第十四話 排出(ドロップ)、排出、排出! そして!
どうしよう! ゴーレムみたいなやつに勝ったと思ったら負けそうな勇者パーティー!
あんなに高火力を出したのに、超再生で負けそうだなんてそんなバカな!
そうだ。おどおどしてる場合じゃない。な、なにか……わたしにできることは……!
とりあえず覚えたてのあれを使ってみよう! 使えそうなものは……これだ!
「『固有技術・排出』!」
鉄製の盾を出した! 防御の乏しいマルティーズちゃんに渡しておこう!
「マルティーズちゃん、これを!」
「ん、ありがと! てかそんなの入ってたっけ?」
金髪美少女からの「ありがと!」は嬉しいね。えへへ。いや言ってる場合ではなく!
「ゴオオッ」
錬金土人形・王が、その大きな拳を振りかぶっている。なにをするつもりだろうか。
「っ、全員防げ!」
いち早く気づいた戦闘の玄人。声を張り上げる。
リントは攻撃を弾き返すような態勢をとり、マルティーズは盾を構えた。
その直後、岩の怪物は。
すくい上げるようにして地面を殴りつけた。
石、というより岩石の礫が無数に飛散する。
「マルティーズ、僕の後ろへ!」
破裂の時とはその速度が段違い。
そうか。この魔物は自分を試しながら……成長しているんだ。
わたしと、同じだ。
リントとガーベルの見立て通り、回避は難しいだろう。
「これは、きっついな!」
なんとか攻撃をいなし続けるリント。だが長くは持たなかった。
腕や胴体、脚に痛烈な被弾。吹き飛ばされてしまう。
「ぐうっ!」
「リント――きゃあっ!」
続いて後方にいたマルティーズも被弾。盾は一撃で破壊される。
二人とも、岩場に叩きつけられてしまった。その場にうなだれてしまう。
「グオオオオオ!」
勝ち誇ったように雄叫びを上げる、怪物。
だが明らかに弱っている。動きが鈍い。肩で息をしている。
あと、ひと押し。
あとひと押しさえあれば勝利だという事が明白だ。
「くそっ……! 俺じゃ有効打がない。考えろ、どうする……!」
歯嚙みする、銀髪の狩人。
わたしは懸命に身体を揺らし、リントの脚をペチペチと殴る。
「リント! しっかりしてよ! なんとかならないの! ねぇ!」
「ぐ……不甲斐、ないね。勇者だってのにさ」
「アタシには……期待、してないってわけ……? 最強の黒魔導士なのよ。うぅ」
辛うじて意識があるようだ。しかしもう戦うことは出来ないだろう。
誰も動けない。
……そ、そんなの。
そんなの、わたしがやるしかないじゃん! もう!
「えーっと、うーんと」
頭がショートしそうになるほど思考を巡らせる。
まず、さっきは具体的なイメージをして踏ん張ってみたら道具を出せたんだよな。
こう。自分が道具袋になったとして。持ち物把握は当然じゃん。出せるじゃん。
……ん? 出せる? おかしくない? だって道具って出してもらうものだよね。
どうなってんのわたしの身体。
「グオオ」
ヤバいっ! こちらにゴーレムが近寄ってくる。余り時間はなさそうだ。
とりあえず……!
「『固有技術・排出』!」
基礎を繰り返すんだ! それしかない! ゲームだってそこから技が派生するんだから!
わたしの中から沢山の道具が出てくる。
正直、今の所持品の中から打開策はない。だからもう一度『|成長』に賭けてみる! これは試練だ!
「ごめん、ガーベル君! ちょっと時間稼いでくれるかな!」
「なんか具体的な策があるのか?」
「わからん!」
「おい、真面目に――」
「でもやるしかないでしょ! いいから任せて!」
「……まぁそうだな。こんな状況なんだ。ほんの少しでも希望があればそれに賭けよう。人事を尽くして天命を待つ、ってな!」
ガーベルが持ち場を離れ、駆け出す。その手には短刀。
「ふっ!」
ゴーレムを翻弄しながら切りつける。
ありがとう、ガーベル君……!
