第十六話 メルカ資料館
煌びやかな朝日の差す、アトスエンスの街。
通行人の最も多い、賑わった繁華街……から少し離れた、比較的大きな木造建築。円柱状の外観が特徴的だ。
ここは、メルカ資料館。
世界全体的に普及しているこの資料館では、読み切りさえすればこの世の殆どの知識を得る事が出来る。
この建物も、英雄補完機関が出資した施設らしい。 一体どこまで資産を抱えているのか。
二階、本棚が立ち並ぶ落ち着いた空間にて。
リントとユキの二人は資料を探していた。
「見たいのがあったら言ってね。僕がページを開いてあげるから」
「かたじけない」
わたしたちは小声で話す。本なんて自分で取れって? 赤ちゃんかよって?
生憎だが、わたしは道具袋だ。だからリントにページをめくってもらうのだ。ばぶ。
「ええと、どれにしようかな」
本棚を眺めて調べ物をするなんて何時ぶりだろうか。小学校で漫画を読みに行った時以来かな。
まずは......。そうだな。
「『この世界を創造せし女神、その軌跡』っていうのを取ってくれる?」
「分かった」
本棚から、本を取り出すリント。パラパラとめくってもらいながら、ある程度の丁寧さで読み進めた。
いくつか分かった事がある。
あのギャル……女神は、この世界では名前が分かっていないらしい。だが概念としては存在しているのは確かだ。
でもわたしは知ってる。彼女は紛れもなく『セイクリッド・チカ』だ。自分で名乗っていた。
そして彼女は、この世界に様々な優秀な人材を送り出しているらしい。
……これだ。これはきっと『転生者』のことだ。
様々な、ってことは、わたしだけじゃないって事!? へー。探してみたいね。ちなみにわたしは優秀ではないと思うのだけれど……手違いかな?
あとは火山とか川とか、そういう地形も創り出したらしい。規模がでかすぎる話だ。この辺は直接聞かないと分からない。
それと……実はだらしないらしい、だとか。お酒が好きらしいとか。そういう根も葉もなさそうな事が書かれていた。
全部、合ってますけどね。
そんなところかな。
わたし、道具袋に関する事は記載されていなかったが、十分に有益な情報だった。
「もういいよ。戻して」
「うん」
リントは本を再び戻して、歩き出す。
次はどれを読もうか。
考えながら、眺めていると。
この世界に来てからずっと気になっていた事が載っていそうな本を見つける。
言いにくかったけど。
わたしは、勇気を振り絞って。
「つ、次はこれかな。 『この世界の縮図! 英雄補完機関と異界魔導衆』 ってやつ」
洞窟でリントから聞いて、ずっと気になっていたんだ。この英雄補完機関って組織について。もう一つは分からん。
「………………」
リントが動かない。それどころか。
強く、拳を握りしめている。
それをゆっくりと開いて。
「……これ、そんなに興味ある?」
怒っているのか、悲しんでいるのか。そんなどっちとも取れない実に苦しそうな顔をしてわたしに問いかけた。
当然だ。
だってリントの妹は、異界魔導衆の内の一人に囚われの身となっているから。
……本当はやめた方がいいよね。
それでも。
「ごめん。パーティーの一人として、知らなきゃいけないと思ったから」
「……いや、いいよ。読みなよ。君も知っておいて損は無いさ」
リントは渋々、その本のページをめくっていった。
英雄補完協会、とは。
今も全盛の権利をもつ王家、『アルガルドレ家』。その始祖アルガルドレが筆頭となって、魔王と異界魔導衆、その他軍勢と争いが始まった百年前。
敵を殲滅すべく、アルガルドレが王家に属する冒険者をかき集めて組んだ戦闘組織だ。
英雄補完協会は戦闘、諜報、流通、暗躍の四つの部隊から構成。それを他の組織が補佐する構図となっている。
しかしそれだけでは歯が立たなかった。
そこで、冒険者に魔物を倒せば報酬が手に入るという機会を与え、倒した魔物の材料を加工して、様々な設備を整えて資産を増やす。
これが冒険者ギルドに該当する。
そうして、あらゆる冒険者がこぞって魔王討伐に出向くようになって、やっと今の拮抗状態作るに至ったらしい。
また異界魔導衆とは。
魔王が組織した六人だけの精鋭部隊だ。
未だ前線に出ていない魔王ではなく、彼らがこの世界の脅威となっている。
六人の名前と特徴が載っているページを開こうとして――。
「その先は知ってるから大丈夫。そろそろ時間だね。お昼ご飯を食べに行こう」
リントが、本を閉じてそう言った。
「……うん、分かった」
午後の約束の時間までは、まだまだ余裕がある。
しかし、これ以上リントの負担にならないためにもこの場は切り上げざるを得なかった。




