第四十七話 勇者パーティーVS異界魔導衆・支配重力・スフィンクス その2
時は現代。聖アウェーク教会前。
天空には。宝石箱をひっくり返したような、煌びやかな星が散らばっている。
まるで何者かの誕生を祝福するように。
「あいつは、どこに行ったんだ……?」
リントが周囲を見渡す。
わたし達は光に包まれた後、ほんの少しだけ気を失っていたみたいだ。
そして目が覚めると……スフィンクスだけが姿を消していた。
「誰もあいつが消えた瞬間を見てないのか?」
「わたしも見てないかな。鉱石を手に持ってたとこまで」
そう。スフィンクスにマグネティック鉱石を奪られてしまったのだ。
不甲斐ない……が、今は後悔している暇はない。奴を探し出さなくては。
「あっ、いたわ! 見なさい、教会の十字架の上!」
マルティーズちゃんが教会の上空を指さした。
そこには。
赤髪の青年が、十字架の上で夜空を見上げていた。
先程とは雰囲気が全く違う。
どこか、憑き物が取れてスッキリしたような……。そんな雰囲気だ。別人にすら見える。
「私………………いや、僕様は自分を見失っていたみたいだァ」
「え」
わたしは身体をビクリと震わせてしまった。
その、粘つくようにせりあがる語尾。自身に満ちた『僕様』という口調は。
……あのイカれた嫌味な上司そのものだ。
もう見た目だけじゃない。全部、同じ。
思わず口に出してしまった。
「エリア……マネージャー……?」
「おや、おやおやおやァ? どこかで聞いた事があるような声だなァ!? お前は確かァ……」
やめろ。やめてくれ。
怖い。動けない。その先を言うな。
おい。おいって。なんでここにいるんだ。畜生。
「使えない、ゴミの『荷物持ち』じゃないかァ」
「やめろっっっ!!!」
最悪だ。やっぱりあいつは。黒田真一は小鳥遊有希と同じ……異世界転生者。
どうして? 折角、転生して。仲間ができて。こんなに幸せだったのに。
またあいつに全部奪われるのかよ……!
そんなのは真っ平御免だ!
「もう、あの時みたいなわたしじゃない! 『固有技術・排出』!」
「ユキ! 落ち着いて!」
リントは無視だ。これはわたしの戦いなんだ。創造する。あいつに吠え面をかかす一手を。
わたしが放ったのは『砲弾』だ。
固有技術の加速も相まって、普通に大砲から発射するのとは比較にならない威力になっている。
直撃しなくとも余波だけでひとたまりもないはず――。
「『固有技術・空間時間抑圧』」
スフィンクスが、忽然と消えた。
砲弾は空を切って遥か遠くで爆発。
「き、消えた!? どこに――」
「かかったな、ってかァ?」
他人を小馬鹿にした高笑い。それが……勇者の背後からした。
「リント、後ろ!」
わたしは全力で叫んだ。しかし、もう遅い。
「お返しだァ、勇者クン」
スフィンクスはリントの身体に手を添える。
「『固有技術・反発重力』」
先程、弓矢と火球を反射した技だ。
これを人に向ければどうなってしまうのか。
その恐ろしい想像よりも先に、最悪な現実が襲ってきた。
「がぁっ、がは」
肉体の内側に、耐え難い衝撃波が撃ち込まれる。
血反吐を吐きながら住宅へと吹き飛ばされるリント。
「まずは一人目ェ」
もう……立ち上がってくる事はないだろう。そう確信してしまうほどに決定打だった。
「なによ、それ。アイツ、さっきとは別次元の強さになってるじゃない……!」
「構えろ! 次はこっちに来るぞ!」
もう、わたしはこの時点で絶望で動けなくなっていた。
「あ……あっ、えっ」
現実じゃないみたいだ。空中に浮いたような感覚がする。
まただ。また、わたしの失敗で。
大切な人が。傷ついた。しかも今度は、取り返しがつかない程に。
リント。翡翠色の瞳が綺麗で、努力の天才で、わたしが心の底から憧れた人。
「ユキの馬鹿! ボーっとしてんじゃないわよ!」
わたしに向けて重力の波動が押し寄せていた。今気づいた。
避けなきゃ。でも間に合わないや。
「かはっ……!?」
わたしを庇って地面に身体を打ちつけながら転がる金髪の黒魔導士。
マルティーズちゃん。金髪を結えたポニーテールがとっても艶やかで、サバサバした性格でいつもみんなを引っ張ってくれる人。
「はい二人目ェ」
「固有技術――」
「もう後ろだ。遅すぎるなァ」
「だから何だよソレ、早すぎんだろ……!?」
「早い、とは少し違うなァ。答え合わせはあの世でやろうねェ」
遠くから狙撃しようとした銀髪の狩人。
しかし読まれていたようで、瞬間移動みたいな技で後ろを取られてしまった。
強力な重力を帯びた手刀が炸裂。
「っ……」
辛うじて腕で防いだものの、彼は気絶した。
「しゃ、三人目ェ。次でラスト~」
ガーベル君。クールな銀髪。このパーティーの参謀を担うしっかり者。無愛想に見えて実は仲間想い。
みんなやられてしまった。
後は、動けない木偶の坊のわたしが踏みつけられるだけで……。
思考がまとまらない。こんなのは現実じゃない。きっとそうだ。
「えあ、え」
「ハハ、ついにイカレちまったみたいだなァ。あとやっぱり忘れてたみたいだからもう一回、特別に教えてやるよ」
スフィンクスはわたしに顔を近づけて。
あの時と同じ。
いや、それ以上に。心を抉る言葉の刃をわたしに突き立ててきた。
「小鳥遊有希。お前は……いつまで経っても、たった一人じゃ何もできないゴミ袋だ! 荷物持ちだ! ゴミ袋! 荷物持ち! 使えない奴だからさァ、後で魔界に持ってって虐めてやるよォ! アハハッハァ!」
「い」
痛い。
痛い痛い痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い!
「い、いい、いやぁぁぁぁぁ!」
わたしは攻撃を受ける事もなく、戦闘不能になってしまった。
「これがァ……『適合進化』による第四段階『真技覚醒』の能力だァ! ハハハァ! 感謝するよ神様! 僕様はァ、幸せになるんだァ!」
目の前で、耳鳴りがするほど甲高い笑い。
星降る夜にどこまでもこだました。
タップダンスを踊る彼は、この世界に愛されているのだろう。
因果応報なんて、きっとどこにもなかったんだ。




