第二十七話 追放されし勇者、過去と現在~その2~
会長室。
全体的にアンティーク調だ。
ワインレッドの絨毯、部屋の両サイドは全て本棚。そして会長御用達の木製机と革製の椅子。
厳格な雰囲気を醸し出している。
『父上。この度は如何なさいましたでしょうか』
リントは跪いて、丁寧に言葉を選んだ。
『リントよ、今からお前に試練を与えようと思う』
まさしく地位の高い者の発するような、重厚感のある声。
革製の椅子に深々と座るの男。白髪交じりの頭髪で、髭を貯えている。筋骨隆々にして、壮年の男。黒スーツとマントという、いかにも組織のトップといった装いをしている。
リントの父にして英雄補完協会の現会長、トイガー・アルガルドレだ。
『試練……ですか?』
息子がおずおずと問う。
『そうだ。入っていいぞ、我が宝よ』
『失礼します』
直接的に試練となるのは父、トイガーではない。
今、ギギギと会長室の扉を開けて入ってきた男。
リントの隣に跪く。
『不肖、サイアミ・アルガルドレが此度の試練を担当させていただきます』
『兄さん……!』
彼のもう一人の息子。リントの兄、風の剣士サイアミ・アルガルドレ。
オールバックの明るめの茶髪。リントと似た顔立ち、貴族らしい格好をしている。 キザな雰囲気の男だ。十五歳の弟からは三年ほど上だ。
サイアミが、父に聞こえぬようリントの耳元で囁く。
『覚悟しとけよ、出来損ないの弟。くくっ』
聞こえているであろう父は、無視して続ける。
『ではこれより、裏庭の訓練場にてリント・アルガルドレとサイアミ・アルガルドレの一騎打ちを行う。敗北者は本部より追放する。審判は我が下す』
『なんだって……?』
耳を疑った。今すぐ、実の兄弟と剣を交えろと言うのか? 負けたら追放だって?
兄と一対一で訓練をした事はあったが、実戦はした事がなかった。
二人は足早に、部屋を出ていってしまった。
まるで今から「雑務をこなすぞ」と言わんばかりに。
○○○
裏庭の訓練場。
土の舞台の上には、リントとサイアミの二人だけ。
観客席に、トイガー。髭をいじりながら、様子を見ている。
サイアミが、鉄剣をピシリと突きつけて。
『言っておくが、容赦はしないぞ。僕はお前の甘ったるさに虫酸が走ってたんだ』
『そんな……!』
これでも兄弟仲が良い時期はあった。リントは小さい頃、よくサイアミと一緒に遊んだものだ。だが今は最早、そんな関係はどこにもない。
『一体なんの為にこんな事をするんだ! 兄さん! 父さん!』
弟が叫ぶ。
父は押し黙って答えない。
兄の返答はこうだった。
『この世界はな、信用が全てなんだよ』
呆れた様子で肩を竦める兄。
『どういう意味だよ』
純真無垢な瞳で弟が問う。
『分からないならハッキリ言ってやるよ。出来損ないのお前がいる事で、アルガルドレ家の地位が下がるのさ。ハッキリ言って迷惑だよ』
『………………』
そんな風に思っていたのか。と、リントは怒るよりもショックで何も言い返せなかった。
『では諸君、そろそろ始めようか』
審判である、 英雄補完協会の会長が頃合いを見て告げる。
『両者、前へ』
リントは、固有技術で自らの剣に雷をまとわせる。
サイアミは、固有技術で自らの剣に風を吹かせる。
静寂。
まさに嵐の前の静けさ。 ピシリッ、と。レンガにひびが入る音と同時に。
『試練、開始』
戦いの火蓋が、切って落とされた。




