↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おばさん4人が異世界に転移しましたがチートスキル無かったのでとりあえず食堂始めました  作者: れもん。
第一部 転移編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/24

騎士団五十人、予約入りました




「騎士団五十人」


香織がそう言ってから、恵はしばらく動けなかった。


五十人。予約。騎士団。


単語の並びが嫌すぎる。


「いつ?」


真理子が尋ねると、香織は指を三本立てた。


「三日後」


恵が顔を上げる。


「近い!」


「でも時間は調整できるって」


「何時?」


「昼過ぎ」


真理子がすぐに尋ねた。


「一斉?」


「たぶん」


「たぶん?」


「まだ細かく聞いてない」


真理子が深く息を吸った。


「先にそこ聞いて」


「今から聞くよ」


「今からなの!?」


恵まで声が大きくなった。


香織は笑っている。


「だって、まず予約できるか聞かれたから」


真紀が尋ねた。


「で、何て答えたの?」


「確認してから返事するって」


三人が香織を見た。


香織が少し首を傾げる。


「……何?」


真理子が静かに言った。


「よかった」


「何が?」


「勝手に受けてなくて」


「私だってそれくらい考えるよ!」


恵は胸を撫で下ろした。


端の席で食事をしていたカイルが口を挟む。


「でも、受けるんですか?」


香織が真紀を見る。


真紀は少し考えてから答えた。


「条件次第かな」


真理子も頷く。


「人数と時間と料理を固定できるなら、検討できる」


恵が恐る恐る尋ねる。


「本当に五十人やるの?」


「まだ決めてないよ」


真紀が笑った。


「まず、どうすればできるか考えよう」


その言葉を聞いて、恵は少しだけ安心した。


少なくとも、いきなり五十人分の料理を作ることにはならなさそうだった。


*


香織が騎士団側に確認すると、今回の一行は町の外へ向かう任務の途中で、昼食を取りたいらしい。


人数は五十人。到着時間はほぼ同じで、長居はしない予定だという。


食事は、できるだけ早く提供できるものがいい。


香織から話を聞いた真理子は、すぐに言った。


「メニュー固定」


真紀も頷く。


「焼いた肉とパンとスープ」


「煮込みは?」


恵が尋ねると、真紀は少し考えた。


「五十人分を一気に盛るより、焼いた肉を順番に出す方がやりやすいと思う」


「確かに」


真理子が帳面を開いた。


「金額も一人あたり固定」


「団体割引とかいる?」


香織が尋ねると、真理子が即答する。


「いらない」


「早い」


「五十人だからこそ売上はまとまるけど、準備も人手も必要になるから」


「むしろ手間増えるしね」


真紀が頷く。


恵は少し安心した。


祭りのときとは違う。


今は、何を増やして何を減らすべきか、みんな少しずつ分かっている。


「席どうする?」


恵が尋ねると、真紀が客席を見渡した。


「全員座れるけど、配置は変えた方がいいね」


「通常のお客さんは?」


「その時間だけ止める」


真理子が答えると、香織が頷いた。


「じゃあ、店の前に案内出しておくね」


セラが少し不安そうに尋ねた。


「五十人って、本当に一気に来るんですか?」


カイルが答える。


「騎士団なら、たぶん」


セラの顔が引きつった。


「怖い」


「大丈夫」


恵が声をかけると、セラが期待するように顔を上げた。


恵は続ける。


「私も怖い」


「安心できないです」


みんなが笑った。


真紀は帳面に書かれた内容を一通り確認してから、香織を見た。


「この条件で向こうがいいなら、受けようか」


「分かった。確認してくる!」


香織はすぐに騎士団側へ返事をしに向かった。


しばらくして戻ってきた彼女は、満面の笑みを浮かべていた。


「決まったよ!」


恵は思わず天井を見上げた。


本当に五十人、来ることになった。


*


それから三日間、店では通常の営業を続けながら、騎士団を迎える準備が進められた。


パンの数、肉の量、スープの仕込み。皿の枚数に席の配置、料理を運ぶ順番から会計の方法まで。


真理子は必要なことをすべて書き出し、一つずつ確認していった。


真紀は客席の配置を考え、実際にテーブルを動かして通路の幅を確かめている。


そして二度目の配置変更で、真理子に怒られた。


「また勝手に!」


「でもこっちの方が通りやすい」


「先に言って!」


「今言った」


「事後報告!」


香織は騎士団側と何度も連絡を取った。


「到着時間は変わりませんか?」


「支払いはまとめてで大丈夫ですか?」


「遅れる方はいます?」


「飲み物はどうします?」


必要なことを一つずつ確認し、聞いた内容を真理子へ伝える。


その様子を見ていた真理子が言った。


「ちゃんと聞けるようになったね」


香織が振り返る。


「私だって仕事はできるよ」


「知ってる」


香織が一瞬止まった。


「急に素直」


「仕事は」


「最後いらない!」


恵は笑った。


厨房では、当日に使う食材の量を確かめていた。


