第四十一話 ここから、もう一度
激しい戦闘を終えた、翌日。
英雄補完協会・本部の屋敷内。温かな照明に照らされる、落ち着いた雰囲気の医務室。
音楽を聴くための趣味の部屋だ、と言われればそのまま信じてしまいそうな感じだ。
今は、回復の固有技術を使える組織の人間を待ちながら、事情整理をしている。
横になっているトイガーさん、そして格下。それを他の人たちが囲む形だ。
「すまないな、リントとその仲間達よ」
ベッドに横たわるトイガーさんが、実に申し訳なさそうに謝罪。
「いえいえ。これくらいお安い御用ですよ、会長殿」
マフィンさんが横でリングル(日本でいうリンゴ)を切りながら。
さっき説明があったが、彼女は戦闘を経て、ガーベル君とマルティーズちゃんの友達になったらしい。
てか上手っ。包丁の扱い。
しかもさっき、ちょちょいっとわたしの傷も縫ってくれたんだよね。(なぜか痛みは残ってるから治療は必要だけど)天然以外に欠点がないのかよ。
マフィン様って呼ばせてもらいますね。
「アンタはそっち側でしょ」
マルティーズちゃんがツッコミ。多分、結構な年の差があるだろうに。フランクだなぁ。
「え、もうリント殿の仲間の一人ではないのか? 拙者はてっきり受け入れてくれたのかと」
「馴染むのが早すぎるわ。あのね、今の組織どうすんのよ」
「む? 辞める」
「おい!?」
「はっは、冗談だよ。今は、ね」
今はって。後から加入フラグじゃん。
マフィン様、パーティーにいたら絶対面白いだろうな。
「ところでトイガー……さん。質問いいか?」
「なんだね」
ガーベル君の、棘のある声色。
明らかに怒りを滲ませていた。
和やかな空気が一変する。
「冒険者ギルドや宿屋で暴利を貪ったのは誰だ?」
「ちょっとガーベル! それは最後でもいいでしょ」
そうだ、そういえばわたしたちは宿屋ではなく貸し部屋を利用したりしていたんだ。英雄補完協会のやり方が気に食わないって。
最初から聞くって事はよっぽど気に入らなかったんだな。
「恐らくは、流通部隊の誰かが裏で糸を引いているが……それもわたしの責任だな。すまない」
トイガーさんが少し身を起こして、頭を下げる。
誠意が伝わってきた。どうやらかなり組織の内部は腐ってしまっているらしい。
奥さん……勇者ラグールの影響はかなり大きかったんだな。きっとチート級に強いのだろう。
「……そうだったん、ですか。いや、こちらこそ無礼な態度とって申し訳ございませんでした」
おお。ガーベル君、ずっとツンツンした話し方するから丁寧語なのは新鮮だな。
「それに関して拙者からもいいかな?」
マフィン様が挙手。いちいち所作が丁寧だな。
「驚かないで聞いてほしいが……異界魔導衆のスフィンクス。奴はフォルス神父という名で英雄補完協会の戦闘部隊で新人として所属している者だ」
『っ――!』
彼を知っている勇者パーティーが息を吞む。驚くな、という方が無茶だろう。
そして同じ疑問を抱いた。代表してリントが口にする。
「……いつから?」
「それが……十年前に会長殿の奥さんがいなくなってから、半年した頃になる。今の今まで気づけず……不甲斐ない」
という事は、トイガーさんへの下剋上が増えたのと同時期だな。
間違いなく関係があるだろう。
かなりの情報が抜き取られたりもしただろうな。なんてことだ。
英雄補完協会を内側からかく乱し、魔王と異界魔導衆が優位に立つ。
そして今回の、リントとチラちゃんの件でとどめの一手を打とうとしている。
やはり百年続く戦いを、終わらせようとしているのか……? 流石に規模が大きすぎるか?
「後で拙者の方からあの者は隊から除名しておく」
「かたじけないな、マフィン」
「いいえ」
沈黙が訪れた。
希望の持てない状況に、誰も言葉を発せずにいる。気まずい。
な、なにか言わないと……! そう、みんなが前向きになるような話題!
……無い! ああっ、もう!
「ももも、問題は今どうするかだよね? チラちゃんも助けを待ってるよ!」
しまった。さらに追い打ちをかけるような内容をぶち込んでしまった。
前にもこんなくだりがあったような。ホント駄目だね。ごめんね。
しかし、それを聞いて口元をほころばせたリント。
「そうだね、ユキ。とりあえず僕たちは治療を受けたら急いで帰って、やれる事をやろうか」
ちょっと、キュンとした……? いや、気のせいか。
勇者が道具袋、狩人、黒魔導士を見て。
「ふっ、そうだな。こんな短時間やれる事なんてのはたかが知れてるが」
「後ろ向きな発言しないの! ここからなんとでもなる、でしょ! 全く。これだからポンコツガーベルは」
「いつの話だ、この熱風女が」
「なんですってー! 今ここでやってやりましょうか!?」
「やってみろ」
「駄目だよマルティーズ! ガーベルも落ち着いて!」
ああ、いつもの感じだ。なんか久しぶりだ。この温かい空間が、わたしは大好きなんだ。
その様子をマフィン様がじっと見ている。え、急に怖っ。
(そなたらは凄いな。そういう道を切り拓くような行動を平気でとる。だからこそ……勇者パーティーなのだろうな)
うんうん、と首を縦に振ってしみじみとしている。混ざりたかったのかな。ごめん。
「拙者は会長殿の警護にあたった後、できる限り組織の清掃をするつもりだ」
「すまないな。私の過失だというのに」
「会長殿……大丈夫です。拙者も共に、責任を背負うが故」
「ふっ。頼もしいな」
大変だな。これから何年分の失敗を取り返すんだ。
更にまだスフィンクスみたいな裏切り者もいるかもしれない。きっといくつもの危ない橋を渡るのだろう。
「あ、兄さんも治療頑張ってね」
「扱いが雑なんだよ! このクソ弟!」
サイアミがベッドから飛びかからんとする勢いで弟に怒声を浴びせる。
「サイアミ」
「はい」
が、厳格な父の一言ですぐに黙ってしまった。
はっ、ざまあないぜ三下。
「あはは……。何はともあれ、それじゃ!」
リントが腕を高々と突き上げる。
曇天に射す、陽の光のように。
「みんな、頑張ろう!」
「うん!」
「任せろ」
「当然よ!」
「承知」
「そうだな」
全員で、声を合わせて気合を入れたのだった。(サイアミ以外)
異界魔導衆との、マグネティック鉱石とリントの妹チラの交換まで残り、二日――。




