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二つの問題

魔物として転生した俺、元侯爵級天使のアイオンは今現在二つの問題に直面中である。

一つ目は転生先の森にて完全に、完全に………迷子になってしまったのである!!!!


前回の俺はエセンス粒子を取り込むことにより、五感を回復する所までは成功した。それもあの親切な蜘蛛形モンストールのおかげである。名前を聞きそびれてしまったが、記憶力だけは無駄にいいので顔や性格などははっきりと覚えている。今度会ったときアイツの家族にも挨拶をしておこう。

しかし、今はそんな挨拶をできる程悠長なことを言ってられる状態ではないのだ。あれから一週間、色々散策している内に元の場所に戻る事が出来なくなってしまったのだ。


何たる失態、元侯爵級天使として恥ずかしい!他の侯爵級天使がいたら腹を抱える程笑っているだろう。そう言えば、俺が転生の門に堕とされた時ジュラの叫び声が聞こえたが気のせいだろうか?アウラス様がそれに対して怒鳴っていたが…まあ今の俺にとっては関係のない話である。


それに魔物として転生した俺は神アウラスの庇護下から外れ、魔に属する事になった。神アウラスは魔物を作る事は出来るが、魔の属性の能力を使う事は出来ないのである。

それこそが、唯一神であり全知全能のアウラスにも出来ない唯一の欠点だ。なので俺としてはいい加減「様」と敬称付で呼ぶ事自体が馬鹿らしいと感じるようになってしまったのだ。

元々、忠誠は誓っていたがルアやサッフォーみたいに命じられたことを完ぺきにこなすような天使ではなかったので大した悔いもないのである。

そんな訳でこれからはアウラスの話をする事も殆どないと思うが、アウラスの事を敬称付きで呼ぶのは止めようと思う。自分を堕とした奴を敬称付きで呼ぶ奴の方が物好きだと俺は思うがな。


そんなことは置いといて、問題はどうやってこの森から抜け出すかという事だ。この森はかなり広い。俺の感知能力でもギリギリの範囲である。そう思うと侯爵級の天使の力とは思っていたより弱いのだ。技や能力の研鑽を怠った事を今更後悔してしまった。まあ俺には後悔という言葉は必要ないがね。


そして、二つ目の問題である。

二つ目の問題は、能力の開花と確認の方法が分からない事なのだ!

約一週間、森の中を歩き回って他のモンストールにも会ったが、全員何かしらの能力またはスキルと呼ばれる力を持っていた。だが俺は転生してからは一度も使っていないのである。使っていないというより、まずまず持っていないのかもしれないが確認は必要だと思っている。だがーーー

「だが、確認する方法が分からないのだ~!!!!!!!」

…少々取り乱したようである。思わず発声器官を利用して大声で叫んでしまった。周囲のモンストールが若干引いている様子だ。咳払い一つで何とか誤魔化そうとするも、完全に無理な話である。


とにかく、方法が分からない以上誰かに聞くしかないと思うが、他のモンストールに聞いたって無理なのだ。理由は彼等、モンストール達は能力やスキルを発動する際に何かに集中しているわけではなく、本能や癖として身に付いてしまっているのだ。

元侯爵級天使の俺は努力することでスキルや能力を開花させたが、モンストール達は必ずコルペタールスキルと呼ばれる種族特有の能力やスキルを持って、この世に生誕する。その為、天使の様に努力をしてスキルを身に付けている訳ではないのだ。

なので天使たちの様に、目に見えるような級やランキングがある訳ではなく、生まれつきの格差という物で絶対的にな強者と弱者で分けられれているのだ。

まさに弱肉強食の世界である。


だが、そんな事に気を留めていても、それがこの星や宇宙の絶対的な真理やルールであり一個人がどうこうしようと思ってどうにかできる話ではないのである。

それが出来るのであれば俺だって神アウラスに変わって堕天使の転生制度なんざ無くしてやってるさ。

それが出来れば苦労はしないという物だ。

なのでアウラスの我儘に付き合わされていてはこっちの身が持たんのだ。


だから俺はのんびりと天使生活を送っていたいだけだったのにな……ん?ただ怠惰な生活を送りたかっただけじゃないのかって?仮にもこれでも侯爵級の天使だったんだぞ?そんな訳ないだろう……そんな訳………

