↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/56

第三十一話 その麗しき武人、掴みどころなし

「……でな、拙者の部下がこう言うのだ。『先輩は腑抜け(ふぬ)すぎです』と。争い事を好まないのがいけないというのか? 頼まれた事を確(しっか)りこなしているのだから問題なかろう」


うんうん。生意気な部下がいるんだね。


「上司は上司で、頭が固すぎる。『指示通り任務をこなせ』と。少しもズレを許さぬ上、同じ事しか言わぬ。あれが所謂(いわゆる)ろぼっと、という物体なのか?」


はいはい。板挟みで大変だ。


「時にマドカ、空腹である……そなたに栄養はあるだろうか?」


花に名前つけた上に食べようとすんな。(ネーミングセンスは良いけど)


で、もうかれこれ上司とか部下の愚痴を一時間弱、聞いてるわけだけど。


さすがに留(とど)まりすぎだろ! 早くどっかいけよ!


『まだ進めないのか? 責任重大で気負うのは分かるが、なんかあったらすぐ言えよ』

『そうよ。ふぁーあ』


特にマルティーズちゃんが我慢の限界だ。愛嬌(あいきょう)のあるボイスで欠伸(あくび)をしている。


「あと一つ、ついでに聞いてくれないか」


もういいよ。今度はなんだよ。モテ過ぎて困る、とかだろどうせ。


整えられた亜麻色(あまいろ)の長髪(ちょうはつ)を耳にかけ直す。


そして。


「この敷地に、侵入者が現れたらしい」


ぞくり。


背筋が凍るような感覚なんて嘘だ。なんて思ってた。今の今までは。


だが、本当にあったんだ。こんな事は初めてだ。


心の底から、怖い。


最初からわたしの存在を知っていて、花に話しかけていたんだ。


気づけばその女性の視線は完全に花から道具袋(わたし)に向けられていた。


横一文字ながら、気迫のある眼光。


そしてわたしをひょいと拾い上げ、問いかける。


「何者だ? ここを何処(どこ)と心得ている? 狼藉者(ろうぜきもの)」


くそう。まさか屋敷に入れずに見つかるなんて。今すぐガーベル君とマルティーズちゃんに助けを求めよう。


……いや、待て。


「ふっ、ふふふっ袋になる魔法かけられた人なんです! ここには迷い込んだだけ! どうか許して下さい!」


『お前っ、声が大き……まさか、見つかったのか!?』

『なにしてんのよ、バカ!』


外の様子が分からない、ガーベル君とマルティーズちゃんが驚愕(きょうがく)している。でも安心してほしい。


まだ大丈夫なんだ。(焦りすぎてめっちゃ噛んだけど)根拠がある。


話を聞いていると彼女は仕事はそつなくこなすタイプだが、優しい。


それと、神父さんの一件でわたしは誤魔化す事に多少は慣れている。


一旦、可哀想な人を装(よそお)って撤退させてもらおう。


ここで戦闘が起きて人が集まるより、それが最善(ベスト)だ。


わたし一人でなんとかしてみせる……!


和装の女性が、眉をひそめて。


「ほう。それはお気の毒に」

「で、でしょう? では、見逃して下さ――」

「拙者の名はマフィン。自慢では無いが、固有技術(オリジナルスキル)で効果範囲内の特定の反応を知る事が出来る。いくつか質問に答えてもらおう」


わたしの言葉を遮(さえぎ)り、一方的に情報を押し付けてきたマフィンという女性。


ちょっと顔が近づいて、お香みたいないい匂いが……。今はそれどこじゃないな。


「ではまず、そなたはいま一人か? 仲間はいないか?」

「はい」


二人いるけどね。まぁ、勇者『パーティー』だし、あながち嘘ではないだろう。


「……そうか」


怖い間の取り方だなぁ。やめてよ。


「次に、ここに迷い込む前、これからどこへ何をしに行く心算(つもり)だった?」

「えっ……と」


あっ、どうしよう。詰まっちゃった。 ええと。


「その、この辺に変化の魔法に詳しい魔術師を探しに来てました」


良し(グッド)! いい切り返し! 勝った! 向こうへ行け!


「その魔術師の名は?」

「へっ」

「名は、と聞いているのだ」


キョドるわたしを、淡々(たんたん)と詰めるマフィンさん。


ぐっ、苦しい……!


うーん。


「クリキントン」

「ん?」


思いついた単語を言ってみた。確かに恥ずかしくて小声で言ったけども。聞き返さないでくれ。


「クリキントンです」

「クリキントンだな」

「はい」


繰り返さないでくれ。頼む。


「では最後だ」


良いのか。クリキントン通ったのか。


やった――。


「侵入者よ、十秒以内に攻撃する。反撃の機会(チャンス)をやろう」


マフィンさんが大きな棍をわたしに突きつける。


ですよねー。


これ、最初から全部分かってたんだな。くそう。蛇のように掴みどころのない人だ。


戦闘、開始。


「お(・)願(・)い(・)!」


二人に救援の合図を送る。すると。


「なっ、そなたらは――!」

「知ってるのかしら? アタシ達も有名になったものね」

「この場合は不名誉(ふめいよ)な方、だがな」


道具袋(わたし)から、マルティーズちゃんとガーベル君が飛び出す。


棍を弾(はじ)き、道具袋を取り返し後退(こうたい)する。


そう、道具袋(わたし)に本当に生物が入らないのか。貸し部屋わたし達はそれを試した。


結果はなんと大成功。どうやらわたしは実害のある生物を分解し、ない生物を保存しておけるらしい。


これで落し物を装(よそお)ってリントの所まで行く予定、だった。


しかし失敗。恐らくマフィンさんの固有技術だろうな。


「あれが会長殿が要注意だと仰(おっしゃっ)っていたガーベルとマルティーズか」

「ガーべル。アイツ、相当の手練(てだれ)ね」

「あぁ。立ち姿で分かる」


これまでの戦闘で、ずっと先制攻撃だった二人が先手を取らず、様子を窺(うかが)っている。


それだけでその女性の実力は計り知れないものだと理解。


「英雄補完協会(サポーター)・戦闘部隊長、マフィン・リリアーネ。推して参る」 

「っ、上層部の人間かよ……!」 


ガーベル君に冷や汗が伝う。


わたしもメルカ資料館で見たから分かる。英雄補完協会を支える四つの部隊の一つ、戦闘部隊。


彼女はその戦闘に特化した集団の、隊長だと名乗った。一番戦いたくない存在である事は確かだ。


だがもう、避けて通る事は不可能。絶対に誰かがここに残らなければならないだろう。


そんな空気の中。


「ユキ! 先に行って! ここはアタシ達に任せて!」

「ええっ!?」


マルティーズちゃんがわたしを指さした。


「二人のどっちかが行った方が……!」

「いや、恐らく俺達じゃ先に進めない。単純に目立つし、顔が割れてるからな」

「美男美女だと思うけど」

「………………」


無言の圧力。


そこには「適任はお前しかいない」という彼女の才能に対する期待と、「こんな時にふざけんなよ」という怒りが混じっていた。


「勇者の仲間だって知られてるって事ですよね。はは。分かってます……すみません、行ってきます。あとそいつ、花に話しかけてました」

「おい、さらっと言うな貴様!?」 


美麗(びれい)な和の武人、マフィン・リリアーネとの戦闘をガーベル君とマルティーズちゃんに任せて。


わたしはそそくさと豪邸の中へと入っていった。


異界魔導衆(ヴィジター)との、マグネティック鉱石とリントの妹チラの取引(とりひき)まで残り、三日――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。