第十九話 訓練初日 〜固有技術について〜
「早速だけどユキ。『固有技術』についてはどれくらい把握してる?」
リントがわたしに問いかけた。
「え……っと。人それぞれが持ってる技、みたいなものかな? それくらい」
「あー……五十点かなぁ」
「低っ!」
でも半分正解ってことか。じゃあ残りの五十点は……?
「見ててね」
リントが木の枝を握った。
そう、なんてことはない。そこら辺に落ちてた、ただの木の枝だ。
誰もいない方向へそれを向けて。
「『固有技術・熱波招来』」
マルティーズちゃんが扱っていた固有技術を、披露してみせた。
高熱の風が、吹き荒れる。それを浴びているこちらまで飛び上がりそうな温度だ。
「す、凄い出力! マルティーズちゃんと同じくらい――」
「なんですって!?」
……しまった。まずい気がするぞ。
マルティーズちゃんが激昂。ズンズンとわたしに詰め寄ってくる。
「あのね。リントの今の固有技術はアタシから教わったのよ。あと盗賊狼の時は出力を抑えたの。みんなを巻き込まないようにね」
「そ、そうだよ。僕のこれが太刀打ちできるものじゃないって。ね、もう分かったよねユキ?」
リントがわたしに目配せ。心の声が伝わってきた。
『めんどくさいことになるぞ』と。
「うん、うん! 流石マルティーズちゃんだよ! よっ! 最強の黒魔導士!」
「いいえ、アタシが納得してないわ。見てなさい」
『えっ』
みんなで一斉に、『えっ』。
その女黒魔導士は、最強として譲れない己の誇りがあった。それを刺激してしまったわたしの落ち度だ。もう止まらない。
「おい待て、抑え――」
「いくわよ」
ガーベル君の呼びかけも虚しく、杖を握ったマルティーズちゃんは天空に向かって。
「『固有技術・熱波招来』!」
破壊的な熱風を、解き放ってしまった。
リントは道具袋を抱え、ガーベルと共に飛び去る。
「ああああっっっつい!?」
かなり距離をとったはずだ。それなのにこの威力。どうやらあの時は本当に手加減していたようだ。
「どう! 凄いでしょ……痛いっ!? 」
戻ってきたガーベル君にゲンコツを喰らったマルティーズちゃん。痛そう。
「まぁ、こんな感じで固有技術は伝承できるんだ。そして固有技術の育て方としては二通り存在する」
この時点でなんとなく察した。ゲームが好きだから、分かるんだ。要は、スキルポイントの振り分けって事だ。
「まずは一つ。自分得意な固有技術だけを磨く『特化型』だな。はっきり言ってコッチが主流だ」
わたしは得意気に頷いた。
「もう一つは色んな固有技術を覚えて、組み合わせて派生させる。そこから新しい固有技術をも生み出す。『万能型』だな。こっちは才能がものをいうやり方だ。だが――」
「じゃあ特化型にしよう!」
わたしは即答した。
だが……。
「いや、ユキは万能型のが良いだろう」
………………え?
「僕もそう思うな。なんか、これまでの戦いを見ててそんな気がした」
「そうね。どう見ても異質な能力だし。ユキのは伝承とかできなさそう」
今、なんて? 聞き違いかな。わたしが万能だなんて言われたような気がする。
いやいや。あのね。
「む」
『む?』
わたしはありったけの声量でもって、叫んだ。
「無理ですよ! 絶対!!!」
無理だ。できるわけがない。万能型なんて。
だって、自分は。
――僕様、思うんだァ。お前ってさァ、ただの荷物持ちじゃんかァ
自分は、箸にも棒にも掛からぬ、使えない人間だからだ。
バイトでだって品出しが精一杯。今だって物をしまったり出したりできる程度だ。みんなには遠く及ばない。
「まぁ、やってみなきゃ分からないよ! とりあえずさっきの熱波招来を見せてみて。そこから成長方針を決めよう」
リントがわたしを切り株の上に置いた。
マジか? え、見て体験しただけで出来るようになるの? そんなバカな。
いやでもな。今のわたしは道具袋。なんてったって転生した身体なんだ。
「ふっ、見てなさい」
「それアタシのことバカにしてるわよね?」
マルティーズちゃんの威を借りて。(横で鬼のような形相をしているのは無視)
袋から、熱風を出すイメージかな! さしずめ、ドライヤー!
「『固有技術・熱波招来』!」
……起こったのは、本当にただのドライヤーのような熱風だった。生暖かい。
「……ま、まぁ最初はこんな感じだよ! 同じ固有技術を何度も使うと上達するから! ね!」
「そ、そっか! 『固有技術・熱波招来』!」
またしても普通の温風。
「頑張れ、ユキ!」
「お、おっ『固有技術・熱波招来』」
リントの励ましが痛い。ねぇ、もういいんじゃない? だれか止めてよ。なんかあまりにも滑稽すぎるよ。
「『固有技術・熱波招来』」
ぬるい風、来たれり。
「……あー、そうだな」
ガーベル君が一言。
「まずは王道の『特化型』からだな。自分の得意から伸ばそう。色々固有技術を見せるから、後々派生させていこう」
「……はい」
転生しても、地道な努力が必要になるとは。トホホ。
「気にするな。特化型から万能型にすればいい。それと」
「それと?」
「固有技術にはその先がある。熱波招来なら――」
「見てなさい」
「おい」
またしても自慢げに魔法を放とうとしたマルティーズちゃんがガーベル君にたしなめられた。(デコピン)
この後も様々な固有技術をみんなで使いながら学び、懸命に習得しようとしたのだった。わたしの結果はお察しの通り。
みんなが言うには、わたしは万能らしい。
本当にそんな才能、あるのかなぁ。




