んで唸っていた。


「おい、お前ら。 こいつを見てみろ。 お前らが持ってきた山賊のアジトからの証拠品だ。 お陰で俺は昨日からこいつらの整理しかやってねぇ。 運び込まれた分だけでこの量だぞ。 俺一人で片付けられると思ってんのか、まったく」


「おはよぉ~。 グッさん。 だから応援つれてきたじゃん」


「よし。 そうと決まれば、さっさと終わらせるぞ。 お前らそっちの戦利品の山とこっちの略奪品リストとの照らし合わせやれ」


 そうして始まったのは、地味だが骨の折れる作業だった。金貨の入った革袋、粗雑な武具、正体不明の魔石、一つひとつを検分し、被害届の出ている盗難被害品リストに似たようなものがあるかどうかを確認して報告書に記録していく。


(こりゃ。 一つ一つやってたら終わらないぞ...。)


「ルカ。 ちょっと証拠品をテーブルに並べていってくれ」


 ルカは言われた通り証拠品を大きなテーブルの上に並べていった。 葛城は盗難品リストの紙も同じくテーブルの上に並べると、ユニークスキルを使ってみた。


「『事象検証(ログ・アナライズ)』」


 葛城の目が青く光ると、青白いログ画面が対象の上に浮かび上がり、対象となりそうなリストと繋ぎ合わせてくれる。


(よし! 少し疲れる気がするが、うまくいったぞ)


「えっと。 これとこれ。 それとこれ。 あれとこれ....。......。」 


 葛城がすごい勢いで証拠品と結びつけていく。 ルカがあわててその情報を報告書に書き留めていった。


「へぇ、便利な力だねぇ。 ウチらが一つずつ鑑定するより、よっぽど早いよぉ」


「ほぉぉ。 すげえじゃねぇか。 ジン お前、第一小隊じゃなくて、ここで働けよ」と、グスタフが葛城の肩を叩いた。


「だめだよぉ。 グッさん。 ルカっちとかつらぎっちょは、「闇の爪(シャドウクロウ)」特捜班のメンバーなんだからぁ」


 ノーラの思いがけない言葉に葛城とルカは手を止めた。


「え? 「闇の爪(シャドウクロウ)」特捜班? 初耳なんだが?」と葛城がノーラに問いただすとルカが何度も頷いた。


「そりゃぁ。 言ってないからねぇ」とウインクで返すノーラ。


「どういうことだ?」 葛城とルカがノーラの言葉を待つ。


「ここじゃぁ あんまり詳しい話はできないんだけどぉ。 秘密裡に今回あたらしく新設された捜査班でぇ。 このルミナスでも結構活発化してる犯罪組織の「闇の爪(シャドウクロウ)」対策班にぃ、ルカっちとかつらぎっちょが任命されたってわけ。 いまのところぉ メンバーはぁ うちとルカっちとかつらぎっちょの三人だけだけど。 報告先はランドルト大隊長のみの特捜班」


 グスタフは知らんふりをして作業に没頭している。 聞くべき話ではないと判断したのだろう。


「つまり....。 ランドルト隊長は、警備隊内部にも内通者が居ると考えているのか?」


 ノーラは答えずにニヤリと笑った。


「「闇の爪(シャドウクロウ)」ってどんな犯罪組織なんだ?」


 ノーラは要領よく説明し始めた。


 「闇の爪(シャドウクロウ)」は、アルファンド王国内で、大小さまざまな犯罪グループを吸収し、ここ十年ほどで勢力を伸ばしてきた犯罪組織だった。 密輸に誘拐、暗殺に襲撃など、さまざまな犯罪を犯しているらしい。


 アルファンド王国には、商業都市ルミナス以外に五つの大きな都市が存在する。 まず、この街、ルミナスの東の街道を抜け、迷いの森の先のファンド湖の畔にあるアルファンド王国の王都グランバル。 その王都のさらに東には城塞都市のフォンテーヌがある。 ルミナスの北の荒地を超えると鉱山都市グラナダがあり、西の街道の先には港交易都市ガレリアがある。 そして、ルミナスの南には、魔女の沼地とよばれる湿地が広がっているが、それを超えると歓楽都市エルドラードがあった。 商業都市ルミナスはこれらの都市を繋ぐ物流の中心と言える都市だった。


