第十七話 猶予
昼下がり。まだ太陽は強く大地を照らしている。
アトスエンスの街を出て安全地帯の森へとやってきた勇者パーティーは、戦闘に備えて訓練をすることになった。
「ここが、今の僕たちの訓練場だよ。ユキ」
リントは道具袋を手のひらに乗せて、景色を見せてくれる。
森の中でも、一部開けた地域。確かにここならば多少派手な訓練をしても文句はないだろう。多分。
「へぇー......凄い使い込んでるんだね」
「ふふん。アタシら頑張ってるでしょーっ」
マルティーズちゃんが平らな胸をピンと張る。
確かに。スライスされた木が散乱しており、生えている木は傷だらけ。周辺の草も少なく、大地が焦げている。
恐らくリントの剣術や、ガーベル君の弓と短剣、マルティーズちゃんの魔法によるものだろう。どおりであんなに強いわけだ。努力家なんだね、みんな。
「ま、俺たちが戦う敵はあまりに強大だからな。懸命にもなるさ」
ガーベル君が、切り株にどっかりと座って。
「さぁ、本題に入るぞ」
手を組み、 神妙な面持ちで話し出す。
「ユキ。俺たちがどうしてグラヴィダ洞窟にマグネティック鉱石を採掘しにいったのかは分かるな? まずはそこからだ」
それはすでに、洞窟でリントから聞いた。
「うん。リントの妹さん......チラさんを救うためでしょ?」
「そうだ。その貴重な石っころと引き換えにリントの妹を救えるって訳だ」
確かリントによれば色んな人が巻き込まれてるんだっけ。
しかし、そこまでして手に入れるほど相手に価値があるのだろうか。分からない。
「それと、この取引には条件がある。『妹を返して欲しくば、三十日以内にこの街の聖アウェーク教会前に持ってこい』だそうだ」
難易度に対して期間が短すぎる。どう考えても 無理難題だ。
だがわたし達は攻略してみせた。ドヤァ。ざまぁみろ。
「そして今日でちょうど二十三日が経ったから、取引開始まであと丁度一週間だな」
一週間、か。この与えられた猶予で、どうするべきなのか。
………………。
ここで沈黙が流れる。
ガーベル君が、ため息を一つ。
そして、重々しい口を開いた。
「こんな巫山戯た真似をした、そいつの名は......」
勇者パーティーの空気が一変。
怒りに、満ち溢れる。
リントは歯ぎしりをして、マルティーズちゃんは強く拳を握った。
リントの妹、チラを誘拐した犯人の名は。
「『異界魔導衆・支配重力・スフィンクス』」
……え?
今、異界魔導衆って言った!?
メルカ資料館で読んだから分かるぞ。
そ、それってヤバいヤツらの一員じゃん!
魔王の精鋭部隊で、百年前からずっと戦い続けてるっていう……!
「ゲス野郎ッ!」
マルティーズちゃんが見たこともない剣幕で、木を殴りつけた。
その拳は木片が刺さり、血がでている。
わたしはビクリと震え、固まってしまう。
「落ち着け」
「落ち着いてられるわけないでしょ!? あの子が今、どんな辛い目にあっているのか……!」
そうだ。今この間にもどんな被害にあっているか分からない。一刻も早く助け出したい。
ガーベル君に窘められようと、焦るマルティーズちゃんの気持ちが分かる。
「ガーベルの言う通りだよ。冷静になって、マルティーズ。このままだとアイツの手の平の上だ」
「っ」
リントはマルティーズちゃんに言葉をかけられるほど、努めて冷静にしている。
俯いていて、表情が見えないけど……。
底知れない暗闇のような怒りを感じた。
「でもこんな取引、絶対成立しない……ガーべル、アタシの言いたい事は分かるわよね?」
「あぁ。あの野郎が正直にリントの妹を差し出すとは考えにくい。だから」
ガーベル君が懐からメモ用紙を取り出し、みんなに見せる。
「あの野郎ともし戦闘になった時に特化した訓練のメニューを作った。重力の能力を使うってのが割れてるからやりやすかったな」
そして、ガーベル君は切り株から腰を上げて。
「さぁ、訓練開始だ。気を引き締めろよ」
「はい! わたし、頑張ります!」
「分かった!」
「勿論よ!」
ガーベル君の鼓舞で、重なる声。パーティーの士気が高まった。
かくして、異界魔導衆・支配重力・スフィンクス討伐のための訓練が始まったのだ。
異界魔導衆との、マグネティック鉱石とリントの妹チラの取引まで残り、七日――。




