第四十五話 勇者パーティーVS異界魔導衆・支配ノ重力・スフィンクス その1
勇者パーティーにとっての因縁の相手であるスフィンクスが眼前に。
今すぐにでも戦闘を開始したいところだが……。
まずは約束通り、鉱石とチラちゃんの交換から。
こちらは誠意を見せねばならないだろう。
わたしは久しぶりにあの菫色の鉱石を袋から出す(消化とかされてなくて良かった)。リントはそれを手に取って。
「これが欲しかったんだろ? ほら、マグネティック鉱石だ」
「……ああ、そうだ。だが、もっと近くでよく見せてくれないか。偽物かもしれないだろう」
「……」
「ほら、早くしたまえ」
全員が苛立ちを隠し切れない。その態度に、腸が煮えくり返りそうなほど腹が立つ。
お前のせいでこうなっているんだろう。
人を支配し、見下す。親切そうな人間に見えて、それがあいつの本質なんだ。
「ここまでだ」
リントはある程度、前に進んだ。
間合いだ。
これ以上踏み込めば戦闘が開始する。だからここが最大限の譲歩。
「……ふむ。では確認しよう」
「どれどれ」と。まじまじと鉱石を見て観察する青年。
一体、彼はなにを見ているのだろうか。特に固有技術を使うわけでもない。
「これは私の覚醒の要因なんだ。是非とも欲しい」
と、スフィンクスはここで手を伸ばそうとした――。
「待て。先にはチラの安否を確認させてもらう」
リントは手を引っ込める。
「相手を信用しなければ取引は成立しないぞ」
「いいから、早くしろ」
「……どうしてそうアルガルドレの血筋は負けず嫌いなのだ」
溜息をつく、スフィンクス。
大きく息を吸って。
ごく自然に、言葉を吐いた。
「『固有技術・圧迫領域』」
「!!!」
交渉決裂。戦闘開始。
スフィンクスを中心にして広がる半透明なフィールド。
「出たな。僕たちを苦しめる『重力』……!」
この攻撃の正体は、メルカ資料館の本と実際の経験で理解している。
『重力』だ。スフィンクスの『支配ノ重力』という異名がそのまま能力になっているのだ。
この中に入ればスフィンクス以外の生物は身動きが取れなくなってしまう。詰みだ。
初動。勇者パーティーの反応は遅れをとらなかった。瞬間的に飛びのいたから。
一度見た技。今までの戦闘経験。そして訓練の成果。
これら全てが彼等を突き動かしていた。
「よく避けたな、弱者ども」
「あの時の僕たちとは全然違う……。それより約束を破ったな、覚悟してもらうぞ」
「ならばこれはどうかな?」
スフィンクスが半透明のフィールドを解除……ではなく、足元に集中させた。
地面を蹴り上げる。すると重力の力が付与された石の礫が散弾銃のように高速で発射された。
想定内だ。
「来たぞ、瓦礫だ! 作戦A! 速攻で決着をつけるぞ!」
「うん!」
「ああ!」
「分かったわ!」
作戦A。勇者を通して全員に伝達する。
まず、道具袋がリントの腰から飛び出した。
「『固有技術・収納』!」
大きく、飲み込むように膨張するわたし。
これでスフィンクスからの瓦礫の攻撃を完全に吸収した。マジで痛すぎるけど耐えたぞ。
「っく、よし」
「得意げにするんじゃない……む?」
いない。小さくなりつつある道具袋の後ろにいるはずの三人が。
「上か」
スフィンクスの理解は早かった。
正解だ。しかし。
「二人だと!? 勇者の末裔はどこへ――」
上空にはガーベル君とマルティーズちゃんしかいない。
スフィンクスに思考の隙を与えない。二人は既に、この星屑区域に入ってからずっと溜めていた固有技術を解き放つ。
「『固有技術・矢ノ雨』!」
「『固有技術・火球三連』!」
それぞれ無数の矢と、三発の火球が放出される。
ぶつかり合わず標的に命中させる、離れ業。
「『固有技術・反発重力』!」
しかしスフィンクスも手練れ。正面に重力の盾を創り出す。
矢と火球を、倍の速度で弾き返した。
「ガーベル君! マルティーズちゃん!」
二人は矢が数発、突き刺さってしまう。そのまま地面に激突する。
「ぐっ……! 被弾覚悟とはいえ、痛ぇ」
これは作戦における博打の部分だった。当たり所が悪ければ一気に戦闘不能になる。
奇跡的に二人とも、そうはならなかった。
「っ、アタシ達に当たる時だけ羽毛になるとかしときなさいよ……!」
「あるかそんなもん」
「確かに命中精度は素晴らしい。が、圧倒的に威力が足りない。所詮は浅知恵の悪あがきだったな。くく」
「ま、そう来るよな」
反射のダメージは抑えた。だが、その男は好機を逃さなかった。
スフィンクスが嘲笑い、手をかざす。重力を発生させようと。
「やめて! お願い!」
わたしは涙が出そうなほど全力で叫ぶ。ここまで旅をしてきた仲間達なんだ。絶対に失いたくない、と――!