五十人分を一度に作るとなれば、いつもの感覚では足りない。恵は鍋の大きさや盛り付ける量を確認しながら、作業の順番を考えた。


途中で何度か真紀と相談し、無理なく提供できるように準備を進めていった。


*


カイルにも、当日の手伝いを頼むことになった。


昼食を食べに来たところで、恵が尋ねる。


「本当に三日後、依頼ないの?」


「ないです」


「じゃあお願いしていい?」


カイルは少しだけ笑った。


「もう断るのも面倒なんで」


香織が横から言う。


「息子化進んでる」


「進んでません」


「賃金は払うから」


真理子が言うと、カイルはすぐに頷いた。


「そこはお願いします」


真紀が笑う。


「素直になった」


「学習したんです」


*


当日、騎士団は本当に五十人やってきた。


店の外から、揃った足音が聞こえてくる。


窓の向こうには同じ装備を身につけた騎士たちが並び、陽の光を受けた金具が鈍く光っていた。歩くたびに革や金属の擦れる音が重なり、いつもの通りとは違う迫力がある。


恵は窓の外を見て固まった。


「本当に来た」


香織が笑う。


「予約だからね」


「知ってるけど」


真紀は少し楽しそうだった。


「いいね」


「何が?」


「ちゃんと五十人」


「それをいいねで済ませる?」


真理子は帳面を確認している。


「人数も予定どおり。全員入れるよ」


セラは緊張した面持ちで入口を見ていた。


カイルが横から声をかける。


「大丈夫」


「本当ですか?」


セラが尋ねると、カイルは少し考えた。


「たぶん」


「そこは言い切ってください!」


*


騎士団が店内へ入ると、広い客席があっという間に埋まっていった。


椅子を引く音、装備の触れ合う音、あちこちから聞こえる話し声。いつもよりずっと大勢の人がいるだけで、店内の空気まで変わったように感じられた。


そんな中でも、香織はほとんど動じなかった。


「こちらから順番にお願いします!」


「飲み物は先にお配りします!」


「お食事は皆さん同じ内容です!」


「追加のご注文は、あとでまとめて伺います!」


声がよく通る。


指示は短く、迷いがない。


恵は厨房からその様子を見て、少し感心した。


香織は、人が増えるほど強くなる。


真理子は人数と支払い、追加注文の管理を担当する。


真紀は焼き台に立ち、恵はスープと盛り付け。


セラとカイルが料理を運んでいく。


鉄板の上では肉が次々に焼き上がり、香ばしい匂いが厨房に満ちていた。大きな鍋からは湯気が立ち上り、恵はスープを器に注ぎながら、次の皿を手元へ引き寄せる。


「一列目出ます!」


「はい!」


「次、十人分!」


「はい!」


「パン足りる?」


「ある!」


「スープあと十五!」


「分かった!」


恵は手を動かしながら、ふと気づいた。


今日は、まだ頭の中が混乱していない。


誰も一度にいくつもの指示を出さない。


今必要なことを、一つずつ伝えてくれる。


それだけで、全然違った。


*


騎士団には若い騎士もいれば、年配の騎士もいた。


食べる速度も人によって違い、中には驚くほど早く皿を空にする人もいる。


カイルが食器を下げながら言った。


「騎士って食べるの早いですね」


「仕事柄?」


恵が尋ねる。


「たぶん」


「足りてるかな」


「量は決めたとおり」


真紀が答えると、真理子が続けた。


「追加したい人は追加料金」


恵が少し笑う。


「徹底してる」


「当たり前」


*


途中、一人の騎士が手を挙げた。


香織が近づく。


「どうしました?」


「肉をもう一皿」


香織が真理子を見ると、真理子は頷いた。


「追加一」


厨房に注文が伝わり、真紀が新しい肉を焼き始める。


すると、その隣の騎士も手を挙げた。


「俺も」


さらに別の席から声が上がる。


「自分も」


真紀が笑う。


「増えたね」


「一気に言わないで!」


恵が思わず声を上げる。


「まだ三つ」


「三つでも!」


真理子がすぐに口を挟んだ。


「追加三。いったんそこまで」


「了解」


恵は頷き、目の前の盛り付けに集中した。


追加注文は真理子がまとめ、厨房には順番に伝えてくれる。


恵はその判断にかなり救われた。


*


そして、問題は思わぬところからやってきた。


入口だった。


外に通常の客が並び始めたのだ。


「うわ」


香織が窓の外を見て声を漏らす。


「何?」


真紀が尋ねる。


「外」


最初は五人ほどだった。


ところが少し経つと人数が増え、気づけば十人近くが店の前に集まっている。


恵が驚いた。


「今日この時間、通常営業止めてるよね?」


「止めてる」


「なんで並んでるの?」


カイルが窓の外を見ながら答えた。


「騎士団が入ってるからじゃないですか」


四人がカイルを見る。


「どういうこと?」


香織が尋ねると、カイルは不思議そうに言った。


「騎士団が食べてる店って、気になるでしょ」


真理子の手が止まった。


真紀が少し笑う。


「宣伝になってる」


真理子がすぐに言った。


「今は喜ばない」


「絶対入れないで」


恵も続ける。


香織が入口へ向かった。


「時間かかりますって言ってくる」


