信頼していく者
村の主導権の話も終わり、順調にエルフの進化も終わらせていった。まあ主導権と言っても仕事をするのは俺ではなく、村長だったソレルに仕事は任せようかなと思っている。決してサボりたいとか言う訳じゃ無いよ!?勘違いしないでくれよ!?
まあそれは良いとして、旅をすると決めたは良いがどこを旅するかはまだ決まっていない。俺としてはブラブラするつもりだったがここ一帯の主導権を貰った以上、そんな事をしてしまえば俺だけじゃなく村全体が舐められることになる。迷惑は掛けられないし建前が必要なのだ。
それに本来の目的は能力の発動の仕方や確認方法のみ。つまり現時点ではどこかをウロチョロする必要はないのだ。いや、まああるにはあるんだが、間違えてしまえば面倒くさい事になりかねないのだ。だから俺としてはあまり関わりたくないが、この村にも関係する事なので迷っている。
少し思い出してほしいのだが、この村に来た時にソレルは「手話を使える者は全員出稼ぎに行ってしまった」と話していた。建前としては全然不自然には感じないのだが、それはあくまで人間がその言葉を使ったときの話である。
エルフは数自体が少ないし、会う事は殆どない。しかし、生まれつきの美貌や才能、人間と同じような理解力を持つエルフはとても利用されやすいのだ。彼等は普段から森で過ごしているから中々生物を利用する、という発想が思いつかない。そりゃそうだ。森の恵みを受けている者からしたらそんな事をしたら切腹物だろう。
だから、体裁の良い言葉に惑わされて奴隷の様に働かされてしまうのだ。運が悪ければ奴隷として人身売買に利用される者もいるだろう。エルフは高値で売れるからな。あまり良い話ではないのでメアの前では出来るだけ言わない様にしている。
それに今日はメアの魔力測定の日なのだ。余計な心配を掛けたくはない。
ソレルにはエルフの出稼ぎの件はまだ相談していない。俺が主導権を握ってから、色々な生物の長が挨拶しに来てくれているらしい。中にはこの村の発展に手を貸す代わりにこの村に住んでも良いかと交渉する種族もいる。その中に俺が森で迷った際に変身魔法をてもらったモンストールの長も紛れていたので、ちょっとしたお礼で俺は許可を出した。
とりあえずメアの測定場所に移動するか。そろそろ注意事項の説明が終わってる頃だと思うんだが。
「お~い、メア!注意事項の説明は終わったか?」
俺が遠くから手を振るとメア専属のメイドが駆け寄って来た。どうやら既にメアの魔力測定は行われたらしい。(先に俺が結界張っといたかららしいが)そして一番最高の魔法を撃ったら機械が作動せず、ランクと数字が出ないという事だそうだ。
「俺が新しいく改造したからそんな簡単に壊れるとは思えないんですけど…」
「それが…数字らしきものは出ているのですが私達の知らない文字なので…」
おかしいな。メアたちの世界の共通語に合わせて調整したんだが…進化の時と同時に古エルフ語以外の共通語は読めるようになったはずなんだが…
俺は確認として機械の方に駆け寄った。メアには一旦休憩しとくように言っておいた。
数分後、俺はランクを確認した瞬間に石の様に硬直した。先に教えておくが、魔力測定をする上でランクは10段階ある。一番下からウーヌス、ドゥオ、トレス、クゥアス、クィンケ、セイルス、セプテム、オーダム、ノウェム、デケムという名称で呼ばれている。
その中でデケムに辿り着くのは侯爵級天使の中でも最古参の天使のみである。何ならセプテムに辿り着くのだって常人にはほぼ不可能と言っていいぐらいだ。なのに、メアはたった一発でオーダムである。しかも希少価値がある魔法の統合技だ。
「あの~センテルさん?あの俺が確認した結果ですよ?驚かないで聞いてください。メアさんの魔法ランク……オーダムです」
しばらくの間俺とメアの専属メイドセンテルに沈黙が流れた。30秒ぐらい経った時に動いたかと思えば、センテルさんが魂が口から出て後ろに倒れた。
メアが急いで駆け寄って魂をセンテルさんの口に突っ込んでるが多分驚きで気絶してる。俺も気絶したいぐらい驚いてるんだがな。メアの前だし大人っぽく振舞わねば!とか言う子供みたいなプライドで何とかなった。
