第十話 洞窟の分かれ道~ガーベルサイド~
グラヴィダ洞窟、分かれ道の右ルート。ガーベルとマルティーズは二人並んで探索中。
「あの道具袋のこと、どう思う?」
ガーベルが、マルティーズに問う。
「あ、陰口しようっての? 性格悪いわねぇ」
どこか機嫌のよさそうな女黒魔導士。ウキウキでスキップしながら。
「異質すぎるって話だよ。俺は今まで女神に召喚させられましたなんてヤツは一人も見たことが無ぇ」
「アタシだって同じよ。そもそも女神って存在が実在するのかどうかってのも歴史でしか聞いたことないわ」
この世界では女神は歴史上の存在である。この世界の創設者でありながら、様々な逸話を残しているのだ。
「そうだよな。後で俺の固有技術で中身を見てみるが……一体どういう構造してるんだあれは」
「のぞき魔?」
「……はぁ」
「ちょっとふざけただけじゃん! 溜め息つかないでよ!」
ぷくりと頬をふくらませるマルティーズ。
「ま、良い子なのは間違いないから大丈夫でしょ。多分」
「そうだがな」
和やかな雰囲気。これが彼らのパーティーの良さと言えるだろう。実に微笑ましいものだ。
……歩くこと数分。
この洞窟は重力が強くなっており、普通に歩くより何倍もの体力を消費する。
そんな異常な疲れからか嫌な事を思い出してしまい、銀髪の狩人は顔を顰めた。
「……あぁ、そうだ」
ガーベルが声音を落とす。
鋭い目つきを鷹のごとく光らせて。
「あの野郎から連絡はあったか?」
このパーティーの、宿敵。名前を出すことすら憚られる最低の相手。
「……ないわよ」
マルティーズが拳をグッと握りしめる。ギリギリと歯ぎしり。
「あの卑怯者だけは絶対に引きずり出してぶっ飛ばすわ」
「当然だ」
ガーベルが虚空に視線をやる。
リント達が探索している方面だ。
「リントの妹、無事だといいな」
「うん」
その後、二人は複数の分かれ道にあたる。目印を置きながら、またしばらく歩いた。
そうして最奥部に辿り着く。
「ここが終着点、だな」
そこは、この洞窟において最も開けた場所。
大空洞だ。
重力石が密集しており、まさに星の海といったところだろうか。観光地ならば人気になること間違いなしだろう。
「綺麗……」
マルティーズは思わず見とれてしまった。
無理もない。ここまで全く魔物などはおらず、その上にこの景色を見た。戦闘に対する意識は薄れている。
その瞬間を狙うかのごとく、ソレは襲来。
「伏せろマルティーズ!」
「きゃっ!?」
突然、ガーベルがマルティーズを強く突き飛ばした。
そして。
ドン!と爆発にも似た轟音と振動。
地面に倒れ伏したマルティーズが目を開けると。
「うそ」
絶句せざるを得なかった。
眼前に、大穴と。
「ゴオオオオ!!!」
雄叫びを上げる、巨大な岩石の怪物がいたから。
その身体は宝石のように輝いている。
全長、五十メートルはあるだろうか。リントのパーティーが今まで出会った中で最大の魔物だ。
「岩に擬態してやがったのか。『固有技術・第六感』。これがなかったらと思うとゾッとするな」
だが、ガーベルはいたって冷静。なぜなら……修羅場を何度もくぐってきたから。
「マルティーズ! リント達に連絡しろ!」
「う、うん!」
マルティーズは急いで岩陰に身を隠す。
「さて」
とりあえず、状況確認からだ。そう思った銀髪の狩人は周囲を見渡した。
「っ」
そんな彼でさえ。言葉を失うモノが見えた。
大穴や、石の怪物の大きさではない。
恐ろしい事実。
中身がぶちまけられた荷物がそこかしこにあることだ。そしてそれが紅く染まっている。
「そういうことかよ……! 洞窟に冒険者が一切いなかったのはコイツが全員やっちまったからか……!」
「オオオオオッ!」
岩石の巨人が殴りかかる。それを身を捻って華麗に躱したガーベル。
重力が強まっているはずが、この身のこなし。本当に弓兵かどうかを疑ってしまう。
「厄介なのに見つかっちまったな。どうやってやり過ごすか……あ?」
ふと、その岩石の巨人の頭頂部を見やる。するとそこには。
紫色をした王冠のような鉱石があるではないか。
「『マグネタイト鉱石』じゃねぇか……! ならこいつは……『錬金土人形・王』だな。くそ、想定はしてたが出くわしたくなかった」
錬金土人形・王。あらゆる鉱石を食事とし、その鉱石の純度に応じて力を増す、という生物だ。
「倒すしかねぇ。だがどちらにしろ、あいつらが来るまで時間を稼ぐしかないな」
銀髪の狩人は、弓をつがえる。
その硬い岩肌に、弓矢は通るのだろうか? この重力が強まった状態でどこまで体力がもつだろうか?
懸命に思考を巡らせた。
「いや、違うな」
そしてなぜか、ガーベルは弓を背負いなおして。
「近接のが勝手がいい」
短刀を取り出した。
そう。彼のもう一つの戦闘スタイル、白兵戦だ。




