第九話 洞窟の分かれ道〜リントサイド〜
マグネティック鉱石を採掘するために、グラヴィダ洞窟を探索するわたしたち。重力石による重力増強に耐えながらも。
分かれ道。わたしと変態勇者リントは二人で左のルートを歩いていた。
「わたしは小鳥遊有希! ユキでいいです! ハイ、次キミの番!」
さっきの事を根に持っている。確かにキャンプしてるときに自己紹介できなかったけれども。スルーはないでしょ。全くもう。
少したじろぎながら、リントも自己紹介をする。
「ええっと、僕はリント。魔王討伐のために勇者として旅をしています。さっきは本当にごめん」
「知ってます」
「えぇ……」
そこからは、沈黙が流れてしまった。
まずい。勢いで話してしまったものの、そういえばわたしはコミュニケーションが苦手だった。
出会ったばかりの人と二人きりとなるとしんどいものがある。
なにか話題は……えーっと。共通の趣味とかがいいはず。
……そうだ! アレがあったじゃないか!
「まっ、マイモン! あれわたしもやってみたいなー……なんて!」
「あぁ、あれ面白いよね!ストーリーもさることながら、対人戦もしっかりしてるというか!」
「うんうん! 三対三のバトルでめちゃくちゃ戦略性があるよね!」
よし、会話が成立した!やはりゲームは全人類共通の話題!(当社比)
「リントが一番好きなモンスターは?」
「やっぱり一番カッコイイ、ソードマシンかな!二回行動で火力も抜群!」
「ソードマシンかっこいいよね!わたしも傾向としては似てるかも!マーデュラスが好き!まさに最強の魔導師って感じがしない!?」
「分かる! なんならスタンバイに配置してるよ!」
あぁ、なんかこんな風に友達と話したのは久々だなぁ。めちゃくちゃ楽しいや。
四人でパーティーゲームでもしよう。そうしたら絶対楽しいよ。
「ねぇ、ここを攻略したらみんなで四人用ゲームでも……えっ」
わたしの表情は固まってしまった。
黒髪の勇者が俯いている。ひどく、思い詰めた顔。
先程、旅人の助けになるという組織である『英雄補完協会』の話をした時もそうだが……今のはより深い感情を覗かせている。
「どうしたの?」
「………………」
何も話さない。
えっ、マイモン以外は遊ばないとかそういうこだわり的な? ねぇなんで!? なんか言ってよ!
待つこと三十秒ほど。
ようやくリントが言葉を紡いだ。
「頑張らなきゃいけないんだ」
覚悟のできた、芯のある一言だとなんとなく理解。
そして。
残酷な現実が突き付けられる。
「僕たちがここに鉱石を採りにきた理由はね。僕の妹、チラが囚われの身になっているからさ」
「……っあ」
思わず声が出てしまった。そうだったのか。
みんながあまりに普通に振る舞うものだから、そんなことがあったなんて分からなかった。
気づいてあげられなくてごめん。
「元凶は……そうだな。分かりやすく言うと、魔王に大きく関わる存在なんだ」
そうか。そいつがこの世界でとびきり悪くて外道な敵なんだな。
リントは続けて。
「そいつが言うには『マグネティック鉱石と引き換えに開放する』らしい」
そっか。ようやく、この旅の全容を理解した。
魔王を討伐する旅の道中、リントの妹、チラが敵の誰かに捕まってしまった。助けるためにはマグネティック鉱石が必要である、と。
「しかも僕たちだけじゃない。ここら一帯の冒険者にもそうした話を持ちかけているらしいから……見過ごせないんだ」
成程。狼男たちが言ってた「報酬金目当てだろ」っていうのはそういうことか。
大規模な話だね。とっても危険だ。でも。
「この旅はかなり危険さ。だから無理は――」
「勿論、協力するよ! 当たり前じゃん!」
布でできた身体を揺らしてリントの脚をペチペチと叩く。
そう、当然だ。だって。
「同じパーティーメンバー、でしょ」
「……はは、ありがとう」
わたしに向かって微笑むリント。
それに精一杯、袋をしわくちゃにして応えてみせた。
「あっ、そうだ。後でガーベルに――」
リントが何かを言いかけた時。
ドン、と。轟音とともに、洞窟内が大きく振動した。
「うわっ!」
「なになに!? 怖いって!」
頭上からぱらぱらと、星のように磁力石が降り注ぐ。
「……向こう側からだね」
心配そうに壁を見つめるリント。どうやら悪い予感は的中したようで。
ピピッ。
軽快な音が洞窟内に反響する。
リントは道具袋に深々と手を突っ込んで、光る石ころをとりだした。
「ひうっ!?」
「あ、ごめん」
もぞもぞする感覚が全身に広がる~! 急すぎるってば! もうっ! 非常時だからしょうがないけどさ!
光る石ころをリントが転がすと、そこに音声付きの映像が投影された。
成程。この世界では、これで連絡を取るのか。
映像には、岩陰からこちらを見ているマルティーズちゃん。
そして。
背後には巨大なナニカと交戦するガーベル君が。
「こちらマルティーズ! ヤバいのに見つかっちゃった! 今はガーベルが引きつけてくれてるけど、長くはもたないと思う! じゃ、援護しなきゃだから切るね!」
プツリ。連絡は途絶えた。
リントは石を拾い、踵を返して勇者の衣服を翻す。
「急ごう」
「うん」
歩いてきた道を、全速力で引き返すわたしとリント。
ガーベルとマルティーズが無事でいるよう祈っておきながら、急ごう。




