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村の主導権

メアと一緒に旅をする事を決めた翌日、村長の「ソレル」と呼ばれている男性エルフと話し合いをした。

と言っても、俺が村を拠点にしたいという条件は快く受け入れてくれた。


今回の話し合いでの一番重要な議題はメアが世界を旅する程の体力などの問題である。

村長こと、ソレルはメアが世界に興味を持つことに対しては全く異を唱えないが、十年以上聴覚障害があり流ちょうに話す事も出来ていない、そんな状態で世界に足を踏み出すのは危険では?というものだ。


まあ、俺としてもソレルの言い分は納得できる。メアは成人しているとはいえ、耳が聞こえなかったことで勉学などが非常に他のエルフより大きな遅れを取っている。それは時間の差である。

この世界のルールは「弱肉強食」強い奴が正義で弱い奴は悪という絶対的なルール。これを覆すことが出来るのは本当に限られた者だけだろう。それこそ魔王や神などだ。


ちなみにだが、今現在魔王の人数は俺が把握してる限りでは6人のはずである。魔王と侯爵級の天使とは対になる存在なのだ。神アウラスが聖の頂点に立つ侯爵級天使のランクを定めた事により、対となる存在として魔の頂点に君臨する魔王の制度も出来たのだ。

そして、魔王と侯爵級天使は一心同体、レインブロキシと呼ばれる生体リンクの術を掛けられている。なので魔王が死ねば対の天使も死に、新しい天使が出来れば新しい魔王が生まれる。勿論、この逆パターンもあり得るのだ。

大抵の対になる魔王と天使はそれぞれ相対する属性を持ち合わせているそうだ。俺の場合は何故かは知らんが、時間属性との対は空間属性に当たるそうだ。結構似てるように感じる。

今回の場合は天使側の俺が死んだ(と言っても転生だが…)事により、対として存在していた空間属性の魔王も転生したはずである。こう考えるとかなり申し訳ない。


話を戻すと、要するにお互いの存在を消さない様に魔王と天使は牽制しあうだけで戦闘まではいかない筈なのだ。俺が言いたいのはそれが暗黙のルールの筈なのに、容赦なく魔王ロイは俺を狙ってきた。つまり、アイツの計画に支障が出る属性である俺、またはその対となる空間属性の魔王を消したかったのだろう。正直言うと、本当に迷惑な話である。


余談のつもりが結構長い話になってしまったな。まあ今更悪態を突いたところで、侯爵級天使に戻れるわけではないからな。さて、話を本題に戻そう。メアの教育の話だ。


「俺としてはメアさんが世界を知ろうとするのは良い事だと思うが、貴方方が知っての通りこの世界は弱肉強食。自分の身は自分で守らなきゃなんない。何か得意な事とかは無いのか?」


一瞬の沈黙、そして何か思い出したかのようにソレルの傍に控えていたメアの世話係のエルフが立ち上がった。黒を基調としたメイド服をに身を包んでいる高身長の女性エルフだ。


「発言をお許しいただきます。お嬢様…メア様が一番熱中して取り組んでいらっしゃっていたのは魔法です。昔から魔法をご両親から習っておられたのですが、聴力を失ってからはご自身が知っておられる単語のみで魔法書を漁って勉強なさっていました」


…魔法か。魔法にはその精密度や威力や効果などによって、どれだけ扱えるかランク付けすることができる。魔法学校に通っている者であれば、半年に一度ある魔力測定で鑑定することが出来るのだ。そう言えば、このエルフの村にも測定用の器具が置いてあったな。

少し聞いてみるか。

「魔法ですか。ちなみに魔力測定はしましたか?この村には魔力測定の器具がありましたので」

流石にそこまでは知らないのか世話係はソレルに目配せをした。

「アイオン様、申し訳ありませんがメアは魔力測定をした事がありません。注意事項などもありますのでミスをしてしまえば聴力以外の五感を失う事に繋がるかもしれませんので…」

成程、けど魔力測定でそんな過保護になるか?結構この村の住民って、揃いも揃ってメアに甘いな。魔力測定はミスをしたとしても精々機械がぶっ壊れる程度なんだが…


メアの話じゃこの村を立ち上げたのがメアのご先祖だそうで、メアの母親が普通のエルフと結婚した事により、親戚のソレルの家系が当主を継いだと聞いた。確かに顔立ちも似てると言えば似ている。

