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天使生活の終わり

ビデオテープが再生される少し前、ルカはちょっとした説明を子供たちにしていた。教師も生徒と一緒に聞こうと準備をしている。

「今から見るのは物語風に言うと第一章に当たる部分だ。今日は第一章まで見て終わりにしたいと思うよ。第一章はアイオンが天界で転生したすぐ後の慣れない転生生活を見ていくよ」

 子供たちとしては第二章の内容まで言ってほしいものだが、面白くなくなると感じたのか誰も聞くことは無かった。流石、小学6年生にもなってくると聡い子が増えてくる。ルカはそれもわかっていてこの学年を選んだのだろうか。話がうまく進むように。

そうこうしている内にビデオテープが再生され始めた。子供たちの目は大きく見開かれていて、瞬きをする回数が増えてきている。

「それじゃ~始めるよ!静かに聞いていてね。字幕もあるからね。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

はるか昔、アウラスが天使たちのために創造したと伝えられている「聖天楽園」外国では「パラダイスアンジュ」と呼ばれることもあるそうだ。

ここでは天使のみが住んでおり階級分けをされている。上から順に「侯爵級」「上位級」「中位級」「下位級」かなり分かりやすいざっくりとした分かれ方だ。上の階級に行くほど待遇がよくなり、力も強くなっていく。ランク付けもあり、自分より2つ上のランクの天使になら勝負を持ち込み、勝利したほうがランクが上となる。勝負方法は毎回変わるので、対策もかなり面倒だ。

しかし、どんな天使も目指すのは上位級までであり侯爵級ではない。なぜなら、侯爵級には7名限定となっている。また、アウラスに認められるほどの実力と知能が必要となる。侯爵級に入る天使は、不思議とランキングには固執せず、自分の能力の研鑽だけを行ってきている連中だった。

天使たちは一見おっとりしているような性格を想像するだろうが、そんなことは無く、ライバルを蹴落とそうとする欲望に染まった天使たちが多くいる。

侯爵級の天使たちは東棟と西棟に分かれて住んでおり、東棟は古参の天使たちで、西棟は四兄妹の天使たちが住んでいる。西棟ではいつも喧嘩が起き、東棟が毎回止めに行くというのが毎日の恒例である。

いつもの恒例、それが侵されたのは60000年前という惑星ルーダに人類が生まれるより前の話だ。一人の悪魔王「ロイ」と呼ばれる魔王の一人によって天界の秩序は乱された。


宇宙には七人の魔王がいる。七大聖大天使とは対になる存在で、どちらかが一人消えれば同じようにもう片方も消えるようになっている。寿命で亡くなった場合は新たなる後継ぎが出来るが、そのような事例は殆どないに等しい。そのため、魔王はお互いが消えないように牽制しあってきた。だが、今回ロイが動いたことにより事態は大きく変化する。事件が起きる少し前、アイオンが拾った猫からすべての歯車が狂いだしていった。


西棟の朝は末っ子のファウラと呼ばれる天使の寝坊から始まる。

大きな欠伸、アイマスクをつけた状態で兄妹に起こしてもらう。

「ん~!おはよ~今日も良い匂いがするな~ねえねえ、ジュラ、今日の朝ごはん何~?」毎朝こうだ。

は~という大きなため息「いい加減自分で起きれるようになれ!ファウラ、俺はお前の家政婦じゃないんだよ!」怒鳴りつけながらも起こすのは長男のジュラである。

「まあまあ、そんなに怒らなくても良いじゃん。偶にはのんびりしようよ~」大きな伸びをしながら助言をするのはユラと呼ばれた次女である。

その隣で小馬鹿にするように笑っているのは「そんな風に毎回怒鳴るから怒られるんだよ。学習しねえ奴だな~」アイラと呼ばれる長女でジュラとは双子として生まれている。が、反りが全く合わずこの会話の後は毎回喧嘩をする羽目になり、アイオンたちに怒られるというルーティーンが出来ていた。

だらしない末っ子、マイペースな次女、馬鹿にはするも手伝いはしない長女、怒りながらも助ける長男

この性格のおかげで毎日何とか乗り越えてこれたと言っても過言ではないだろう。

続いて東棟のアイオンたち

「今日もうるせぇなあ、西棟の奴ら。全然学んでねぇ」つまらなそうに机に脚を放り出し、睨むような眼で見るのはルカと呼ばれる天使だ。

「まあ、良いじゃないですか。あれも若気の至りというものでしょう?」優しく、しかし自分の意見を主張するのはサッフォーと呼ばれた天使。

「うるさいのは結局こっちも一緒だろ」ギリギリの調整で上手く躱すアイオンである。

「聞こえてんぞ!アイオン。にしても、そういう考えが相手を付け上がらせるんだぜ?サッフォー。アイオンも行って来いよ!怒ったお前を相手にするのは俺らでも骨が折れるぐらい面倒なんだからよ。」

