第二十二話 順調にして、香る未来
朝焼けが綺麗な、早朝。
閑静な住宅街に並んだ、一際大きな一軒。ここの貸し部屋を出て、廊下を歩くリント。
勿論、わたしも腰についている。
冷え込んでいる空気と、この世がひっくり返るような壮大な眠気に気を失いかけていた。
「みんなを起こしに行かないとね。ユキは朝、苦手なタイプかな?」
「………………え?」
「はは。聞くまでもなかったか」
なんだかちょっとコケにされた気がするが、反抗する気力すらなかった。ZZZ。
「あ、おはようございます」
リントが誰かに挨拶した。
あぁ、ウェルさんか。
「おはようございます、リント様。本日も訓練でございますか? お疲れ様でございます」
可憐な桃色の長髪、 柳のようにスラリとした長身、細身。まとうメイド服は彼女の清楚さをこれでもかと引き立てていた。
ウェルという名前で、ここの物件の管理人さんだ。
彼女が両手を前に重ねて、お辞儀。そんな丁寧な仕草でリントに応じた。
「はい。今から二人を起こしに行きます」
「ふふっ。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
柔らかな微笑のウェル。
ひらひらと手を振りながら、通り過ぎて行った。
ふわりと、大人びた薔薇の香りを残して。
正直、どこかの一族の使用人だと言われても違和感ない。わたしが男の子だったら惚れてしまうかも。
「……」
「リント? どうしたの?」
なぜか恥ずかしそうに顔を背けるリント。
あーっ、もしかして。
「ふーん。好きなの? ウェルさんの事」
「いや……そういうのじゃ」
「じゃあなんだっていうのよ」
「うーん。理由は分からないけどなんかドキドキする、かな。目が離せないというか」
思春期の男の子かよ。いやそうなんだけど。
ちなみにわたしも――。
「わかる、かわよいよね」
同意見だ。
麗しい見た目、優しさの滲み出る仕草、そして仕事ができてカッコイイ。完全無欠じゃないか。
『あ』
わたしとリントはハッとした。
ガーベル君とマルティーズちゃんを起こしに行かないと。
魔法にかけられたような不思議な感覚に、二人は奇妙さすら覚えたのだった。
○○○
訓練二日目。勇者パーティーは昨日と同じ、開けた森に訪れていた。
午前中はひたすら固有技術の特訓からだ。
眠い目を擦りながら。
得意を伸ばしたり、技を教えてもらったり、組み合わせてみたり。
とことん固有技術を強化した。
その結果。
「『固有技術・排出!』」
鋼の大剣を道具袋から出した。
これはリントの武器や技を見て、袋の中でイメージしたものだ。
そう。わたしはより素早く、具体的にモノを出せるようになった。(まだそこまで大きな質量のモノは出せないが)
これでもしリントが戦闘中に武器を無くしても補充できるぞ。
……そして、今。わたしに向かって迫り来るのは。
巨大な火球と弓矢の雨。
更に、雷をまとった高速の剣閃。
「『固有技術・収納』!」
わたしは大きく、包み込むように袋を展開する。
「うぐぐう!」
ちょっと……いや、かなり痛い。腹パンを食らったみたいだ。
でも。リント、ガーベル君、マルティーズちゃんの猛攻を受け切る事が出来た。これなら防御面はかなり強いんじゃないか!?
「よしっ……!」
「いいね! ユキ、かなり強くなったんじゃない?」
「流石だな。これならすぐに方針を『万能型』に切り替えられるかもしれんぞ」
「ま、アタシのは全力じゃないけどねっ。次は灰になるのを覚悟なさい」
大きく成長できた。ここまで効率が良かったのは、みんなが培ってきた経験値を貰ったからだ。
何度間違おうと、懇切丁寧な指導。決して怒鳴ったりなどしなかった。
信じてくれた。
これが何より嬉しかった。だから頑張れたんだ。
比べるまでもないけど、あのバイト先の劣悪な環境とは大違いだな。
この後の午後の特訓、連携も上手くいった。
これなら、スフィンクスとやらに勝てる……!
『荷物持ち』と呼ばれていたわたしにも、やっと自信がついてきたのだった。
「みんな、ありがとう!」
わたしは満面の笑み(袋のしわ)で、感謝を伝える。
みんなは実に、照れくさそうにしていた。
異界魔導衆との、マグネティック鉱石とリントの妹チラの取引まで残り、六日。




