第二十五話 勇者リントについて
わたし達は一度、リントの貸し部屋まで戻ってきた。今後どうするか計画を立てたいのだが……。
非常に重たい空気。誰一人として言葉を紡げずにいた。
パーティーのリーダーが抜けてしまったから、という単純なものではない。
わたし達は、勇者パーティー。
グラヴィダ洞窟を四人のチカラで攻略したように。
一人でも欠けてしまえば、それは勇者パーティーではないのだ。
これから何をするか、みんなの答えは決まっているが……まずは。
「………………まずは、ユキの為にも状況整理からだな」
壁に背をつけたガーベル君が、話を切り出した。
「リントは英雄補完協会の今の会長、トイガー・アルガルドレの息子の一人だ」
やっぱりね……って、一人? 疑問が湧いたが、一旦はガーベル君の話を聞くことにした。
「英雄補完協会ってのはとにかく権力が強くてな。この世のあらゆる組織のトップなんだ」
そんなに規模が大きいのか。
「最初こそ組織内部がクリーンだったが、いつからか上層部の一部が|腐った。そいつらは魔王を倒す為に冒険者の手助けをするのを建前にして、冒険者から資金を巻き上げて私腹を肥やしている。実際、黄金都市なんてものが建設されたりもしたからな」
そうなんだ。なんて酷い。私利私欲のためにそんな事を。
「だから俺たちは英雄補完協会が関わるとこは利用を控えてる。冒険者ギルド、宿屋、魔法病院、資料館とかもそうだな」
そうか。なら、宿屋ではなく貸し部屋を利用しているのも説明がつく。運営側の問題だったのか。
ガーベル君は、少し間を置いて。
「……リントは、その英雄補完協会から追放されたんだ」
「なっ、なんで!」
心からの疑問だった。だって彼は優しくて、なにより強い。追い出す理由なんて、どこにも無い。
「どうやら王家の中では実力不足だったらしい。父親曰く、王家に泥を塗るな、とさ」
それは、予想外だ。そしてなんて言い草だ。とんでもない父親。
「だが今回。アイツが自由にしているのが気に食わないのかは知らんが、上層部が王家に呼び戻そうとしている。どうやって居場所を突き止めたのかも分からねぇ。行動の意図も読めなくて気味が悪ぃ」
なんて勝手なのだろう。彼の人生を何だと思っているのか。
「そして今回の手紙に書いてあった第一種会議ってのは、絶対参加だ。不参加者には……『相応の罰』らしい」
脅しだ。「お前が呼び掛けに応じなければ、どうなるか……分かるな?」という。
わたし達やチラちゃんだけにとどまらない、大勢の人に被害が及ぶかもしれないという事だ。
魔王を倒す。
そんな目標を立てて旅をするほどに正義感が強い彼は行かざるを得ないだろう。
「しかも条件は一人で、だ。俺たちはお呼びじゃないらしい」
「チラちゃんも助けなきゃだってのに、あのゴミ連中が……!」
マルティーズちゃんが射抜くように、ギロリと虚空を睨みつける。
「……リントも、仲間なんだから、頼れよって話でもあるがな。まったく」
ガーベル君が溜め息。
……わたしの責任だ。
これは、わたしが先陣を切って進めなければならない物事だ。
「……頑張って、考えよう」
わたしはガーベル君から降りて、机の上に乗る。
そして、紙とペンを出した。それを見て、立ち上がるガーベル君。
「ここから英雄補完協会の本部に行って、この街に戻るとしたら間に合いそう?」
「行きで二日かかるな」
「取引まで五日だから、当日までギリ間に合うね」
ガーベル君が紙に予定をサラサラと記入していく。
「戦いは避けられないだろうが……勝算はあるのか?」
「ないなら創ればいい」
そう、ないなら創る。だってそれが。
「それが、わたしの能力でもあるから」
みんなの気持ちは、一つ。
リントを、リントの妹のチラちゃんを絶対助けるんだ。
異界魔導衆との、マグネティック鉱石とリントの妹チラの取引まで残り、五日――。