「あら、その様な考えを野蛮と呼ぶのですよ?ルア」西棟でも見えない火花がバチバチ打ち合っている。

そうこうしている内に東棟の方から物が壊れる音が響いた。ゴォン!という鈍い音が侯爵階級の階層に響き渡った。

「またか。アウラス様の私物を壊していなきゃいいが、無理だな」なぜか、アウラスは自身の私物を侯爵階級の天使たちの階層に置き去りにしているのだ。そのため、東棟の連中が暴れるたびにアウラスの私物が一個、また一個と壊れていくのである。

そして、それを修理しているのがアイオンたち西棟の天使たちだ。ルアもサッフォーも流石にアウラスの私物を壊したまま見て見ぬふりはできないのだ。

「おいおい、またかよ!そろそろ俺も我慢の限界が来そうだぞ!」

「そのようですね。今回もアウラス様の私物を壊されたのでしょう。そろそろ止めに入らなければ怒られるのは私たちですわ」

チッと小さく舌打ちをして「仕方ねぇ。アウラス様に怒られる方が面倒だからな。行くか。おい、アイオンお前も行くんだろ……って猫に夢中になってるんじゃねぇ!」

完全に思考を停止して猫じゃらしを持って猫と戯れている。子供の様だ。

「後の事はルアとサッフォーに任せる!頑張ってくれ!俺はもう疲れたから猫と遊んでる!」

その宣言は侯爵階層の一つ下上級階層まで聞こえる程の大声で、上級天使たちが困惑し始めていた。

そして一番最初に叫んだのは「はぁ!?何だその、絶対さぼります宣言は!」勿論ルアである。

「アイオン、それはさすがにアウラス様も怒りますわよ」

「だってさ~よくよく考えたら、アウラス様が私物を置いて行かなきゃいいじゃん?何で僕が後片付けしないとなのさ」正論ではある。だが、アウラスを否定しているようなものだ。

「いや、まあそれはそうなんだが…」流石のルアも正論を言われて叫ぶほど馬鹿ではない。

「仕方ありませんわね。アイオンの時空操作の能力がなければ修正は不可能ですわ。アウラス様の私物は特殊なものばかりですもの。今回はアイオンの機嫌が直るまでは無理ですわね」サッフォーはアイオンの能力を高く評価している。それ故にアイオンが駄々をこねる程、アイオンの行動に対して激甘になっていくのだ。結局、アイオンの能力に丸投げをしているのが外から見てもすぐ分かる光景である。

夕方、結局アウラスが帰ってきた後に侯爵級の天使たちは全員、怒りの鉄槌を喰らった。

サッフォーとルアは疲労の色が目に滲み出ている。ジュラとアイラはまだ口で喧嘩を続けている。アイオンは正座をしながら膝の上に黒猫を乗せている。アウラスもその光景によって毒気を抜かれたように、怒りを収める。これも毎度のことだ。

その翌日、いつものように西棟の方で喧嘩をしている騒音が聞こえた。しかし、今日は東棟の方は騒がしくない。ルアもサッフォーもアイオンが連れてきた猫に夢中になっている様だ。アイオンに限っては論外で、猫耳を付けて逆に猫が猫じゃらしを持って遊んでいるという主従関係が逆転していた。しかし、ルアもサッフォーもそれを止めるつもりは毛頭なく、むしろ愛嬌のある動物を可愛がっているように見えた。三人はこの猫をルサンと名付けた。それぞれの名前の一部をとって付けたようだ。というか、それ以上の名前を思いつかなかった様子だ。


翌日、猫が肥大化している。翌々日もさらに肥大化が続いた。一週間経っても肥大化は続く。流石にアイオンもおかしいと感じたのか、ルアやサッフォーと相談を始めた。

「一週間経っても肥大化が収まらねぇ。食事の量は制限しているし、同じ量を毎回食べさせてる」

「本当に不思議ですわね。地上の猫とはこのように肥大化を続ける体質なのでしょうか?私は聞いたことも見たこともありませんわ」

「どこの惑星の種類の猫なのかも分かんないからな~動物に詳しい天使って誰だっけ?」

「それでしたら、ファウラが詳しかったはずですわ。動物や植物が好きでよく私に植物の種をくれと頼んできますからね」

「結構意外だな。あいつにだらける以外特技があったとは初耳だったぞ」

確かにファウラは、仕事中も10分経てば寝てしまう程、怠惰である。そんな天使が植物などという長期間の時間を要する生物の育成に手を加えてるとはだれも思っていなかった。