「今日その時間は入れないって言って」


「分かった」


「予約取らないで」


真理子が釘を刺すと、香織が振り返った。


「そこまで言う?」


三人が一斉に答える。


「言う」


*


騎士団は予定より少し早く食事を終えた。


会計もまとめて済み、追加注文の分まで金額が合っている。


真理子は最後の数字を確認してから、帳面を閉じた。


「合ってる」


真紀が尋ねる。


「終わった?」


「終わった」


恵は大きく息を吐いた。


「終わった……」


セラが椅子に座りかけたところで、カイルが言った。


「まだ外いますよ」


恵の動きが止まる。


「言わないで」


入口から戻ってきた香織が伝える。


「待ってくれてる」


恵は顔を覆った。


「帰らないの?」


「食べたいって」


真紀はもう厨房へ戻ろうとしていた。


「じゃあ開けよう」


「ちょっと休もう?」


恵が言うと、真理子が答えた。


「十分」


恵が真理子を見る。


「十五」


「十二」


「なんで刻むの」


香織が笑った。


「十五でいいじゃん」


真紀も頷く。


「休も」


恵は少し驚いた。


以前なら、目の前に客がいれば何とかして対応しようとしていたかもしれない。


けれど今は、誰かが限界になる前に一度止まる。


祭りの日の経験が、みんなの中にちゃんと残っている。


「じゃあ十五」


真理子が言う。


「十五ね」


恵も頷いた。


*


十五分後、店を開けた。


入口の外で待っていた客たちが、香織の案内で順番に入ってくる。


「お待たせしました!」


席に着いた客の一人が言った。


「騎士団が食べてたから、気になって」


カイルが恵を見る。


「ほら」


「本当だったね」


真紀は少し楽しそうだった。


「これでまた客増えるかも」


真理子が言う。


「増え方見てから喜んで」


「はいはい」


恵は笑いながら、新しい注文の準備を始めた。


*


閉店後、真理子が今日の売上を確認していた。


四人も、セラも、カイルも疲れ切っている。


恵は椅子に腰を下ろし、ようやく肩の力を抜いた。


「どう?」


香織が尋ねると、真理子は帳面を見たまま少し黙った。


「かなりいい」


「騎士団強い」


真紀が言うと、恵はすぐに続けた。


「二度と五十人やりたくない」


香織が楽しそうに尋ねる。


「また来たら?」


「断る」


真理子が何気なく言った。


「でも今日、かなり余裕あったよ」


恵が顔を上げる。


「私が?」


「祭りのときより」


「全然違った」


真紀と香織も頷いた。


「途中、怒鳴らなかったし」


カイルが少し考えてから言う。


「一回だけでしたね」


恵が振り返った。


「一回あった?」


「追加三つのとき」


「それ怒鳴ってない!」


店内に笑い声が広がった。


恵は少しだけ嬉しくなった。


別に、自分の苦手なことが得意になったわけではない。


一度にいろいろなことを言われたら、今でも頭が混乱すると思う。


でも、みんながそれを分かってくれている。


一つずつ伝える。


必要なら止める。


手が足りなければ助け合う。


だから、今日も乗り切れた。


恵は思った。


できないことが、全部なくなる必要はないのかもしれない。


誰かがそこを理解して、一緒にやってくれれば、それでいい。


*


老人が店の奥からゆっくり出てきた。


「五十人か」


真紀が尋ねる。


「昔あった?」


老人は笑った。


「昔でも、騎士団五十人はなかったな」


香織が嬉しそうに言う。


「記録更新?」


「そうなるな」


恵も少し笑った。


王都の二号店は断った。


店を増やすつもりもない。


それなのに、王都の話が来たり、騎士団が五十人もやってきたりする。


カイルが言った。


「もう、王都行かなくていいですね」


香織が即答する。


「遊びには行きたい」


「それは別なんですね」


「当たり前じゃん」


真理子が帳面を片付けながら言う。


「旅行ならいい」


「店休める日決めよう」


真紀まで前向きだった。


恵は笑う。


「本当に行く気なんだ」


香織が楽しそうに答えた。


「第二の人生なんだから楽しもうよ」


その言葉に、恵は少しだけ黙った。


第二の人生。


そうだった。


自分たちはもともと、四人で旅行を楽しむために出かけたのだ。


行き先は予定とずいぶん変わってしまったけれど。


恵は店の中を見回した。


笑っている友人たち。


穏やかな表情の老人と、すっかり店に馴染んだセラ。


そして、いつの間にか当たり前のように一緒にいるカイル。


見知らぬ世界に来たときは、これからどうなるのか分からなかった。


それでも今は、こうして笑って一日を終えられる。


ここでもう一度、人生が始まっている。


「じゃあ今度、王都旅行しよっか」


恵が言うと、香織がぱっと笑った。


「行こ!」


「日程決めてから」


真理子が言うと、真紀が笑う。


「また始まった」


恵も笑った。


この四人なら、どこへ行っても、たぶん結局同じように何とかしてしまうそんな気がした。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。