「鉱石ならあげるから! ほら! 許してよ!」
わたしは目の前にマグネティック鉱石を転がす。スフィンクスはそれをチラリと、一瞥。
だがすぐに前を向いて。
「断る。勝った私が総取り。そして君達の運命はここで終わりだ」
無慈悲にも、その手は振り下ろされる――。
………………。
ああ。
間に合ったな。
「かかったな。僕たちの罠に」
「しまっ――!」
魔王幹部の背後から、勇者の声。
……本命は弓矢と火炎ではない。
二人の全力の攻撃を囮にして、草むらの影からスフィンクスの背後に回り込んでいた。
そして。確実に不意を突けるように、リントは当初の作戦よりももっと外周を走っていたのだ。
それが見えていたわたしはほんの少しだけ時間を稼いだんだ。
そしてさっき、わたしの陰で固有技術で稲妻の剣を完成させていたリント――。
「はぁっ!」
一閃。その煌めく刃が、スフィンクスを斬り裂いた。
重力の防御を展開するよりも、速く。
「がはっ……!」
その場に膝をついたスフィンクス。
作戦A。それは、実力の差が出る前に速攻で決着をつけるというもの。
わたし達を甘くみたスフィンクスを、出し抜いた。
速攻が上手くハマりすぎてちょっと呆気ないとは思うけど。
「や、やった……! わたし達の勝ちだ……!」
嬉しくて、飛び跳ねてしまう。これでリントの妹、チラちゃんも助かるし、わたしとしてもスカッとした。
「ば、馬鹿な……!? この私がなぜこんなところで倒れ伏している……!」
なんとか手足を動かし、藻掻くスフィンクス。
這いずって、どこへゆくのか。
「あ、有り得ない。こんな事は有り得ないっ」
呼吸が乱れる。
圧倒的な強者として君臨し、他者を支配してきた彼の久しい敗北が、そうさせていた。
「この私が、どれほど苦しみに耐えてきたか………………ッ!」
横溢する怨みの感情。
下唇を強く噛むスフィンクス。
「生けとし生けるもの全員! 私に支配されるべきなんだぁぁぁ!!!」
手を伸ばした。
その先にあるものに気づいた銀髪の狩人は、顔面蒼白。
「おい、ユキ! ソイツを早くしまえ!」
「……あっ」
マグネティック鉱石。
スフィンクスの油断を誘うために袋から外に出したままだった。
まぁでも回収すれば問題ない。
「固有技術――」
「『固有技術・収納』」
わたしの固有技術を、スフィンクスが使った。いや盗むなよ。
……てか、あれ、鉱石奪られてる? まずいんじゃない?
――これは私の覚醒の要因なんだ。是非とも欲しい
マグネティック鉱石があいつの手に吸い込まれていく。ま、待って。
「勝った! 栄光の王冠は、私の手に!」
マグネティック鉱石が眩いほどに光を放つ。
この光は……わたしには見覚えがあった。この世界に転生する時にテレビから射した光だ。
「私は絶対に幸福になってみせる。誰にも邪魔はさせない……!」
異界魔導衆・支配ノ重力・スフィンクスは過去を思い出す。
ただ只管、辛酸を舐めたあの頃を。