メアが流石に何かを察したのか俺に聞いて来た。
「アイオン様、メアが魔力測定器を壊したから怒ってる?」
どうやら自分の魔法が変なところに当たって壊れたと思っている様だ。
「あ、そういう訳じゃ無くてだな。メアの魔法が予想してたよりも遥かに上回ってたから驚きと嬉しさでセンテルさんが気絶したんだよ。数分後には驚いて口から出て行った魂も一緒に戻ってくると思うよ」
ちょっとした冗談を混ぜて場の空気を取り戻した。メアは安心したかのように少し笑った。まあ何とかなったな。泣きださなくて良かったよ。
しっかし、これ、ソレルになんて話せばいいのやら…ソレルは前も言った様に姪馬鹿なのでメアがオーダムだと知った以上、気絶するだけじゃなく、そのままメアの両親の元に報告に行ってしまいそうな勢いになりそうである。それは流石に不味いので魂が抜けないように結界を張っておかねば…
数分後、センテルさんの目が覚め、状況をもう一度詳しく説明した。もう一度魂が抜け掛けそうになったがメアが魂を掴んだので問題はなさそうである。
「にしても、お嬢様にこのような才能があるとは思いませんでしたわ。主の才能を感知できなかった私はメイド失格ですわね」
センテルさんはメアの才能をリスクと天秤にかけてまで諦めさせる事を選んだのだ。別に悪い事ではない。主を守ろうとするのは立派な心掛けだと俺は思う。
「大丈夫よ!センテルに心配されないぐらいに私はこれから、もっと強くなっていくんだから!」
メアはこの通り前向きでポジティブである。これならこの二人の関係は崩れることは無いだろう。
さて、俺はソレルに渡す報告書を何とか作らなければならない。これまた胃が痛くなる作業である。メアから直接言わせようかとも考えたが、そっちの方がダメージが大きそうなので書類で書く事にした。
余談だが、結局ソレルはセンテルの様にぶっ倒れて寝室送りになった。メアの事を溺愛しているのは知っているが、これ程までとは。結構文章の書き方には気を付けたんだが、それでもダメージを抑えることはほぼ不可能であった。
翌日、メアは流石にオーダムに相当する魔法を使用したためか、少しエセンス粒子が不足していた。まあ少しだけなので筋肉痛程度で済んでいたので、問題は無いだろう。
そう言えばよくファウラも適当に大技をジュラに向けてぶっ放して一週間ぐらい筋肉痛でベッドから起き上がれなくなってたな。ジュラは勿論弟の技など効く訳ないだろうと言いたそうな涼しい顔で魔法を弾き返していたが、それはそれで凄い話である。
その後は書類決済や村の整備に関する費用や会議などでごった返しであった。ソレルが目の下に隈を作っているぐらい徹夜で資料を作成していたらしい。
こう言うのはサッフォーが殆どやっていたが、隈なんて作っていなかったのでサッフォーの事務能力の凄さを改めて思い知った。
サッフォーはお嬢様口調で何でもかんでも完璧にこなす完璧天使だったが、恋愛にだけは疎く、ルアが向けていたサッフォーに対する好意も全て気づいていなかったので、ルアが不憫で仕方なかった。
ルアが勇気を出して渡した赤色の薔薇もただのプレゼント程度にしか考えておらず、ルアが一週間ほど部屋に引きこもってしまったのを俺は今でもよく覚えている。
赤薔薇の花言葉は「愛情」とか「美」とかで、プロポーズとかでも使われる有名な花だが、勿論サッフォーがそんな事を考える訳もなく、失敗に終わってしまったのだ。何ともまあ悲しい話である。
そんな訳で俺はいつからかルアの失敗談を見たり聞いたりする度に、両想いのくせに告らないのは勿体ないと思うようになった。天使は全員永遠の命を持っているが人間や下界の生物は大抵は寿命があるのだ。だから、告れるうちに告ってしまえばいいと思うし、別に振られたって良くね?とも思ってしまうのである。とりあえずは告ったって言う事実を作るだけでも十分な成長だと俺は思う。
まあ今まで告った事が無いお俺が言うのもあれだけどな。…いや別にモテなかったとかそんなんじゃないしぃ?俺が好きになった奴がいなかっただけだしぃ?いつもなら最後に認めるが、これだけは絶対に認めないからな!仮に認めるとしても俺が告白して成功した時にだけだぞ!分かったな!?