はい、申し訳ありませんでした。確かに怠惰な生活を送っていたいだけでした。

誰もいない所で土下座をしている(しているつもりの)俺。誰かツッコんでよ!と心の中で叫んだのは墓まで持っていくつもりだ。


さて、大分話が逸れてしまった。二つの問題のうち、一つは何とか出来るがそれをする為にはどちらにせよ、この森から出なければならないのに変わりはないのである。

解決できる問題はスキルや能力の確認と発動だが、この世界には言葉が通じ、努力で能力やスキルを得ている存在がいる。その名も「人間」神アウラスが一番最初に作った地上に存在する生物の事である。


俺も何度か地上に遊び…じゃなくて視察で来た時に人間を見たことがある。女性と男性と言う「性別」という概念があるらしいが、俺たち天使からしたらどうでも良い話である。

俺たちは顕現するために形を作らなければならないが、一番動きやすいのが人型なのである。そのため体のつくりを人間に模すために「女性型」や「男性型」とあるが、本来俺たち天使には性別と言う概念は存在しないのだ。

ちなみに俺は「中性」と呼ばれる型にしており、どちらの性別にも属さないようにしていたのだ。どこかに属するのは俺の性分には合わないのでな。


まあそんな話は置いといて、とにかくその人間と言う生物に干渉するのが一番いいと感じたのだ。俺たち天使と同じような方法でスキルや能力を獲得しており、尚且つそのスキルを自由に扱う事が出来る存在をこの俺が見落とす訳がないだろう!


…だが問題はここからなのだ。人間は本来、町や国と言った大規模な場所に存在している。人間は群れて行動するのが好きなのだ。俺もルアやサッフォーに頼りっきりだったので人の事は言えないのだが…

見た所この森にはモンストールは住んでいるが、人間やエルフと言った人型の生物がすんでいる様子は全くない。ゼロと言ってもいいぐらいだ。それ程までにエセンス粒子の濃度が濃ゆいのだ。


エセンス粒子はすべてのエネルギーの原動力だが、浴びすぎたり使い方を間違えれば大きな災いの元になってしまう。人間たちは同じような事を何十回も繰り返すことでようやくこの事を理解したのである。

なのでエセンス粒子に対して慎重になり始めたのはつい最近の事なのだ。

と言う訳でこの森には慎重さを欠いた頭の悪い人間達以外は入ってこないのである。

ちなみに、先程からエセンス粒子の純度を測ってみたのだが、ここの森は純度100%がエセンス粒子のエネルギーによって動いていることが分かった。

全く、転生してから驚く事ばかりである。エセンス粒子がこれほど濃ゆい場所は天界でも見たことがない。それ程までに稀で希少な場所なのである。


なので俺は人間たちが住んでいる町や国に行くために、この森を抜け出さなければならないのだ。そしてこんなモンストールが人間の大通りを闊歩していれば、すぐに衛兵によって駆除されてしまう。

なので能力やスキルを持っていなくとも、変身術の類は必ず獲得していなければならないのだ。

だが、しかし!その話はすでに解決済みである!


実は先程から話をしながらずっと歩き回っていたのだが、変身術が得意なモンストール「オイセユ」と呼ばれる鳥魔獣の棲家を見つけたのだ。

その棲家の主に脅し…じゃなくて頼んで、変身術を掛けて貰ったのだ!!

