第四十二話 しんぷさん?とこどもたち。
陽射しが暖かく照らす、アトスエンス街のはずれ。星屑区域。
ここにはかつて、星が降っていた。
その星は祝福。星を受け取った者の才能が開花し、次の段階へ引き上げる。
という、ただの言い伝えだ。
そうした言い伝えもあってか、信仰深い人々が神様の眠れる地として移り住むようになったという。
区域の中心地には、教会が建てられた。
聖アウェーク教会。
誰が、何のために、いつ建てたか不明。だが、星屑区域に住む者はみな、ここに足繫く通って祈りを捧げている。
周辺は自然豊かで、子供たちが無邪気に遊んでいた。そしてそれを見守る大人達。
「あはは! こっちこっち! つかまえてみろよ!」
「まってよー!」
「みんな。怪我はしないようにね」
かけっこや、ボール遊び。ありふれた、微笑ましい空間。
平和と呼ぶならきっと、このことなのだろう。
と、そこへ。
「しんぷさんだ!」
「ほんとだ! おはようございまーす!」
ゆっくりと歩いてくる、一人の人間が。
子供たちはその人間に元気よく挨拶をした。
『おはようございまーす!』
「やぁみんな。おはよう」
柔らかな、笑顔。
しかし決して消えない炎を思わせる、赤髪をさらりとなびかせて。
鳥類のような鋭い目つき。彫刻さながらの整った顔立ち。そして不思議な雰囲気をまとっている。老若男女を問わず視線をひとところに集めるだろう。
なにより特徴的なのは……神父服と十字架。
異界魔導衆・支配ノ重力・スフィンクス。この地域ではまだ、フォルス神父として名が通っている。
周囲に子供たちが集まってくる。
「ほら、お菓子だよ」
フォルス神父の懐から、どう考えても入りきらない質量の菓子類が飛び出した。
それに子供たちが群がっている隙に、フォルス神父は教会へ。
「神父様、おはようございます」
「おはようございます」
保護者にも、挨拶をして。
ギギィ……。
と、重厚な音を立てて教会の扉を開ける。
ステンドグラスから差し込む陽光。祭壇の女神像を優しく包み込んでいる。
神父服の男は祭壇の前に跪き。
目を閉じ、神に向かって祈りを捧げる。
「次元の狭間におわす主神よ。どうか、私を正しき道へと導いて下さい」
そして、その男は目を開ける。
「……盗賊狼たちをいなし、グラヴィダ洞窟でマグネティック鉱石を探り当てた。念の為、他の冒険者をあてがったがその必要は無かったか」
立ち上がって振り返り、木製の長椅子に向かって歩き……座った。
手を組み思案に耽ける。
「そして何者かの妨害により、リント・アルガルドレとその仲間との連絡手段が絶たれたのは焦りを覚えたが……やはり運命は私の味方だった」
どこかを見据えるように天井を見上げた。
「忌々しい女神が希望として異世界から召喚した……あのユキという道具袋。彼女はマグネティック鉱石入手の一番の貢献者であり、偶然にも出会いトイガー・アルガルドレを追い詰めるきっかけとなった」
嘲るように嗤うスフィンクス。そこに神父と呼ぶべき優しさは存在していなかった。
まさに。他人を見下し、とことんまで利用する邪悪の権現。
「後は鉱石を奪い取り、全面戦争を仕掛けるだけ。簡単な仕事だとは思わないか?」
長椅子の横を見やって問いかける。
「なぁ、チラ・アルガルドレ」
「さっさと解放しろよ。ここの食事はもう飽きてんだよ、腐れ神父」
そこには、極小サイズの……少女が吠えていた。
可憐な茶髪ショート。あどけない幼さの残る童顔。リントと同じ翡翠色の色合いをした大粒の瞳。
チラ・アルガルドレ。
勝ち気な彼女が物怖じせず、腰に手を当てている。
「……我儘だね。君の今の立場を理解しているのかい?」
「当然。その上で俺は悪態ついてんだよ。後」
勇者の妹が、神父を指さして。
「早く元に戻しやがれ」
やれやれ、と肩をすくめてみせるスフィンクス。
「断る。そのまま君は逃走するだろう」
「ちっ」
チラの舌打ち。スフィンクスは意に介していないが。
「君の才能、固有技術は戦争において一手で全てをひっくり返しうる切り札となる」
「その言い回しはさ。解放する気無い、って事で合ってるか?」
「……天に恵まれた才を賛美しただけだよ」
「きもちわる」
「なんとでも言いたまえ。もう結末は決まったようなものだ」
スフィンクスは立ち上がり、書斎へと足を運ぶ。
その足取りは実に軽やかで。
「あと少しで約束の時間だからな。本でも読んでおこう」
扉を閉め、完全に自分の世界に入っていってしまう。
それを見ても、チラの態度は不遜なままだ。
自信はどこから来るのか。彼女は小声で呟いた。
「お前は兄貴のパーティーに負けるよ、絶対に」