「『固有技術・排出』!」
わたしは道具袋の中身を出し続ける。
……なんかカップ焼きそばとかテレビゲーム機の本体とか出てきてるんだけど。誰が入れたのこれ?
まさかマルティーズちゃんじゃないよね……てかわたしが把握してる袋の中身と違うんだけど?
まぁ今はいい。袋の中身が大分減ってきた。もう少しでなにか掴めそう!
ただの出来損ないには……荷物持ちにはもう、なりたくないんだ!
「『固有技術・排出』……うっ!」
道具袋を襲う、身体の異変。例えるなら……極限の空腹。
何だ? 固有技術を使うことを身体が拒絶した……? ていうかなんだこれ。お腹減ったんだけど。
そういえば、この世界に来てからなにも口にしていないな。美味しいものとかあるのかな。この戦いが終わったら食べてみたいな。
………………そうか! これ……袋の中が空っぽになったのか!?多分。
で? っていう。
そして、時間切れが来てしまった。
「はぁっ、はぁ……悪いなユキ、もう限界だ」
重い足取りをしたガーベルが、わたし達を庇うように立ちふさがる。
迫りくる錬金土人形・王。右ストレートの動作。
「せめてお前だけでも逃げろ」
ガーベルは、リントの腰から道具袋を引き剝がし。
大空洞の出口めがけて投擲しようとした。
その刹那。
「あのバケモノに向かって投げて!」
わたしは声を張り上げた。
「――っ」
ガーベルは一縷の望みにかけて、その道具袋をバケモノに投げる。
……良かった。ちゃんと基礎の積み重ねに意味があった。
『違和感』があったんだ。
わたしはさっき、鉄製の盾や、テレビゲーム機を出した。
なぜわたしより大きなモノが入ってる?
そして。
「『出せる』なら……」
大きく口を開けた。そう、例えるなら……食事。そのイメージがピッタリだ。
ああ、お腹空いた。
いただきます。
「『入る』だろ! 『固有技術・収納』!」
錬金土人形・王の、渾身の右ストレート。それが――。
大きく拡張した道具袋に飲み込まれた。
「もごもご!!!」
「ゴオオオオオ!?」
両者、困惑。慌ててその拳を引き抜こうとするバケモノ。
飲み込めず、いったん吐き出すかを迷う道具袋。
やばい、中々嚙み切れない食べ物を食べてる時に、飲み込めない感覚に近い。
はたから見れば、異様な光景。
「は……? は……?」
ガーベル君がドン引きしている。にゃんこミームみたいに。
え、マジでどうしよう。
めっちゃ石の味するし、気持ち悪いなぁ。でもこのまま吐き出したらどうなるか分からないし。
まぁ……いっか! 出したら反撃されちゃうし、このままの勢いで!
「んぐー!」
「グウウウウウ!!!」
錬金土人形・王は、道具袋にどんどん引きずり込まれていく。底なし沼のように。
そしてついに。
全身がすっぽりと入ってしまった。
道具袋は、元のサイズへ。
「勝っ……?」
実感がなさすぎた。だからちょっとだけ、警戒して。
よし。大きく息を吸い込んで。
「勝ったー!!!」
紛れもない、勝利。
その場でぴょんぴょんと跳ねて、喜ぶわたし。
荷物持ちって呼ばれたわたしだって、やれば、やれば出来るんだ……!
「……ふっ。やるじゃねぇか、ユキ。この土壇場で『成長』するとはな」
ホッとしたガーベルは岩壁にもたれかかりながら、そう呟いた。
かくして、勇者パーティーは錬金土人形・王を倒したのである。
(ここで勝利のファンファーレ)
……あれ? マグネティック鉱石、どうしよ!? 食べちゃったよ!