どうやら俺のムーンデッドウルフとしての姿が関係している様で、紅い目に銀の髪に黒メッシュを入れた人間でいう10代の少年になっている様だ。何故か耳にはイヤーカフがされているが、大して気にする事も無いだろう。半ば強引な手段となってしまったが、まあ許してくれ。

ついでにオイセユからこの森の抜け道を教えてもらって、森から出る事ができるようになったのだ!

いやぁ~話が分かるモンストールは良いねぇ~!それともただの俺の人望の厚さかな?


そんな冗談はさておき、教えてもらった抜け道をたどって森を出る事にした。

オイセユの話からすると、この方角を南南東に向かって15㎞進むと、森の出口に繋がる小道が現れるとの事だったので素直に従って進んでいく。

ムーンデッドウルフはスピードに長けているモンストールなので、15㎞なんて訳ないのだ。人間からしたら移動手段が馬車が殆どなので相当気力がいるだろうがな!


変身術の解除の仕方と発動の仕方だけを教えてもらったので、変身術は会得した様なものだろう。

なので出口の小道までは、ムーンデッドウルフの本来の姿に戻って走って行こうと思う。最大のスピードは音速を超えると言われているが、扱うのが難しいので長年生きているムーンデッドウルフ以外は使う事はないと言われているな。


俺も慣れてないので少しゆっくりめに行こうと思う。いや、別に怖いとかそう言うのじゃないしぃ?別に怪我して格好悪い所を見られたくないとかそう言うのは全然ないですけどぉ?とにかく、俺は安全に移動したいの!見栄張りたいとかそう言うのじゃねぇから!勘違いすんなよ!絶対だぞ!


…俺はさっきから一体何に怒ってるんだろうか?少々馬鹿らしくなってきた。まあ良いさ。起源と取り直してサッサとこんな森を脱出してやる!

えっと~この変身魔法の解除ってどうやるんだっけ?さっき教えてもらったばかりだってのに!くっそ!あ、ここイジったら別の術式になって失敗した!だ~もう!イライラする!


記憶力が無駄に良いと言っていたのは何だったのだろうか。それから約一時間みっちりかけて解除の方法を思い出したアイオンであった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

サッフォーとルアが天界の中央都市に向かって、走り出して約二週間経った。二人は一日中走り回って、5時間だけ近くの村で食事や仮眠をとる、と言う無理な生活を二週間続けていたのだ。


天界では、他の宇宙や星の時間と違って、地上の時間帯の二倍で進んでいるのだ。と言っても時間の感じ方は殆ど一緒と言っても過言ではないだろう。神アウラスの特殊結界によって、時間の差が二倍となってしまっているだけなのである。


おかげでルアの癖のある、髪はいつもよりボサボサになっており、赤色の髪が炎の様になっている。

サッフォーは美しかった顔がゲッソリしており、目の下には隈が出来ている。それでも威厳を失わぬよう、話しかけてきた他の天使たちには笑顔で対応するというプロの精神を見せていた。


二人とも相当なストレスに追われながらも、立ち上がって中央都市を目指すのは不屈の精神と言えるだろう。


本来ならば地方の都市から中央都市に行くには場所にもよるが、最低でも4週間はかかるのである。しかし、現在は技術が進み行きだけであれば転移魔法で移動することができるようになっていたのだ。

問題は帰りである。技術が進んでも地方の都市に転移魔法の術式を組み込むのは相当な時間や費用が掛かる物であるため、検討されてる最中なのだ。


五時間後、再び二人は地方の村を出て走り出す。ジュラが任務後の二人に送ったポテルションの内容。二人は無意識にアイオンが誰かの陰謀によって堕とされたと感じ取っていた。ジュラが送った映像は約30秒の短い時間だったが、古参の侯爵級天使の二人にとっては十分すぎる情報量だった。


ジュラが送った相手がルアとサッフォーだったのは、ユラとアイラの様にまだ新参者の天使に伝えても混乱し別の天使に情報を漏らす可能性があると感じたからだろう。他にも妹たちには荷が重すぎると長男なりに考えた節もあったのだろうが、そんな事を一々伝えてる暇はない。

