第二十六話 追放されし勇者、過去と現在~その1~
二年前。
とある森の、奥深く。石塀に囲まれた敷地。鉄の門扉をくぐれば。
緑豊かで、噴水を中心とした広大な庭。手入れされた生垣。
純白の豪邸が、聳えたっていた。
英雄補完協会の本部だ。重要な会議は全てここで行われているため、日夜絶えず、様々な人が出入りしている。
夕暮れ時、豪邸の裏庭。
『はぁっ!』
微風をまとわせた木刀を振るう、貴族らしい裕福な服を着た一人の少年。翡翠色の瞳をした彼は――。
リント・アルガルドレだ。
汗を拭いながら。空を見上げる。
『はぁ、はぁ。僕は一体、どうすればいいんだろう』
彼の得意とする固有技術は、雷属性の剣術。
元々備わった雷魔法と、努力で磨いた剣術の合わせ技だ。
その威力は確かに素晴らしく、抜きんでたものだった。
だが。彼はそれしか使えない。
そして上には上がいる。特にこの王家、アルガルドレ家の血縁や、それを取り巻く組織の者。そこには才能のある者や血の滲むような鍛錬を平気でこなす者がごまんと存在した。
当然、アルガルドレ家の直系の血筋であるリントは彼らと比べられる。
『え……噓ですわよね? アルガルドレの血を引いていて、この有様ですの? はぁ』
廊下ですれ違いざまに、客人から。
『それしか使えぬ上、威力も御粗末。まるで雑魚だな』
会食の最中に、他の組織の優秀な戦闘員から。そこかしこで彼を貶める言動が襲った。
ついには父親にまで。
『どうしてなんだ。我が息子なのに、才能が無い。努力も足りない。全く。お前は出来損ないだな』
自分は才能だけでなく、努力すら半端である、と。
リントは少しづつ、自分に希望を見いだせなくなっていった。
『何度繰り返しても、他の固有技術なんて使えない。そして雷の剣の威力はほんの少しずつ上がってる』
だが。今の彼にとって、それではまったく意味を成さない。
『特化型じゃ駄目なんだ。万能型にならないと……! もう一回!』
風属性の固有技術を使おうとした。だが木刀には、そよ風しか発生しなかった。
『畜生!』
リントは木刀を投げ捨てる。
――優しい子になりなさい。そうすればきっと、いつか、素敵な人に逢えるから。
母の言葉を思い出した。荒れた心が静まってゆく。
渋々、木刀を拾う少年。
『………………母さん、僕もう限界だよ』
と、そこへ誰かが歩み寄ってきた。
『リント様、トイガー会長がお呼びでございます』
穏やかな声をした女性。
いつの間にか、にこやかな表情で黒髪のメイドが隣に立っていた。ふわりと香る花の匂い。
『分かった。今、行くよ』
少年は重い足取りながら会長室へ向かったのだった。




