第二十三話 招待状
二日目の訓練の帰り。
わたしたち四人は行きつけの料理屋で食事を済ませた後、いつも通り貸し部屋へ戻ろうとしていた。
少し贅沢な赤色の絨毯が敷かれ、シャンデリアが明るく照らす……建物内の、ロビーにて。
「明日どうしようか? もう実戦でもいいんじゃないかと思ってるんだけど」
リントが立ち止まり、二人に話す。
え? 実戦ってなに? 怖い。
「ああ。俺もそうしようかと思ってた所だ。そろそろ資金も底を突いてきたところだからな」
「冒険者ギルドを頼るのは癪だけど仕方ないわね」
ガーベル君とマルティーズちゃんは乗り気ではないが行くそうだ。
うん、置いてけぼりだね。流石に質問をすることにした。
「あの……何の話ですか?」
「ん? あぁ、ごめんユキ。分かんないよね」
リントが苦笑。
「僕たち、実力がついてきて連携もとれるようになったからさ。クエストを――」
これからのわたし達がこれからしようとしている事。それを。
「あ、リント様」
……聞く前に、後ろから清らかな声がかかった。ウェルさんだ。
桃色の長い髪をなびかせて、しゃなりとこちらへ歩いてくる。歩く姿すら、美しい。
「リント様、少しこちらへ」
リントを名指しして、手招き。
「え、あっ、はい」
「なにちょっとドキドキしてんのよっ、バカね」
「痛いっ!?」
急に呼ばれてそわそわしだしたリントに、マルティーズちゃんがニヤニヤしながら強めに小突く。
「はやく行ってきなさいよ、むっつりスケベ」
「酷い言い草だ……」
ガーベル君とマルティーズちゃんの二人は先に部屋へ戻ってしまった。
とぼとぼ、とリントがウェルさんの元へ歩く。
「要件は――」
すると。
「耳を貸してくださいまし」
「ええっ!?」
思春期真っ盛りな男の子の耳に、ぷるりとした唇を近づける大人の女性。
魅惑的すぎる。
ぼそぼそと発される声が甘美な蜜のようで。
更に、するりと手を絡めているではないか。
なになに、なんなの、この展開!? わたし黙ってるしかないじゃん!? どどど、どうしたら……!
その手を、よく見てみた……ん?
なんだろう。お手紙……みたいなのを渡されている。
マジか。完全に……恋文じゃねぇか。良かったなリント、おい。
見上げて、リントの顔を見てやろう。
わたしは視線をリントの顔に向ける。
「え」
絶句した。
そこには、差出人を見たリントの青ざめた表情があったから。
明らかに喜ばしいものではない。焦燥、絶望。そんな感じだ。
「なんとお言葉をかければ良いか……。まずは気にせず、お休みになられた方が良いかと。それでは、失礼いたします」
意味深な言葉。
立ち尽くすリントを置いて、ウェルさんは行ってしまった。
「リント、大丈夫?」
わたしの声を聞くなり、ビクッと肩を震わせて反応するリント。
「だ、大丈夫さ。さぁ部屋に戻ろうか」
……後で話を聞かなくては。でもウェルさんの言う通り、とりあえず明日の朝にしよう。今は疲れてるだろうし。
わたしたちは部屋に戻った。
○○○
早朝。カーテンの隙間から差し込む朝日が目(?)を刺激する。
「うう、ん」
起床。
わたしがいつも寝る、リントの枕元。
どうやらいつの間にかわたしは眠ってしまったようだ。
今日も訓練……じゃなくて、実戦? とかいうのだったっけ。まぁ魔物と戦うんだろうな。
「おはよう、リント」
ふと隣を見てみる。
そこに、彼はいなかった。
これは毎回そうだ。やっぱ朝起きるの早いんだな。ガーベル君やマルティーズちゃんよりも早いから。
多分、荷物をまとめているとかそんなところだろう。
部屋を見渡してみる。
あれ。
居間にはいないようだ。
ぴょんぴょんと飛び跳ねてリントを探してみる。
「リントー? いないのー?」
返事は無い。化粧室にもいない。
どうやらこの部屋にはいないようだ。
………………というか。
荷物がない事に気がついた。
少しずつ怖くなってきた。嫌な予感、というやつだ。
机の上に乗ってみる。
……見渡しても、やはり誰もいない。
カサッ。
なにか、紙らしきものに引っかかったようだ。
振り向きたくない。
だが、振り向かなくてはならない。
………………。
招待状の上に、メモ用紙。
彼にしては丁寧な字で、文章が書いてあった。
『ごめん、ちょっと行ってくる』