 そのルミナスの南の都市、エルドラードが「闇の爪(シャドウクロウ)」の本拠地だと言われている。 もともとエルドラードは目立った産業の無い、周辺の街や村から中産階級の平民が集まってできた、比較的小規模の街だったが、この十数年で、街道を敷設し、カジノや闘技場など数々の娯楽施設を作り、眠らない繁華街ーー欲望まみれの街に様変わりしたのだった。 その裏にいるのが、「闇の爪(シャドウクロウ)」だと言われていた。


「「闇の爪(シャドウクロウ)」を仕切ってるのは?」


「首領の名前は組織の名前と同じシャドウ・クロウ。 でも、名前以外は容貌も何も分かっていない謎の人物。 その他にこの首領には四人の支局長がいて、この四人の忠臣がそれぞれの都市に派遣されてるって話。」


 ノーラの話し方からいつもの間延びする呑気さが消えている。


「今回、山賊のアジトから出てきた紋章は、間違いなく「闇の爪(シャドウクロウ)」のものだけど、指示を出したのは、恐らく首領本人じゃなく、ここルミナスの支局長を任されてる”黒蛇”のザハールって奴だろうって睨んでる」


 ノーラは顎に手をやり、机の上の一点を見つめている。


「”黒蛇”のザハール......。 そこまでわかってるなら、なぜ捕まえないんだ?」 葛城は当たり前の質問を投げかけた。


「それができたらぁ。 くろうしないのよぉ~。 クロウなだけにぃ~」

 いつもの口調に戻るノーラに、ルカ、葛城、グスタフの肩から力が抜ける。


「ザハールも通り名だけしか分かってないからぁ、捕まえようがないんだぁ~」


「なるほどなぁ~」 葛城もノーラの口癖がうつってきていた。「じゃぁ、俺たち特捜班の取り急ぎの仕事は、このザハールって奴を見つける事か?」


「まずはその手掛かりを見つけることかなぁ。 マルコ殺害の獣人が「闇の爪(シャドウクロウ)」の関係者なのは、胸の刺青とその死因で分かってるしぃ。 モントブラン家の商会長襲撃事件も「闇の爪(シャドウクロウ)」からの指令書発見で、裏にいる事は分かってる。 あとはここにある証拠品から、ルミナスのどこに隠れてるのかなんかの手掛かりがあるといいなぁって感じぃ?  ただまぁマルコ殺害犯は警備隊本部の地下牢で捕まったその日の夜に口封じされてるからぁ、警備隊内に内通者がいる事はまず間違いないからぁ、秘密裡に進めないとぉ、また証拠の隠滅されるだろうってこと」


「俺とルカが特捜班に呼ばれたのは、マルコ殺害犯を捕まえた事実から「闇の爪(シャドウクロウ)」とは無関係と判断されたから?」


「それもあるけど、かつらぎっちょの場合はその便利なユニークスキルなんじゃないかなぁ~」


「なるほどな 合点がいったよ」


 そこにグスタフの少し間抜けな声が上がった。


「なんじゃこりゃ? 金の腕輪...... に、小さい時計みたいなもんが付いとる」


 グスタフが摘まみ上げたのは金色に輝く精巧な意匠の腕時計だった。


「あれ? ジンも同じような物つけてませんでしたっけ?」 ルカが葛城を見る。


「こいつは...  腕時計だ....。 俺の世界の.....!!」


 葛城がグスタフの手から腕時計をひったくってマジマジと調べると、その金色に輝く時計の裏蓋に、小さく「R.S.」というイニシャルが刻まれていた。


「アール..... エス.....。 レン・サエキ.....。」


 葛城はグスタフが漁っていた袋の中身を出して調べると、イタリア製の仕立ての良いスーツの上下が出てきた。 それはあの日ーー葛城が新宿のビルから落ちた日に佐伯が来ていた服だった。


(佐伯……。 佐伯がこっちに来ているのか?)


 握りしめた冷たかった腕時計が熱を持ち始める。 ざわりと、うなじの毛が逆立つ。


「ジン? どうしたんですか....? 顔色が……?」


 ルカの声が、どこか遠くから聞こえる。


(もしお前がこっちに来てるなら……)


 葛城は宙を睨みつけ、腕時計をもう一度強く握りしめた。


(必ず お前は 俺が捕まえてやる!)


 証拠品倉庫の薄暗い明かりの下、葛城の目に、久しく忘れかけていた執念の光が灯ったのだった。



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