どうやらソレルはメアの叔父にあたるエルフだそうで、姪がこれ以上怪我をしたらメアの両親に合わせる顔が無いと思ったのか、少しのリスクでも取り除いて来たそうだ。


まるでジュラとファウラを見ている様だ。あの二人は外から見るとギスギスしているように見えるが、よくよく話を聞いているとジュラはデレッデレにファウラを甘やかしているのだ。要するに弟馬鹿と言う奴である。

そしてソレルとメアの関係を一言で表すのであれば姪馬鹿という言葉で十分だろう、と言うぐらい過保護である。

これは恐らく、誰かが背中を押してやらねば絶対にやろうとしないタイプだな。仕方ない。

「リスクの危険性を感じての事でしたか。それでは今回は俺…じゃなくて僕がいますので安心して魔力測定を行ってもらえませんか?」


優しく丁寧に口調を整える。これはサッフォーから教えてもらった自分の言葉を相手が飲み込みやすくするためのやり方である。会議の場や相手との対話で自分の話を有利に進めるために、一度恩を与えた者には相手が和みやすい様に喋り、安心させればいいのだと。

女ってのは恐ろしいねぇ。まあ性別ないから悪態ついても仕方ないけど。

よくこう言う話し方を実践するためにサッフォーに相手をして貰って喋ったもんだ。言うなれば口説くって言う感じだろうか?相手をこのやり方で自分の望む結果を出せるかと言う簡単なゲームである。

ちなみにこのゲームに俺はサッフォーに、一回も勝ったことが無いのである。いやはや末恐ろしい。

さて、ソレルの反応はどうかな?


「分かりました。アイオン様は一度メアを救ってくれた方です。我々は既に貴方に大きな恩を感じております。今更、後に引くような柔弱者はこの村にはおりません!」

おぉ!真っすぐな表情だ。確かにサッフォーのやり方はあっていたな。いや、それもあるだろうが何よりもメアを大事にする気持ちが不安に打ち勝ったのだろう。それは彼等の精神の強さを意味している。

彼等の誠意に応えなければならない、と思ったのも当然だろう。

「受け賜わった!この俺自らメアの魔力測定に付き合おう!」


そうして、今日は準備をして、明日に魔力測定を行うように決定した。そしてその後に、正式な会議を開き、彼等がこのエルフの村の主導権を全て俺に譲り渡すという話を持って来たのだ。


「我々は、貴方様の考えや意思に基づいてこの村とその領土の主導権を全て受け渡したいと思っております!何卒、この案を受け入れては下さりませんでしょうか?」

「ふむ、主導権をねぇ………!?主導権!?」咄嗟に大声を上げてしまった。ハッとして椅子に座り直し、咳払いで誤魔化す。


「ゴホン…失礼した。だが、いきなりすぎではないか?この村の主導権をそんなに容易く見知らぬ他人に渡していては問題が起きるのではないか?」


主導権自体は悪くない話である。いや、逆に殆どメリットしかない話だ。このエルフの村を手に入れることが出来れば、自身の領土を持つことになり、少なくとも融通は多少は利くようになるだろう。

それにエルフは魔と聖の特徴を併せ持つ、唯一の存在である。その為、聖属性の魔法も魔属性の魔法も大抵の属性は使う事が可能なのだ。

勿論、人間も殆どの魔法は使えるが明らかに精密さが違うのだ。エルフには生まれつきのエセンス粒子に馴染んだ体を持っているが、人間は持っていない。その為、感覚的に使う事が出来るエルフは、覚えが相当早いのだ。


「それに関しては村の者全員に確認を取ってまいりましたので問題はありません!この村周辺の森はメアの一族が全て治めていたので実質的には領土は遥かに広いのでございます」


いや、俺が言っている問題って言うのはそういう話じゃなくてだな!…いや、ここまで熱心に俺に付いて来てくれるという誠心誠意を見せてくれているのに、それに応えない俺の方が非常識だろう。


「…分かった。その話を受けよう。だが、俺は普段から何かの規則で貴方達の暮らしを急にに変えたり、害をなすつもりは無い。そして、俺は貴方達をただのエルフで終わらせるつもりはない!俺がこれから治めていく領土全員の魔物たちを進化させるつもりだ」


この話は、単に戦闘能力などを上げたいと言う訳ではなく、自衛のためである。エルフは基本的に珍しい種族だ。しかし、森の恵みには限度もあるため前も話したが人間の街で出稼ぎに行く者がいる。

