第三十七話 僕の、わたしの、憧れの人 その1
「いつまで僕を見下ろしている気だ、ボロ雑巾めが」
なんて暴言だ。ひどい。そこまで言わなくてもいいじゃないか。
「リントは返してもらうよ。このままさよならさ」
「は……? お前、まさかあいつの仲間か!? くくっ。お似合いだな。ハハハ!」
ツボに入ったのか、高笑いしている。お似合いだなんて、そんな。褒めてもなんも出ないですよ。
『ありがとう、ユキ。迷惑かけてごめんね』
内側から声が聞こえてきた。リントだ。
わたしは小声で応じる。
「いやいいよ。あれはちゃんと前日に相談に乗らなかったわたしの責任もあるし。でもみんな焦ったんだからね。今度はなんかあったらちゃんと相談する事! いい?」
『うん。分かった。それで、早速相談なんだけど』
「早いな。ラップバトルぐらいのレスポンスの早さだ」
『彼を……僕の兄、サイアミ・アルガルドレを改心させたいんだ』
わたしは、高笑いする茶髪の男を見やって。
「……あれを!?」
目をしかめた。(袋がちょっとキツく閉まった感じかな)
いや失礼か。まだ全然、彼を知らないし。もしかしたら根は良い子なのかもしれない。
『だから、攻撃を掻い潜って僕を前線に押し上げてほしい』
「……了解」
『我儘でごめん。よろしく頼むよ』
そっか。リントは優しいね。
わたしだったら……見放しちゃうかな。
「はぁ。いやー、笑わせてもらったよ」
サイアミの声。わたしは彼に向き直った。
「だが、当然ながら逃がすわけにはいかないな。取引もあるし、なにより」
サイアミはこれでもかと顔を歪ませて、掌を握りしめる。
掌が、妖しく光る。
「これから僕がボコボコにするからさ!『固有技術・茨の牢獄』」
訓練場の至る所に、茨が巻きついていく。
「……どこを狙ってるんだ?」
それはただの茨ではなかった。茨の周りに呪文が羅列されており、隙間さえも触れたらタダでは済まないようになっている。
「そうか」
これで訓練場からは出られなくなった、ということか。
てか、なんか気持ち悪っ! 壁のひび割れとか、なんかそういう感じあるよね。いや言ってる場合じゃない。これ、逃げ道が無くなったぞ……!
「さて、お前はどうやってズタズタにしてやろうか」
サイアミは顎に手をそえて、その辺を歩き回る。
茨の絡みついた時計を見やって。
「時間もあまりないしな」
異界魔導衆がここに到着してしまえば、自由に動けなくなる。これはユキにとっても、サイアミにとってもだ。
その前に決着をつけたい。
「……ちなみにさ。わたし結構前から、さっきの話聞いてたんだけどさ」
「?」
「そこのテカテカ茶髪くんはちっっっともリントを理解してないね」
「……あぁ?」
これでもかと顔を歪めるサイアミ。
ちょっと怖いけど、言ってやるぞ。
「そんなクズを理解する脳の容量はない」
「いいや。お前はこれから、嫌という程に理解するよ」
天才型の彼は複数の固有技術を難なく操れる。
今分かってる能力は五つ。風の剣と、そこから飛ばす斬撃。魔弾。影の人形。茨の魔法。
多分、彼にとっては氷山の一角。たった一部の能力だろう。
あちらから手の内を探られて、攻められたらひとたまりもないだろうな。
……だったら!
「まずは第一段階! 盗賊狼の森からずっと磨いてきた『基礎』! 『固有技術・排出』!」
先手必勝、しかない!
わたしは袋の中から、道を切り拓くために最適な道具を、素早く生み出す。
それは。
屋内における対人戦特化の兵器だ。この世界に存在するかは微妙なライン。
閃光手榴弾だ。