「俺も初めて知った~じゃあ明日ファウラに聞きに行こうかな~」

「それが賢明な判断でしょうね。私とルアは明日アウラス様に呼ばれておりますから、アイオン御一人という事になりますが…」

「アイオンなら大丈夫だろ。あっちに行けば、ユラやアイラ、ジュラもいるからな。問題は起きそうだが、いつもの事だろ」

ルアが言い放つと、サッフォーも納得したかのように頷いている。

「そうですわね。そこは四兄妹に任せましょう。あれでも侯爵級の天使ですしね」

子供のような四兄妹の天使だが、こういう時に限って信頼は厚いと言えるだろう。

その日は、一日中猫の観察に時間をかけた。夏休みの観察日記を書いている小学生の様だ。身長も小学5年生ほどの為、小学生に見えてもおかしくはないのだが…当の本人は特に気にしている様子はない。


翌日、朝食を食べているといつもは無言で食べていると、いつもは無言で食べているルサンが急にニャオ~ンと甲高く鳴き、黒い靄が体から滲み出た。

「ん?どうしたんだ?サッフォーとルアがいないから、不安になってるのか?」頭を撫でようとアイオンがルサンに触れた瞬間、光が消えた。その間に、ゴッ!という鈍い音が部屋の中に響いた。光がついた時、ルサンは視界から消えており、アイオンは何が起きたかも分からなかったが、とりあえずファウラの元へ向かった。

「ファウラ~今日はちゃんと起きてる~?約束の件で来たんだけど、覚えてた?」

「ん~アイオンか。覚えてたよ~ちゃんと待ってたじゃん」

この二人の口調は妙に似ている。会話を聞いていると親近感が沸くのは二人も同じだろう。

「猫の肥大化に関する事だっけ?本があったと思うからちょっと待ってて~」本棚があるリビングの方に小走りで向かう。

「今、ジュラが買い出しに行ってるから本を見つけるのが面倒だな~」独り言を呟きながら、ガサゴソと本棚をあさる。その後ろで、待っていてと促されていたはずのアイオンが大きな剣をファウラめがけて振りかざそうとした。ファウラが後ろを振り向いた時には自身の頭上の真上にまで剣が迫っていた。

避け様がない、そう確信した時、一つの影がファウラの元に飛び込んできた。跳んだ勢いで飛びついてきた人物と一緒に横に転がる。

「おい、ファウラ!無事か?」この口調、この声、ジュラである。

「イデ!」近くの戸棚に頭をぶつけ、渋い顔をする。微妙に涙目である。ジュラはそんな弟を横目に既に体制を整え始めていた。

「早く起きろ!次の攻撃来るぞ!」ファウラの裾を引っ張って無理やり立たせる。

「分かってるって!」素早く立ち、二人ともそれぞれ自分専用の武器を出す。ジュラは短剣と長剣のセット、ファウラは銃の先端に短剣が付いている特注の銃である。それぞれの色に合わせられて、本人以外には使えないようにカスタマイズをされている。

距離を取りながら、真っ先にジュラが叫ぶ。「お前、アイオンじゃないな?一体何者だ!ここには侯爵級の天使とアウラス様以外は入ることはできない筈だ!」純粋な疑問をアイオンの形をした何かに問いかける。

「嫌だな~僕はアイオンだよ?君たちの先輩のアイオンだよ」それを言われてしまえば、黙るしかない。ジュラとファウラの鑑定スキルは少なくとも目の前の人物をアイオンと捉えている。

「嘘言わないでよ。僕たちのスキルは、君をアイオンだと捉えてるけど違うよね?」

「何で断言できるんだよ?僕は紛れもなく声も、顔もすべてが僕なんだけど」

「だって、明らかに違う点があるんだもん!」その一言にジュラが目を見開き、アイオンらしき人物は目を細めて確かめるように口を開く。

「へぇ?じゃあ僕の何が違うって言うんだ?」

「アイオンって、自分の一人称は「僕」じゃなくて「俺」なんだよ。ゆる~い口調で一人称を「僕」って勘違いする人も時々いるけど、アイオンの一人称は紛れもなく「俺」だよ」