その時にエルフの美貌に付け込んで奴隷にしようとする者もいる。

その為、自分の身は自分で守る必要があるのだ。その為に俺は進化を彼等に促したのだ。

進化をするためには主に2つの方法がある。1つ目はラ・グラフ・リフォレッションと呼ばれる進化の方法だ。別名:進化の恩寵とも呼ばれている。

今回、俺が促す進化方法はこれである。この方法は集団で一人のリーダー、または主として認められた者からその主のエセンス粒子を吸収し、能力や種族を進化させる方法だ。


2つ目は自分自身で行う進化方法でエフォリション・アウトナムと呼ばれる方法だ。特に別名は無いが自力進化とも呼ばれる事もあるそうだ。こっちの方法はあまりお勧めしない。

理由は簡単、単純に言うと脳が焼き切れるからだ。

この自力進化は、世界のシステムに干渉して情報量を多く頭に叩き込まれる。普通の魔物や人間がやろうとすれば情報量の処理に追い付かずに、脳の線が切れて一瞬で脳死する。なので、ある程度の精神力と実力が必要となる。このやり方は魔王や侯爵級天使以外は殆どしないやり方なのだ。

俺も一度した事があるので、危険性は誰よりも分かってるつもりである。あの時はアイラの回復能力が無ければ本当に気絶するほどの情報量だったなぁ…

とにかく、そんなリスクを俺の領民に味合わせたくないからな。

この事を彼等に話すと簡単に了承してくれた。逆に戦闘が好きなエルフたちは

「更に、新しい能力になる事が出来るんですか!?種族としてもレベルアップして、より集団性が高まるって事ですね!?」近い近い。少し離れろ。

ハッとしたのか、全員足並みをそろえて一歩引く。

「ス、スイマセン。自分達、戦闘が好きなもので…日々能力や魔法、剣術などを磨いてきていたのでこれ以上は伸びないかと思っていましたから…」


ふむ、確かに魔力の質も生まれつきと言うより鍛えられて大きくなったという感じに見えるな。…ん?待てよ、この方法なら彼等の好きな事も同時進行で安全性も保障されるんじゃないか?


「ハハッ!好きな事があるって言うのは素晴らしい事だな。君達もまだまだ若いし、進化をすればより強くなるだろう。さて、そんな期待の星の君達に一つ提案がある」

人差し指を立てて戦闘好きの若エルフ達の方を見る。


「この村は君達の進化に応じて、更に技術も発展していくと思うんだ。だが、技術が発展して物作りなどが発展していけば当然人間たちが観光に来てくれる。良い奴も、悪い奴もだ。来るもの拒まずってやつだな」

未来の話を聞かされて、更に理想が膨らんだのか目がキラキラしている。

「その観光客に紛れている悪い奴は当然金に目が眩んで、窃盗とか犯罪を繰り返すことになるだろう。そこで、君達の自慢の能力の出番だ」

少し、間をおいて勿体ぶる感じで興味をひかせる。


「そう言う奴等を取り締まって、ここに来てくれる観光客や住民を安心させる警備隊の役を君達に任せたいと思っている!」

「警備隊」村や街の安全を保つための重要なガードマンである。安全性がなっていなければ、いくら観光地として有名になっても悪い噂が立ってしまう。

案の定、俺の誘いに乗って彼等は更に目をキラキラさせていた。


「警備隊!!俺達がこの村を守っていく役をするんですか?」

「ああ、そうだ。お前たちがどう言う警備をするかによって、この村の発展のゴールの目途が決まってくるんだ。勿論、すぐにとは言わないし、無理に誘うつもりもない。だが、君達の「好き」を生かした適役の役職だと思ったんだ」

まさに適材適所と言う奴である。俺は続けて

「それにこれからは明確に役職を分けていきたいと思っている。その見本となるのが警備隊と言う役職だ。この役を担う者が真面目に取り組むかによって住民たちのやる気も変わってくる」


俺は少し間をおいて彼等の反応を伺ってみる。だが、どうやら悩む必要もないらしく

「勿論、その役、我々が担わせていただきたい所存です!誠心誠意を見せるためにもこの村を守っていくためにも我々に警備隊を任せて戴きたい!」

どうやら、心配は不要の様だ。俺はフッと軽く笑って

「お前たちの覚悟は見せて貰った。よし、ではこれからは君達がこの村の守護者として住民の盾や槍となってくれ!君達の進化の恩寵には役職を使った二つ名を授け、それに合った能力が得られるようにしよう!」

