第四十三話 決戦前、貸し部屋にて
太陽が真上で光る、正午。アトスエンスの街。閑静な住宅街。一際大きな一軒。貸し部屋にて。
「付け焼き刃にしては上手くいったんじゃねぇか」
ガーベル君が絨毯の敷かれた床に座って弓の手入れをしながら言う。
「そうだね。あと八通りくらいは作戦を完璧にしておきたかったけど……」
椅子に座り、紙を見て。最後の確認をしているリント。
そう、わたし達は帰宅後すぐに訓練場である森へ向かい、決戦への最終調整を終えていた。
あとは……これまでの全てをぶつけるだけだ。
でもその前に言う事がある。
「あの……みんな。夜道であいつに色々話しちゃった事、リントを引き留めなかったせいで。わたしのせいで危険にさらしてしまってごめんなさい」
これさえなければ、もっと円滑に準備を進める事が出来たはずだ。それにわたしが水を差してしまった。
本当に申し訳ない。
「……はぁー」
ベッドに座るマルティーズちゃんが深いため息。それを横でわたしが見ていた。
やっぱそうだよね。こんな奴、もうパーティーに要らないよね。いっそこのまま、一人で決着をつけに……。
「もーっ! しつっこいなユキは! アンタのせいじゃないって言ってるでしょうが!」
「ひっ」
マルティーズちゃんがついに大声を上げた。わたしに向かって指をさす。
まぁ確かに、この話をするのは三回目だけど。
一回目が英雄補完協会・本部での戦闘を終えた時。二回目が最終調整の時。
自分でもしつこいって分かってるけど……やっぱり気にするよ。
「この際だから言わせてもらうけどね!」
すごい剣幕だ。なんだろう。
その性格がうざったくて気に食わない、とか。袋のデザインが実は気に入らない、とかだろうか。
うう。わたしって結構嫌われるタイプだからな。知らず知らずのうちに失礼な態度をとってしまったのだろう。
「アンタがこのパーティーに入ってくれて、アタシは嬉しい!」
「ほらやっぱり。どこに行ってもわたしなんて……え?」
いま、なんて?
「まずね、アンタがいなかったら盗賊狼から逃げられなかったし、あのクソでかいゴーレムにも勝てなかった! 最初は疑ったりしたけど……紛れもなくユキは命の恩人なのよ」
「で、でも」
「でもも、だってもない! あと、一緒に訓練をしてアタシも強くなれた! 一人じゃ勝てないってのもよく分かった!」
一方的に捲し立てられる。
「なによりね、一緒に旅をしていて楽しい!」
「全てにおいて同感だ」
「そうだね」
みんながわたしに顔を向けてくれる。
……転生前のわたしは。大学でも新入生歓迎会とか行ってないし、ただ講義受けて単位取ってるだけで友達がいなくて。
田舎から上京して、家族とは結構離れた距離の大学だったし。それもあって、高校の時の友達とかはゲームくらいしかしてない。(わたしの性格もあってあまり連絡はとらなかった)
寂しかったんだ。だからバイトも耐えられなくなって、病んでしまった。
転生した後は。危険な旅だったけど。こんなに素敵な仲間が出来た。
あぁ、転生して良かったなぁ。
わたしは幸せだ。
みんなに見えないように、涙を滲ませた。
「帰ったら、みんなでマイモンやるのよ。いい?」
「うん……うん! ぐす」
「泣いてるのか」
「泣いてない! 適当な事言わないで、ガーベル君!」
みんなが笑う。全くもう。
「あともう一つ」
マルティーズちゃんはとびきりの笑顔で。
「今更だけど……ありがとね」
ガーベル君が少しだけ口角を上げて。
「俺からも感謝する」
リントがはにかんだ笑顔を見せて。
「ユキ、うちのパーティーに入ってくれてありがとう。これからもよろしくね」
「う、うう」
あ、やばい。これは号泣しそうだ。決戦どころではな――。
と、ここで。
コンコン。と、部屋の扉をノックする音。
扉が開いた。
「失礼します」
可愛らしい桃色の長い髪、スラリとした体型。まとうメイド服は彼女の清楚さをこれでもかと引き立てて。
ここの物件の管理人、ウェルさんだ。今日もかわいい。
両手で口を押さえ「あら」と声を漏らす。
「申し訳ございません。お邪魔でしたか」
「そ、そんな事ないですよ! なんかむしろ来てくれて助かったというか? アハハ」
それを聞いてウェルさんはほっと胸(比較的大きな)をなで下ろしたようだ。
「それなら良かったです……要件なのですが、これから戦場に赴くそうですね」
真面目な声音。誰から聞いたのか、彼女は異界魔導衆との決戦の事を知っていた。
「そこでですが」
ウェルさんは部屋の端にはけて、扉の先を手でさす。
「三階の大ホールにバイキングのご用意をしましたので、是非召し上がってくださいませ」
そして、にこやかな笑顔を見せた。
「やったー! 戦いの前にいっぱい食べちゃおう!」
わたしは大喜び。部屋中を飛び跳ねる。
「あんまり食べ過ぎるなよ。動けなくなるぞ」
ガーベル君がマルティーズちゃんを見て一言。
「なんでアタシの方見て言ってるわけ!? 失礼じゃない!?」
金髪の黒魔導士は食事の嬉しさと仲間の一言による怒りで感情的になり、つい杖をかざした。こんなとこで魔法を打とうとしないでくれ。
「はは。ありがとう、ウェルさん。 有難くいただきます」
リントが恭しく一礼。
「いいえ……これがわたくしの、貴方様に対する贖罪なのです」
ウェルさんはなぜか、申し訳なさそうな顔をした。
昔を思い出すように。
「……? よく分からないけど、とりあえず一緒に食べない?」
リントがウェルさんをナンパしている。
なーんか、ちょっと顔がデへデへしてない? やっぱリントもむっつりなのかな。
目線がなんとなく胸とか脚にいっているように見える。確かに綺麗だけどさ。
「……ふーん」
「ユキ、どうしたの?」
「別にぃー」
なんかムカついた。まぁこの場は見逃してやろう。
「良いのですか?」
「勿論!」
「……ふふ。ありがとうございます。やはりお優しいですね、リント様」
桃髪のメイドは、顔に手を当てて微笑んだ。
その姿のなんと美しい事か。例えるなら、草むらにそっと咲く百合の花。
わたしも人の姿になったらそこそこだし。タンポポぐらい。って、なに嫉妬してんのわたし!?
訓練場での戦いから、ちょっとおかしくなってるよ。もう。
……この気持ちは、一旦しまっておこうかな。
「それじゃ、みんなで戦いの前の腹ごしらえだ!」
リントに続き、みんなで部屋を出る。大ホールに向かった。
さぁ、英気を養うぞ。
わたしたちは絶対に、勝つ。異界魔導衆・支配ノ重力・スフィンクスに。
異界魔導衆との、マグネティック鉱石とリントの妹チラの交換まで残り、五時間――。




