↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら勇者パーティーの道具袋になったんだが、どうやら万能らしいので一緒に世界を救いに行ってみます  作者: 楪 紬木
転生したら勇者パーティーの道具袋になったんだが、どうやら万能らしいので一緒に世界を救いに行ってみます
PR
51/56

第四十八話 絶望にして、香る兆し

「さて。これよりこのアトスエンスの街へ、異界魔導衆、及び魔王配下全員を招集するゥ」 


 スフィンクスは連絡石(ストーンフォン)を懐(ふところ)から手に取る。


 百年間続いた、勇者筆頭の英雄補完協会(サポーター)と、魔王率いる異界魔導衆(ヴィジター)とその他配下との争い。


 異界魔導衆・支配ノ重力・スフィンクスがアルガルドレ家の命の手綱(たづな)を握り、圧倒的な情報有利(アドバンテージ)を得る事により、均衡(バランス)は破壊された。


 もはや誰にも、彼を止められないだろう。


「悪魔の行進(パレード)だ。ここからこの世界、テラスペラズを支配してやるぞォ」 


 一人、調子を上げて「はい拍手喝采ィ!」と手を叩く。


「ああ、やはりこの世に因果応報はあった。漸(ようやく)く僕様の時代だァ。英雄補完協会を終わらせて、世界を支配し。そしてェ!」 


 両手を広げて月に叫んだ。


「最後に愛しい現魔王を欺(あざむ)き! 僕様が、新しい神様(まおう)になるゥ!」 


 感極まり、溢れる涙。


 想像する。これからどんな世界が始まるか。


(まず僕様がこの世の美味いものを独占する。そしてこの戒(いまし)めとして着ていた薄汚いローブを棄てて絢爛豪華(けんらんごうか)な服装を着よう。そして僕様だけの豪邸を建設する。そしてそして――)


 その思考は、プツリと途切れる事となった。


 背中に銀色に光るものが突き刺さったからだ。


「がっ、あ?」 


 激痛に歯を食いしばって耐えながら、後ろを振り向く。


「誰だ……! 僕様に刃を突き立てる不届き者はァ!」 


 ……香るのは、大人びた薔薇の匂い。


「経験豊富なのか、ギリギリで身を捩(よじ)って急所を外しましたね。チッ残念」 


 桃色の髪をしたメイド服の女性がそこにいた。


 アトスエンスの貸し部屋管理人、ウェルだ。気が立っているのか口調が荒々しい。


 魔王幹部相手に傷を負わせ、華麗な宙返りで後退。


「リント様に酷い傷をつけましたね。わ(・)た(・)く(・)し(・)の(・)義(・)務(・)を(・)放(・)棄(・)し(・)て(・)、お相手致しします、イカれ野郎」 

「……あ゛ぁ゛?」 


 スフィンクスはその眉目秀麗(びもくしゅうれい)な顔をこれでもかと卑屈(ひくつ)に歪(ゆが)ませる。


「僕様に勝てると思ってんのかよォ!」 


 重力を帯びた足で、地面を蹴るスフィンクス。

 

 覚醒前とは段違いのスピードで石の礫(つぶて)がウェルさんに向かって飛んでいく。


(ああ、逃げてほしいけど声を出す気力も出ない。どうしよう)


 動けないでいるわたしを見てから。


 前方宙返りの五回捻(ひね)り。


 そこから神業に等しい身のこなしで石の礫(つぶて)を回避した。


 なんて次元の戦闘。勇者パーティー四人で完全敗北したわたし達に比べ、なんて高レベルなんだ。


 ウェルさんってこんなに強かったのか。


 彼女ならば勝てるだろう。そう思ったのを読んでか、ウェルさんが話しかけてきた。


「ユキさん、まだ動けますよね」 

「え」 

「わたくしではあのイカれ野郎には勝てません。確りしてください。二人で勝ちますよ」 

「いや、わたしは、もう」 

「もう心が限界ですーってさァ。ククッ、情けないよなァ」 

「……そういう事ですか。イカれ野郎」 


 スフィンクスが詰め将棋でもするかのように、ゆっくりと近づいてくる。


「いいんだよウェルさん。この世は因果応報なんてないんだ。あなたで無理なら、ここから勝つ奇跡なんて起きないんだよ」 

「いやあるぜェ。支配されたら支配していいッ! それがこの世の因果応報だ。奇跡ってのはただの偶然さァ」 

「イカれ野郎は黙ってくださいませ」 


 桃髪の女性は、溜息をついてから。

 

「あなたはこの旅で、何を得たんですか? 一つだけ選んで、答えてくださいませ」 

「えっ、と」 

「早くしてください。わたくしが対話不可能になる前に」  


 一つ? たった一つを選ぶとするなら、どれだろう。


 過去の自分の発言を思い出す。


――わたしはもう、絶対に逃げないよ


 ああ。スフィンクスと訓練場で会った時に宣言した。もう逃げない、と。


 以前のわたしなら家に引きこもってゲームをしていただろう。


「『諦めない心』です」 


 わたしは自信をもった声音で言った。


「良い解答ですね。ですが若干違います」 

「違うってどういう事!?」 


 旅した本人が言うんだから違わないでしょ! 


 何を伝えたいのかいまいちよく分からないぞ。やっぱりただのふわっとした可愛いメイドさんなのかな。


「まず因果応報とは何か。それはただヒトを善たらしめる為(ため)の四字熟語です」 

「はぁ」 


 にゃんこミームみたいな声が出た。


「ただ何も考えずに善(よ)い行いをしていれば物事が良くなる、というのは幻想(げんそう)。悪人が支配する歴史だってあるし、善人が奇跡的に勝利して平和になる歴史だってある」 


 それはそうだ。結局勝って善人が幸せになるかどうかは努力次第……あっ。


「では奇跡とは何か。それは選択の連続による結果の事です」 


 理解できそうだぞ。彼女の伝えたい事が。


「貴女の旅は選択の連続でした。紙一重の差で敗北した戦いだってあったでしょう。それでも貴女は努力して、奇跡と呼べる結果を残してきた」 


 そうだ。そうやって少しずつ段階を踏んで『成長』して、敵に打ち勝ってきた。


「そう。貴女がこの旅で得たものは『成長』という『奇跡を起こす確率』なんです」 

「……!」 


 わたしは少しずつ身体を起こす。


 希望が。奇跡への兆しが呼んでいる。


「因果応報だなんていう言葉に収まらないで。ヒトは努力次第でいくらでも未来を変えられる……特に貴女は高確率で奇跡を起こす、無限の可能性を秘めているんですから」 

「……ありがとう、ウェルさん」 

「いいえ」 


 感謝に対し、桃髪の女性は百合の花のような可憐な微笑みで返してみせた。それは、どこか寂しげだった。


 きっとウェルさんがいなかったら、わたしはまた、ただ支配されるだけの惨(みじ)めな存在に逆戻りだっただろう。


 さぁ、起こそう。もう一度、奇跡を。


 夜空の星の瞬(またた)きは、誰の為に――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。