…あの二人今はどうしてんのかなぁ~どうせサッフォーはまだ気づいてないんだろうし、ルアは諦めが悪いからプレゼントを渡すだけになってきてるんだろうなぁ
懐かしい、だが今の俺にはもう関係のない事である。俺はこの堕天使生活をエンジョイすると誓ったのだから、今更未練ったらしく二人の関係に悪態を突くつもりは無い。
まあアウラスになら言いたい事は沢山あるんですけどねぇ!?アウラスの奴め、ロイがやったって言ってんのに、何で俺が転生しなきゃならないのか意味分からん!サッフォーやルアにも挨拶しないで転生してきちゃったって言うのに!
…そう言えばあの二人の出張とロイの襲撃時が滅茶苦茶被っていたが、偶然か?
確か、ロイの対になる天使はルアだったか。ルアが近くにいて巻き込まれたら大変だし、サッフォーが死んだりしたらルアも後を追ってしまうだろうしな。…いや、まあ偶然だろうな。これ以上深く考えるのはやめておこう。俺はもう、天界とは関係のないムーンデッドウルフのアイオンなのだから。今更考えたって時間は元には戻らない。変えてしまえば全ての生物に影響を及ぼしてしまうしな。
それに俺にはもう、新しい仲間たちがいる。昔の仲間の事は気にする必要はないだろう。
そう言えば、ルアとサッフォーって昔人間界に行ったときにお揃いのブレスレットを買ってたな。確か、ゼラニウムの花の形をした宝石がつけられてるんだっけ?花言葉は「尊敬」や「信頼」だったか。確かにあの二人らしい花だな。
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あれから二週間ほどたったのだろうか。既にルアとサッフォーは中央都市に到着していた。二人とも目に隈を作っているが最早その中に疲れは見えない。
夜の目立たぬ裏路地に身を隠し、情報の確認を行っている様だ。
「さて、まずは何から始めるべきか。アウラス様に正面突破を挑んでも、まず敗北するのが目に見えてるな」ルアがサッフォーに向けて路地裏で話しかける。
暫くの沈黙の後、サッフォーが口を開いた。
「そうですわね…ジュラからの伝えたいことは分かりましたが、実際に何をすれば良いのかまでは分かりませんでしたわ。当の本人もどこにいるのか分からない状態ですもの」
「そうだな。一番真相を知っているジュラ自身が行方不明になってるんじゃ何も確かめられない。ユラやアイラに近づいて情報を流すのはリスクが高すぎる。しかもジュラの喋り方からして二人には話してないんだろう」
「その様ですわね。ジュラもアウラス様からの目を逃れて告発動画を作るのは中々の至難だったと思いますわ」
「なら、どうする?アイオンやファウラは既に下界に転生しちまってる。連れ戻そうにも、一度転生の門をくぐった天使が天界に戻ってくる事など前代未聞だし、前例も聞いた事ない」
「そうですわね。それにアウラス様の真の目的もまだ分かっておりませんし、色々と面倒ですわよ?」
そりゃ分かってるんだが…という顔でルアは思考をめぐらせるが、中々良い案が思いつかない。
「苦肉の策だが、俺たち自身が下界に降りるって言うのはどうだ?どちらか一人でもアイオンかファウラに情報を伝える事が出来れば、少なくとも共有者は出来る」
確かに苦肉の策である。下界に降りる事ができる天使はアウラスから許可を得る必要があるのだ。
「本当に苦肉の策ですわね。しかし、アウラス様の許可が無ければ下界に降りる門には入れませんわ。そこはどなさるおつもりですの?」
グッと言葉に詰まった。発想はあながち間違ってはいないのかもしれないが、突発的な考えだったため、細かい所まで思考が至っていない。
「そ、それはだな…つまり強行突破?だってほら、アウラス様って夜は絶対に起きないじゃん?」