ルアとサッフォーであれば自身の考えを30秒と言う短い時間の映像で的確に伝えることができると思ったのだ。

案の定、ジュラの予想は当たっていた。普段はほのぼのとした二人だが、任務の時などは誰よりも真面目に完璧にこなす、古参の侯爵級天使の名に相応しい天使である。


だが、そんなジュラでも短時間でアウラスの監視から外れて動画を作るという難関を突破したばかりだったため、二人の移動時間まで頭に入れる余裕などなかった。

ポテルションが二人に届くまでは良いが、移動するときに四週間も時間が必要なので、伝わった後に二人が間に合うかどうかも分からない状態だったのだ。

そんな中でも愚痴も言わず行動することができる二人はまさに天使の鏡ともいえるだろう。そのような性格を知っていることもあってジュラは二人に自分に何かあった時に後任を任せるつもりであった意図が読めるだろう。


「なあ、サッフォー。ジュラの意図は読めたか?」

しばらくの間会話がなかった二人の間にルアの声が響く。


「…私は私なりに意図を読み取ったと思っておりますが?」体力を使わぬよう極めて短く返事をする。


「それなら良いんだが。ジュラの奴もかなり回りくどい事をするよな。長男で苦労しているのは分かるが四週間の移動距離を二週間で終わらせようとする俺たちの身にもなってほしいものだ」


「それは同感ですわ。それにポテルションを送ってきただけで自身の行動については一切触れないんですもの。わざと私たちを焦らせているようにも思えますわ」


「否定はできないな。俺達を信用してくれるのは嬉しいがせめて、俺達が任務から帰ってきた後に相談してから行動してほしいもんだ」


約二週間で溜まっていた愚痴が一気に口から溢れ出る。言葉ではジュラに文句を言ってやりたいと思っているように聞こえるだろうが、本心ではジュラやユラ、アイラを心配する気持ちも相まっているのだ。


「アイオンの野郎も勝手に堕ちて転生しやがって…お前がいなくなったらアウラス様の私物を誰が直すんだよ」冗談のつもりらしいが、目に少し涙が溜まっている。


「本当ですわ。少なくとも私たちが見てきたアイオンは、同胞である天使を襲うような性格ではありませんでしたわ」


「しかも、ジュラからの伝言を見る限り魔王が関係している様だな。冥界王ロイだろう?」


「その様ですわね。私としては冥界王と呼ばれる程の強さを持つ悪魔がどうしてアウラス様の結界を通り抜けることができたのかが不思議だったのですけれど、ジュラの話を聞けば辻褄が合いますわ」


「そうだな。ファウラがアウラス様によってわざと堕とされたという話もあながち嘘ではないだろうな」


二人とも敬愛するアウラスが、同胞で同格の侯爵級天使をわざと堕としたという話を信じたくなかったのだ。しかし、その話が嘘だとしたらどうしても辻褄が合わない部分が出てくる。

その事を考慮するとその話を信じること以外は出来なくなった。


「ジュラの言葉を確かめるためにも私たちが堂々と前に立つしかありませんわ。覚悟はできているのでしょうね?ルア」

その言葉を聞いた瞬間、ルアは少し驚いたような顔をした。それから鼻で笑って

「ハッ!誰に言ってんだ、サッフォー。俺は…いや俺達は古参の侯爵級天使だろう?後輩を守るためにもな」

「…久しぶりに男前の顔になったじゃありませんの。良いですわ。長年連れ添ったパートナーとして信頼させてもらいますわよ!」


二人の心に焦りや不安はなかった。信頼できるパートナーとの再確認ができただけでも、力を最大限に発揮する準備ができたのだ。中央都市にて真実を確かめるべく二人は覚悟を決めた。

二週間ぶりの更新です。遅れてすいませんでした。火曜日の19日に一気に更新しようと思いますので、頑張ります

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