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転生したら勇者パーティーの道具袋になったんだが、どうやら万能らしいので一緒に世界を救いに行ってみます  作者: 楪 紬木
転生したら勇者パーティーの道具袋になったんだが、どうやら万能らしいので一緒に世界を救いに行ってみます
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第四十四話 決戦の刻、来たれり

 今から一ヶ月前。


 ユキがまだ勇者パーティーに加入していなかった頃。


『リント・アルガルドレだね。突然だが、私は異界魔導衆・支配ノ重力・スフィンクス。君の妹、チラ・アルガルドレを預かっている』 


 滝が象徴の水が豊かな街、ウォクイーンの大通りで突然。血塗れの白いローブを着た男……スフィンクスは勇者パーティーの目の前に現れた。


 ざわざわと道行く人々がリント達を取り囲む。


『……冗談じゃなさそうだね。返してくれ、と言ったら?』 

『断る』

『だろうね。なら』 


 リントは背中から剣を引き抜く。ガーベルが弓矢を番(つが)えた。マルティーズが火球の魔法を溜める。


 それぞれの長所を活かした最大火力。これで彼等は、英雄補完協会(サポーター)が定めた、不可侵領域(ふかしんりょういき)Bの原竜種(ワイバーン)すら討伐したのだ。


『力づくで奪い返す!』 


 リントの号令に合わせて、全員で一斉攻撃。


(決まった――!)


 リントだけではない。勇者パーティーの全員がそう確信した、その時。


『その程度か。井の中の蛙(かわず)だな』 

.

 スフィンクスを中心にして、円蓋(ドーム)が顕現(けんげん)する。


 勇者パーティーの三人はその円に、入ってしまった。


『がっ……!』 


 ズン……。と、のしかかる強烈な圧迫感。


 全員がそれに耐えられず、地面に伏してしまう。


『マグネティック鉱石を、二十三日後に聖アウェーク教会に持ってきてくれ。それと君の妹を交換しよう』 

『勝手なこと言うなよ、この野郎……!』 

『動くな。大人しく支配されていろ』 

『ぐぅ!』 


 リントは圧力に抵抗していたが、ついにひれ伏してしまった。


『弱者は強者の指示にただ従っていればいいのだ……今、捕虜の状態を確認させてやるから待っていろ』 


 スフィンクスは通信石(ストーンフォン)を懐から取り出し、地面に投げた。


 映像が空中に投影される。


『聞こえるか――』 

『チラ! 大丈夫か!? 今助けに行くから待っててくれ!』 

『……あのなぁ、兄貴。いっつも思うんだが過保護すぎんだよ。立場的に俺はなんとかなるから、焦んないで助けに来てくれ』 

『危機感のない娘だな。ではここまでだ』 

『待て、まだ――!』 


 リントの叫びも虚しく、スフィンクスにより通信石(ストーンフォン)による連絡は中断されてしまった。


『では、約束を守りたまえ。待っているぞ』 


 そのままゆっくりと立ち去ってしまうスフィンクス。


 人混みの中に、溶けるようにして紛(まぎ)れてしまった。


 固有技術の射程範囲外なのか、円蓋(ドーム)が消える。


『あいつは、絶対に許さない……!』 

『同感』 

『そうね。マジでぶっ潰すわ。アタシの火球で灰になるまで焦がしてやる』 


 勇者パーティーは誓う。


 リントの妹、チラを取り戻す……だけではなかった。


 絶対にあの男(スフィンクス)に復讐(リベンジ)してやる、と。




○○○




 そして現在。


 空は、恐怖を感じるほどに紅く染まる夕焼けになっている。


 さながら、業火の海原(うなばら)。


 今日だけはきっと。いや間違いなく。


 これから起こる戦闘の激しさの前触れを、表している。


 アトスエンスの街。星屑区域。


 勇者パーティーはリントを戦闘にして常に三角形の陣形を崩さずに道幅の広い通りを歩いていた。


 目立つというデメリットはあるが、それ以上に奇襲に対応できるというメリットがある。


 わたし達の集中は極限まで研ぎ澄まされていた。


「ガーベル、尾行はいないね?」 

「あぁ。常に眼(・)で確認しているが、いないぞ」 

「よし」 


 固有技術・遠視鏡(スコープ)。銀髪の狩人は、この視力が抜群に上昇する技を以(もっ)てして周囲の状況を確認していた。遠くの様子を見るだけでなく、建物内の動きさえも。


「マルティーズ、溜めの必要な魔法はすぐに打てる?」 

「任せて。いつでもいけるわ」 

「良いね」 


 金髪の黒魔導士は、その焔色(ほむらいろ)の瞳をギラつかせながら漆黒の杖の先を超高温に保(たも)っている。


 あ(・)の(・)男(・)がいつ現れても、どんな攻撃を仕掛けようとも対応するために。全てを焼き焦がす火球で。


「ユキ、戦闘が始まったら分離を視野に入れてね」

「現在進行形でシミュレーションしてるよ」 

「最高だ」 


 緑色の道具袋(わたし)はもうただの腰巾着(こしぎんちゃく)ではない。一人でも戦闘が可能だ。それ故(ゆえ)、味方の補助(カバー)だけではなく、敵のかく乱の役割も担当している。


 それにしても。


 不気味すぎる。ここまで何も無い上に、誰もいない。


 街のはずれとはいえ、この時間帯でここまで人通りが少ないのは異常。


 しかし身構えたままで奇襲されないというのは神経をかなり擦り減らす。だが気を緩めた瞬間に全滅(ゲームオーバー)というのもあり得る。


 もう油断は出来ない。既に戦闘は始まっている、という事だ。


 ……意外にも何事もなく、区域の中心地に辿り着いた。約束の時間、場所だ。


 教会が聳(そび)え立っている。不気味さという名の煙の、根源(こんげん)。わたしはそう錯覚(さっかく)した。


 聖アウェーク教会。


「みんな、止まって」 


 リントがパーティーの進行を制止する。


「いるよ」 


 教会の手前。一面に緑が広がる、その真ん中に。


 あの男が立っていた。


「来たか。アルガルドレ家の末裔とその仲間」 


 整えられた赤髪。猛禽類(もうきんるい)のように鋭い双眸(そうぼう)。神父服ではない、血にまみれたローブ。首から下げた十字架(ロザリオ)。


 異界魔導衆(ヴィジター)・支配ノ重力(ヘヴィ)・スフィンクスだ。


 マグネティック鉱石とリントの妹チラの交換、開始――。

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