明らかに目が泳いでいる。本当に何も考えていないような目である。
少しため息をついた後にサッフォーが口を開いた。
「確かにアウラス様は絶大な力を得る代償として決められた通りに行動しなければ罰されてしまいますけど…まあそれ以外に方法はありませんわね。でも、他の天使はどうされるのかしら?アウラス様専属の天使は沢山いるでしょう?」
「確かに彼等はそう言う重たい制約は受けていないが…アウラス様の指示や命令が無い限りは動いている様子を見た事が無いぞ」
「あら、随分と頭が回っておりますわね。突発的な考えだったとしてもかなり良い考えで御座いますね。少々見直しましたわよ」
「俺だってやる時はやるんだよ!だが、ジュラからの連絡がない以上単独行動って事になる。それにジュラもアウラス様の傘下に入ってしまったとなればかなり面倒くさい事になりかねんぞ」
「つまり、最悪はどちらか一人しか下界に渡れない可能性があるという事ですわね?私が残りましょうか?少なくとも貴方よりは顔が聞くと思ってるんですけど」
「余計なお世話だ。だが、俺の場合は仮に二人に会ったとしても上手く説明することができるか不安だ。それに今回襲撃してきたのは冥界王ロイだ。ロイの対になる天使はこの俺だ。つまり俺が天界に残った方が狙われるリスクが少なくなるはずだろ」
「確かにそれはそうですけども…他の魔王が動かないとも限りませんわよ?大体、ロイが単独行動なのかもはっきりしていませんし…」
「それはそうだが、このままジッとして放って置く訳にもいかないだろう?」
この言葉に押されて結局、サッフォーが根負けした。(本当に筋肉馬鹿ね。まあそういう所は嫌いではありませんが。まあルアの言う事も最もですが…下の者を守れなければ上の者は意味がないですものね)
「分かりましたわ。分かりましたよ、ルア。私の負けですわ。しかし、命の危険性もありますのよ?仮に失敗すれば本当にアウラス様に存在を消されかねないですわ。私としては反逆者になるのは好みませんが、それが正しいとも思ってしまうのですよ」
「まあ、お前の心配はもっともだ。一歩間違えればアウラス様の怒りを買って存在すらなかったことになるだろうな。だが、俺はジュラが命を懸けてまで繋いでくれた話をなかった事にはしたくない!」
「…全く、そういう所ですわよ。まあ良いですわ。貴方は昔から決めれば一直線ですもの。今更ひき止めたりはしませんわ。私も貴方のパートナーとして恥ずかしくない振る舞いで完璧にサポートして見せますわ!」
サッフォーの宣言にルアは少し顔を和ませて
「ああ、そうだな。長年付き添ったパートナーだし、俺もお前を守れるように尽力を尽くすさ。さて、それじゃぁ一旦寮に戻るか。必要時以外は普段通りの振る舞いをする。今後、一週間以内に行動を起こさないとアウラス様の目が光って来るだろうしかなり急ぎ足になる」
「分かりましたわ。私も出来る限り情報を集めて知人にも聞いて回ってみます。断片的でも良いのでアイオンが堕ちた世界が分かれば下界に行く門の条件絞りが楽になりますので」
「分かった。俺の方ではジュラの行方を探ってみる事にする。アイツがいた方が安心はするが、仮にアウラス様に捕まってるとなると相応の覚悟がいるだろうからな」
お互いが調べる情報を確認し、二人は自然な話題で寮に戻る。アイオンの情報を調べるサッフォーにジュラの行方を探るルア。
どちらも茨の道だが、真相を確かめるためであれば手段を択ばないのが二人の性格である。
暗い夜の中で二人が一緒に買って以来、外していないゼラニウムの宝石が嵌められているブレスレットが星の輝きを反射して綺麗に光った。まるで、二人の信頼関係が崩れる事は一生無いとでも言いたそうに光ったのは気のせいだろうか…




