第三十六話 リントVSサイアミ
英雄補完協会・訓練場。
雌雄決する刻。
「『固有技術・雷光魔剣』!」
「『固有技術・豪風魔剣』!」
リントは剣に稲妻を、サイアミは剣に暴風をまとわせる。
それが、ぶつかり合った。つばぜり合いとなる。
「兄さん、僕の話を聞いてもらうぞ」
「はん、クソの流れる音を聞いてる方がマシだな」
互いに、はじかれる。
そして間をおいてから――。
目にも止まらぬ剣戟が展開された。
両者一歩も譲らない。
「どうしてそんな風になったんだ! 兄さん!」
「どうしたもこうしたもない! 僕は強くなるのが好きだ! 勝つのはもっと好きだ! だからお前みたいな、のほほんとして生きてる奴が!」
サイアミの鋭い斬撃。リントの胴を掠める。
「ムカつくんだよ。それだけだ」
「ぐっ」
リントは体勢を崩す。
しかし、直ぐに立て直して。
「それは違う」
「あぁ?」
兄が訝しげな表情をするが、弟が続ける。
「そうだな。言葉にしようとするとなんか引っ掛かる。少し待ってね」
「待つか馬鹿! くたばれ出来損ない!」
苛立ちを抑えきれない、サイアミ。
口調と共に攻撃も荒くなる。
「いや、分かったぞ」
それを見たリントが気付く。
明るい茶髪をワックスでオールバックにした彼。目を引くような整った顔立ちの彼。貴族服の格好をしている彼。
その本質に。
「兄さんは、誰かに見せつけるような剣術を使う」
ズバリ、指摘。
兄の攻撃の手が、緩んだ。
「っく、あ」
「どうやら図星みたいだね」
リントの斬撃が腕、胴体、脚と炸裂する。追加効果で身体が若干の硬直。
サイアミは狼狽え、大きく後退する。
足取りが覚束ない。
「要するに、兄さんは――」
「……ったような」
「?」
リントの言葉を遮ったサイアミ。
少し俯いてから……。
顔を上げた。
「なっ」
その異常な相好に、リントは思わず声を上げてしまう。
初めて見る、兄の本性。
「知ったような口を聞くんじゃあないっ! この出来損ないがぁぁぁ!」
酷く歪んだ表情だ。とても人間とは思えない。
……これは、過大な承認欲求の発露だった。
彼の思春期。
『流石はアルガルドレの血脈ですわ! 出来損ないの弟とは大違い! サイアミ様、将来はわたくしと婚姻関係を結んでもよくってよ?』
廊下ですれ違うと、見目麗しい客人から。
『うむ。出来損ないの弟とは対を成す、類まれなる、天賦の才。羨ましいものだ』
会食の最中に、各地に名を馳せる武道家の親戚から。
そこかしこで彼を褒め称える言動が浴びせられた。
(そうか、僕は……才能があるんだ! そして弟はゴミみたいなものなんだ!)
そうして彼は、幼いながらに『怪物』に成ったのだ。
「兄さん」
リントの、か細い声。
しかし、もう届かない。
「いいか。この世はなぁ。才能、万能型が全てなんだ。 蛆のように生産された特化型ごときが……」
サイアミは、その才能を遺憾なく発揮するべく空中へ浮かび上がる。
左手で剣を構えた。
右手で指を打ち鳴らし、紫紺の気弾を無数に発生させる。
同時、ステージ上の足元が、闇に染まる。無数の影が、人の形を成してゆく。
そして。
「僕に勝てるわけないだろうがぁぁぁ!」
剣を振りかぶった指揮者。
空中から風の剣閃、紫紺の気弾が降り注ぎ、地上からは影の人形が、リントに襲い掛かる。
固有技術を三つ、束ねて使いこなす。数少ない、選ばれた者にしか出来ない芸当。
二つですら稀少な人材だというのに。
「最初から出力全開か……!」
あの時とは違う、最初から手加減なしの全力。
この取引など一切考えていない。
「はぁっ!」
空中からの攻撃をいなし、地上の影を薙ぎ倒すリント。
だが……。
(この物量……! やはりどうあがいても無意味なのか……?)
作戦を立てようにも条件が限られすぎている。
あの時とは違って場外に出られるが、攻撃には追尾機能がある。どこへ逃げても結局同じ。
固有技術で身体能力を強化しても、制限時間内に兄まで届かない。
(やっぱり僕は一つの事しかやれない、出来損ない、なのか……?)
影人形に、四肢を掴まれる。
「しまった」
「ククッ、今だ」
とどめを自らの手で刺そうと、地上へ急降下するサイアミ。
剣を振りかざす。
「自分のくだらなさに絶望しろ! 出来損ないぃぃーーーっ!」
「待て、サイアミよ!」
トイガーが立ち上がり、制止する。
だがもう遅い。
その兄の剣先は、弟の心臓を捉えていた。
(やはり、届かないのか。こんなところで、悔しいな……せめて。僕の妹チラと、僕のパーティーのユキ、ガーベル、マルティーズの無事を祈ろう)
目を瞑る。
これが己の運命と、受け入れようとした。
刹那――。
「遅くなってごめん」
誰かの声がして、どこかへ引きずり込まれた。
………………目を、開いてみる。
(ここは……宇宙?)
そこには、不思議な空間が広がっていた。
全方位が、極彩色の景色。
浮かび上がる、未知の物質。
リントは本の中でしか見たことがない、宇宙を想起した。
なんて綺麗なんだろうか。これが固有技術だとするなら、その人の心がこれほど美しいのだろう。
誰だろう。もしかして、迎えがきただけか。
(……いや、さっきの声は……!)
一方、土の舞台にて。
サイアミは、観客席の方を見上げていた。
「なんだ、お前は。薄汚い見た目だな」
冷静にけなすサイアミは、内心で動揺していた。
(見えなかった……何をした!? 何が起こった!? アイツが飛び込んで来たかと思えば、一瞬であの負け犬と消えやがった)
絶体絶命の彼を救った者は――。
「ここからは任せて、リント」
緑色の道具袋だった。