「た、確かに。アイオンは俺らが入ってきてから10000年は「僕」っていう一人称は使ってないぞ」

ジュラがファウラの言葉に上乗せするかのように虚を突いていく。

「クフッ!クハハハハハ!あ~まさかそこまで見抜かれてるとは思わなかったぞ!」アイオンと思われていた人物が豪快に笑い飛ばす。笑ってはいるが、圧が凄い

「一人称は確かに俺のミスだな。これからは気を付けよう。だが、そんな細かい所まで観察していたところは褒めてやるぞ!」

「そりゃどうも。こっちも一応、伊達に侯爵級の天使をやってる訳じゃないんでね」その言葉に一瞬ジュラが疑いの目を掛けたが、今はそんな場合ではない。

「まあそこは特に俺は気にしていない。今回は、運が良ければファウラだけを消すつもりだったが見られた以上、死体が増える羽目になってしまったな」今回は、という遠回しの言い方が気になったが細かい部分に耳を傾ける程余裕がある訳ではない。

「さっきから独り言ぶつぶつ呟いてて聞こえないんだけど!お前、名前は?」

「俺の名前か?俺は、冥界王のロイ・エンフェルスだ!お前ら侯爵級の天使と対になる存在と言われている魔王の一柱だ!」

「魔王、だと!なぜ魔王がここにいる!?ここはアウラス様直々の結界が張ってあるはずだ!」

ジュラが叫んだ瞬間に、ロイが放った覇気により後ろに吹き飛ばされる。

「五月蠅い。俺の耳元で天使が喋るな。汚らわしい」まるでそこら辺に転がっている石ころを見るかのような目だ。呆然と座りつくしているファウラの前まで迫る

「貴様には教えておいてやろう。俺がどうやってこの結界に入る事が出来たのか」

ファウラはロイを睨むが、戦う気力が残っていない。

「そう睨むな。俺がこの結界内には入れた理由はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーと言う訳だ」その言葉を聞いた瞬間ファウラの顔が青ざめる。聞かなかった方が良かった言葉だったのだろう。

「この宇宙は残酷だなぁ!いくら鍛錬したとて、才能には勝てんわけだ。今日は邪魔が入った。だが、目的は果たせたからな、ここでおさらばとしよう。また会おう」言い終わった瞬間に、アイオンの体から黒い瘴気が出ていく。力が抜けたようにアイオンは倒れこむ。


翌日、二人の侯爵級天使の殺傷未遂という事でアウラス直々の裁判が行われた。容疑者であるロイがいない以上、体への憑依を許してしまったアイオンの責任となる。ジュラとファウラの証言も虚しく判決は覆らなかった。ジュラはギリギリと歯をかみしめアウラスに抗議する。

「アウラス様!アイオンの罪を軽くしてください!少なくとも今回の件は堕天とまでは重くありません!」

「…今回は証拠が不十分過ぎる。冥界王、ロイの介入にサッフォーもルアもいなかった。新参者であるお主二人の意見だけではこの決定は覆らぬ」

力不足であることを遠回しに突き付けられ、言葉を返すことができない。現実は厳しいものだ。

「確かに、僕たちは力不足です。でも、アイオンの身体検査では冥界王が憑依した証拠が残ってるじゃないですか!」

「ファウラ、何度言えばわかる。この決定は覆らない。いい加減に理解しろ。現実は甘くない」

アウラスの言葉に合わせて他の天使たちが、転生の門リーナカーネイトゲートと呼ばれる扉が開く。その扉を通って新しく転生を果たす。他の天使の拘束により、素直にアイオンは門を通って行った。

「ですがーーーー」言いかけた瞬間に、アウラスから肩を押される。そのまま転生の門へと堕ちていく。

急な出来事に頭の整理が追い付かず、叫ぶ余裕もなく扉が閉まる。

閉まる直前にジュラがファウラへと手を伸ばしていたが、ギリギリのところで届かなかった。

ファウラの視点からは扉が閉まる直前、アウラスが一瞬笑った様に見えたが、気のせいだったのだろうか。転生の門をくぐってしまえば、天界の事を知る術はない。

アウラスの意図によってロイが招かれたとしたら、天使を傷つけるように促されていたとしたらーーー

どちらにせよ、堕とされたアイオンとファウラの二人に確かめる術はない。

不可解な事件のままこの件は終わった。誰もが追求しない禁忌の事件

その後の天界の事は誰も知ることは無かった。



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