その後、彼等には「フォスト・リフォン」というどこかの言語で防衛隊と呼ばれる単語を少しもじって二つ名を与えた。二つ名と言うより役職名だ。

役職名にした理由は色々ある。その中でも一番重要なのは、これからも進化を促すときがあるだろうから、今ここで大層な名前を付けてしまえば進化が目に見えて止まってしまう事があるのだ。それを防ぐためにも、今は簡単な職業名を格好良く付けて進化を促した。


彼等は守りに特化した「ガルディアンエルフ」に進化した。進化に応じて元々持っていたスキルが守護系に属した能力になったそうだ。守護の盾と言う意味で「ボキア・ポテピション」守護の槍と言う意味で「ランス・ポテピション」という能力に変化した。

権能はそれぞれ個人によって違うらしい。名前は一緒でも個人の特性や得意な事に合わせて能力が適応化したようだ。

約200人のガルディアンエルフが誕生し、その上にネオ・ガルディアンエルフとも呼べる「アリストロフォン・デイビフォション」に更に進化した者が現れた。

流石にここまでは予想しておらず、結構な量のエセンス粒子を分配した。この更に進化した者達を警備隊の上官として現場にも立ちながら指示を出す、リーダー格を担ってもらう事にした。


エセンス粒子の与えすぎで、人格がぼやけてムーンデッドウルフに戻ってしまったのだが…まあ彼等も何回かは見たことがあるのだそうで、大して驚いてはいなかった。

モンストールが人間に化けて人間界に行く事はこの森周辺では大して珍しい事でもないそうで、メアは俺の正体を見抜いて連れてきたと言う。

俺もまだまだである。なのでモンストールという事はこのエルフの民達には知れ渡っていたという。

逆にこれを隠しきれていると思い込んでいた俺の方が恥ずかしいんだが!?


そんな話は置いといて、他の者達の進化は名前をしっかりと考えてから付けて行こうと思っている。メアの魔力測定が明日あるので、体力を消費しすぎれば何かあった時に対応が遅くなるしな。このエルフの村自体は人数はさほどいないが、この地域一帯となると他のモンストール達も住んでいる。だから彼等にも一度会って進化を促さなければならない。

面倒くさい話だが、自分で持ち出した話は自分でちゃんと終わらせないといけないからな。と思っているのだが…数分前に代役としてソレルに行ってくれないと話したら…

「何を仰いますか!貴方様はもうこの地域周辺の主なんですから堂々としていればいいんです!エセンス粒子の量を考えて我々に任せようとしてくれるのは民達の事を思っての事でしょうが、大丈夫です!」

とまあこんな感じで言い返されたんですね。何が大丈夫かは分からんが、他の種族の長にも顔を出すのに代役では大変失礼だろうという事もあったので渋々行く事にした。


護衛として先程進化を促したアリストロフォン・デイビフォションで会議中に目をキラキラさせていた若エルフを付けてくれた。彼の名前は「カール」と言うらしく、細身だが筋肉質の鍛えられた体を持つ175㎝程の高身長の青年姿。年齢を聞いてみると何と23歳だと言う。

メアの従兄に当たる存在で燃えるような真紅の短髪に金色の目をした美青年である。

村長の伝手もあり、人間界にある魔法学校に通っていたという。エルフの頃から才能が有り、魔力量が明らかに他の者達より秀でていたそうだ。女性達からもよくモテていたという。

だがこのクソ真面目なカールは勉学で来ている身だから、と言ってすべての告白を断ったそうだ。何ともまあ贅沢な奴である。断り方も格好良かったのか、断られた女子は逆に虜になったそうな。


ちょっとムカつく気がするが、コイツは滅茶苦茶ド天然らしく、告られたりしない限りどんなに遠回しに行動したりしてみても一切気づかないとメアから聞いた。成程、天然たらしか。この外見で中身まで良いとなると超完璧エルフである。


だが、まあ外見と中身だけではないようで、剣術も魔術も大抵は出来るという村長のお墨付きである。

出立はメアの魔力測定が終わった次の日、つまり明後日という事だ。カールにはゆっくり休むよう伝えているので、まあ怪我をしたりすることは無いだろう。

さて、俺もメアの魔力測定に向けて今日はゆっくり休むとしよう。



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