第四十九話 真技覚醒(ネクストステージ)
「無駄話は終わりか? じゃあそろそろトドメ刺すぞォ」
突如、高笑いがウェルさんの隣から鳴り響いた。
「瞬間移動みたいなチート技です、ウェルさん!」
そうだ、あれを対策しないと勝ち目はないだろう。
どういう原理かは、恐らく『重力』に関係している。
「瞬間移動……ではありませんね」
「無意味な分析、お疲れ様ァ」
美麗なメイドは、重力の打撃を頬を掠めながらも飛んで躱す。
(ごめんなさい、リント様……。あの招待状が送られてきた時、わたくしは止めてあげられなかった)
身を案じ、手を握るしかなかったあの時を思い出す貸し部屋の管理人。
(任務中だったとはいえ、今こうなっているのは全てわたくしの責任。だから、ここで――!)
身体を回転させ、次の攻撃の軌道を不明瞭にする。
「喰らえ、イカれ野郎。『固有技術・夜ノ霧雨』」
無数のナイフをスカートの中から手早く投擲。魔王幹部に向かって銀色の雨が降り注ぐ。
しかし、いとも容易く避けられてしまった。
そして彼の不敵な笑み。
「酷い暴言だなァ。でもお姉さん、もう『終了』だよ」
「は?」
なぜか空中で態勢を崩したウェル。
更に、引っ張られるように地面に叩きつけられた。強い重力によって全身がめり込んでいく。
「ぐっ……?」
力を振り絞っても、身体を動かせない。
(なんだ? 何をされた? 確かに攻撃は避けたはず……いや、成程。これならば説明がつきますね)
ついに戦闘の天才は理解する。
進化した、その青年の能力を。
「重力を、空気やわたくしに付与したのですね……!」
「正解ッ! まァ、もう遅いけどね」
そうか! あの瞬間移動みたいな技は、空気に触れて、時間に重力を付与して止めたんだ! なんて規模の能力……!
重力の範囲を生成する能力から、重力を付与する能力に進化したのは分かった。
だがウェルさんがやられた。まだ道具袋がどう動くか考えがまとまってない。
どうする? わたしはどうすればあいつに勝てる?
「さて、支配完了。どうしたものかなァ」
スフィンクスは舌なめずりをして、ウェルさんを舐めまわすように視線を這わす。
「なんですか、気持ち悪い。潰すならさっさとしてください」
「それは勿体ないなァ」
「はぁ?」
「よし、決めた」
息を荒げて瞳孔を開く男。
「お前は美人だァ。特別に僕様の嫁にしてやる。僕様の名前を呼んでから結婚してください、と言え」
……えぇ!? あの男、出会って一時間も経たないうちに求婚しやがった! 信じられない!
「貴方、誰でしたっけ」
半笑いで返す、気高き美人。どれだけ肝が据わっているんだ。
「んん? 教えてあげよう。私の名はフォルス神父」
「はい?」
「えっ」
わたしとウェルさんの声が重なった。
偽名を名乗った……? 正体が割れているのに?
「違う、違う違う! 私は……いや僕様はスフィンクス神父だ、いや違う~。異界魔導衆のフォルス!? スフィンクス、フォルス、がああっあ」
男は両手で顔を抑え、酔っ払いのようにふらふらと徘徊している。
不思議そうな顔でその男を見るウェルさん。
自分が何者かを定義できていない……?
なんにせよウェルさんが創り出したくれた時間! 無駄にするな、わたし!
諦めるな! 考えろ! これまでやってきた事はなんだ!
固有技術・排出。これは自分が想像できるものならなんでも出せる。勿論、道具袋の中のモノも。
固有技術・収納。これは自分より大きな質量のモノもしまえる。ただし限度がある。
そして様々な固有技術をみんなから教わった。
これであの重力を攻略するには。
新しい技を創るしかない……!
固有技術の掛け合わせだ。どれを掛け合わせる……!?
焦るな! 落ち着け! まだ時間はある!
「ハァ、ハァ……おいッ。お前が何を考えてるか分からないけどさァ」
……おい。今いい所なんだよ。邪魔すんなよ糞野郎。黙ってろ。
「何回でも言ってやるよォ」
……言ってみろよ。
次言ったらわたしは――。
「お前ァ。どこまで行っても『荷物持ち』なんだよ」
ブチッ。
ついに、わたしの堪忍袋の緒が切れた。
「ぶっ飛ばす」
稲妻に打たれたかのようにアイデアが浮かんでくる。
まずわたしの固有技術・排出。新しい物を生み出す。
次に、いけ好かないサイアミの固有技術・錬金再構築。これで生み出した物質を思い通りに組み換える。
そして……リントの固有技術・疾風迅雷。これで生命エネルギーを注入する。
出来るか分からないけど……やってみよう。
いや、やるしかないんだ。
これが、わたしの新しい固有技術――。
「『固有技術・万物創造』」
固有技術を発動しようとした刹那。緑色の道具袋が光り出した。
あの時と同じ。転生した時に発生した眩しい光だ。
そして雨のように、輝かしい流星が降り注ぐ。
真に祝福されるべき者の誕生を祝って。
「星屑区域の、伝承……ふふ、そのイカれ野郎をボコボコにしてやってください。ユキ」
ウェルが小さく呟いた。
勝利を確信して。
○○○
「素晴らしい成長です! 小鳥遊有希様!」
世界の狭間。有希などの転生者を召喚する、水面のような神聖なる地にて。
上空には、一面に広がるアトスエンスの街の流星群。まさに星の海である。
羽衣をまとった正装のチカは猛烈な感動をしていた。
「やはり貴女には、わたくしに並ぶレベルのずば抜けた才能があった。転生者に選んで正解でしたね」
目の前にある『固有技術成長過程』というタイトルのホワイトボードの一番下の空欄に、チェックをつける。
……第四段階の『真技覚醒』。継承した技を、己の技と組み合わせて新しい技を生み出す。無限の可能性を実現し、奇跡を起こす。
「それは神々の秘宝を用いた『適合進化』ではない、純粋な努力のみの成長である『正統進化』。その奇跡は、諦めなかった者にのみ起こる」
そしてこの世界、テラスペラズの最初の転生者。女神セイクリッド・チカが、声高らかに詠う。
「さぁ、魅せてください。人それぞれに必ず眠れる、その『真技覚醒』の実力を」




