第十八話 訓練初日 〜ユキの分析〜
「まずはユキ、お前の分析からだ。これで無いものを出せるとか、色んなモノをしまえるとか、そういう謎も分かる」
「あ、そっか」
そういえばガーベル君が固有技術を使ってわたしの事を調べてくれるって話だっけ。なんか恥ずかしいな。
「……」
ガーベル君は屈んで目線を合わせ、わたしをまじまじと見ている。
「ま、まだぁ……?」
「おい動くな。結構、発動条件が厳しいんだ」
な、なんか恥ずかしいよ。
美術の授業とかでこんなのあったよね。似顔絵を書いてみましょうみたいな。
てか固有技術に発動条件とかもあるんだ。へぇ。
「良し、もう動いてもいいぞ。『固有技術・事物解析 』」
ガーベル君の瞳に、不可思議な模様が浮かび上がる。彼にはどんな景色になっているのだろうか。
○○○
銀髪の狩人、ガーベルは星空を海に溶かしたような場所を揺蕩う。
ここは、小鳥遊有希の心の中だ。
この「固有技術・事物分析」は、対象の深層心理の部分にまで潜り込むこととなる。
そうして対象の情報の殆どを視る事が出来るのだ。
(コイツの心は、澄んでいるな。超がつくほどのお人好しだろう。リントと似た感じがする)
透き通るような、心の海。ガーベルはもはや、居心地の良さすら感じていた。
(ヤバい。このまま目をつぶれば眠ってしまいそうだ。しっかりユキの事を調べなくては)
深く、深く潜ってゆく。
道中には幼少期の記憶だけでなく、最近の盗賊狼との戦闘の記憶がエンドロールのように流れている。
プライバシーの保護を鑑みてガーベルは、必要な情報以外は極力見ないようにしているが。
それでも目に入ってきたものは仕方ない。
……例えば、部屋で一人。鏡の前で格好をつけながらラッパーのように魔法を唱えようとしている所、とか。
(何やってるんだコイツは……)
見なかった事にした。
(にしても、そろそろめぼしい情報が見つかるはずだが)
普段ならこの分析は短時間で終わる。
しかし、この道具袋は圧倒的例外。それゆえ、分析にはとてつもない時間がかかる。
(引き際か……)
ガーベルがそう思った時。
背後から強い光が差し込んだ。
ふと、ガーベルが後ろを振り向いてみると。
(これ、は……!?)
そこには他の記憶や情報とは違い、眩く発光するモノが。
ガーベルは、この固有技術で見た事がなかった。こんな光を放つモノを。
もう少しよく見せてほしい。
そう、近づいてみた。
その瞬間。
『ここから先へは進めません』
「なっ――」
絶句。
背後から謎の女性の声がしたのだ。
透き通る、綺麗な声音だった。
自分以外に、ユキの深層心理に入り込んでいる何者かがいる。
その事実を知りながらもガーベルは一度、固有技術を解除したのだった。
○○○
ガーベル君がすっと立ち上がる。
「随分、時間かかったね」
「そうよ。遅すぎるわ。さっき『すぐ終わる』とか言ってた癖に」
リントとマルティーズちゃんの言う通りだ。かれこれ三十分だろうか。彼はずっとわたしを見ていた。
これは、期待できそうだぞ。
「結論をハッキリ言おう」
ガーベル君が、重々しい口を開いて。
結果発表。
「……よく、分からなかった。すまない」
『え?』
全員の、素っ頓狂な声。
「色々ユキの記憶とかを見てきたが、今の姿に関するような有益そうな情報はどこにもなかった」
「そうなんだ」
マジか。じゃあやっぱ手探りで今のわたしに関する情報を集めなきゃなんだな。いきなり進化は出来ないみたいだ。くそっ。
「だが、間違いなく才能はあるぞ」
「はは。お世辞はいいですよ」
「本当の話だ」
ガーベル君が腕を組み、そう言った。
(あの話はしなくていいな。ここで変に動揺を生むより、先に訓練した方がいいだろう)
「まぁいい、次は『固有技術の伝承』だ。ユキ、お前には三人の固有技術を教える」
伝承? ……技を教えてもらえるって事!?
ヤッター! こういうのですよ、こういうの!
リントみたいな雷の剣? マルティーズちゃんの魔法? それともガーベル君の弓術?
どれもカッコイイよねー! あぁ、早く覚えたい! 楽しみだ!
こうして訓練は次の段階へ。「固有技術の伝承」だ。




