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おばさん4人が異世界に転移しましたがチートスキル無かったのでとりあえず食堂始めました  作者: れもん。
第一部 転移編

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10/24

祭り当日、だいたい全部起きる




祭り当日。


恵は、まだ空が薄暗いうちに目を覚ました。


窓の向こうは夜明け前の青みがかった色をしていた。遠くから荷車の音が聞こえ、普段なら静かな時間なのに、町はすでに動き始めているらしい。


よく眠れたのかどうかも分からない。それでも目を覚ました瞬間、今日やるべきことが次々と頭に浮かんできた。


予約四十人、通常営業、肉串。


仕込み、皿、パン、スープ。


ああ、もう嫌だ。


恵が布団の中でもう一度目を閉じると、隣の部屋からばたばたと音がした。


「起きてる?」


香織の声だった。


「起きてる」


「下行くよー」


元気だ。本当にこの人は朝から元気だ。


廊下を歩く軽い足音が遠ざかっていく。恵はしばらく天井を見つめ、それから諦めて布団を押しのけた。


*


厨房に降りると、真紀はすでに火を入れていた。


大きな鍋の底から小さな気泡が上がり始め、厨房にはじんわりと熱がこもっている。真紀は袖をまくり、鍋の中を確かめていた。


真理子は昨日のメモを見ながら食材の数を確認し、老人は椅子に座ってその様子を眺めている。


「おはよう」


恵の挨拶に三人が返事をすると、先に降りていた香織が笑顔で振り返った。


「今日だね!」


恵は真顔で答えた。


「帰りたい」


「まだ始まってないよ」


「だから」


真理子が顔を上げる。


「始まる前から弱音吐かない」


「弱音じゃない。予感」


真紀が鍋を見ながら言った。


「まあ、今日は忙しいだろうね」


恵が睨む。


「他人事みたいに言わないで」


「楽しみじゃん」


「私は楽しみより怖い」


「祭りの日なんてそんなもんだ」


老人の言葉に、恵はそちらを向いた。


「昔も?」


「昔はもっとひどかった」


「聞きたくなかった」


老人は懐かしそうに目を細めている。恵はそれ以上聞かないことにした。


*


朝の仕込みは、意外なくらい予定どおりに進んだ。


厨房には包丁の音と鍋の煮える音が重なり、焼きたてのパンの香りが漂っていた。


恵は木べらで鍋の底からゆっくりとかき混ぜ、煮込みの状態を確認する。柔らかく煮えた肉と野菜が、濃い色の煮汁の中から顔を出した。


真理子が用意した食材の数を読み上げる。


「予約分、二十。次の二十。通常営業分はここ」


「串、これで最後」


真紀が切り分けた肉を、香織が木串に刺していく。切り揃えられた肉を一本ずつ手際よく通し、完成した串を容器に並べていた。


「あと何本?」


「予定数まで二十四」


「もうちょい!」


恵は鍋を見ながら思った。


昨日、あれだけ準備した甲斐はあった。


これなら本当になんとかなるかもしれない。


そう思った直後、店の扉が開いた。


「おはようございます」


顔を出したのはカイルだった。


「早い!」


「警備、夕方からになったんで」


香織がすぐに振り返る。


「じゃあ今から働ける?」


カイルが固まった。


「挨拶の次、それですか?」


「助かる」


「本当に助かる」


真紀と恵が続けて言うと、カイルは二人を見比べ、最後にため息をついた。


「……何すればいいですか」


香織が嬉しそうに笑う。


「息子、優秀!」


「誰が息子ですか」


真理子が荷物の方を指さした。


「とりあえず、荷物運びお願い」


「はい」


もう普通に返事をしている。


すっかり馴染んでいた。


*


祭りが始まる頃には、町の空気は完全に変わっていた。


店の前を大勢の人が行き交い、笑い声や楽器の音、屋台の呼び込みが絶え間なく聞こえてくる。


色鮮やかな布飾りが通りの上で揺れ、普段は見かけない服装の旅人や商人たちが行き交っていた。焼いた肉や甘い菓子の香りが風に乗って流れ、遠くでは太鼓のような低い音が響いている。


いつもの町とは思えないほどの賑わいだった。


香織は入口から外を眺めていた。


「人すごい!」


厨房から恵が声を上げる。


「見なくていいから手伝って!」


「見てただけじゃん!」


「今は一秒でも怖いの!」


真紀が笑った。


「緊張しすぎ」


恵は振り返る。


「あなた、緊張してないの?」


「してない」


「なんで?」


「準備したから」


真理子が横から言った。


「その自信、どこから来るの」


「できると思ってるから」


真理子は小さくため息をついた。


「それでだいたい当たるの、腹立つ」


*


最初の予約客、二十人が到着した。


扉が開くと賑やかな声が流れ込み、客たちは楽しそうに話しながら店内へ入ってきた。外の喧騒に負けないくらい、食堂も一気に賑やかになる。


香織が客を案内する。


いつもなら一人ひとりに話しかけるところだが、今日はさすがに違った。


「今日はまとめて出しますね!」


「飲み物は先に!」


「煮込みと焼いた肉、順番に出します!」


声がよく通り、説明も短い。大勢を相手にしているのに、慌てた様子がまるでなかった。


恵はその声を聞きながら、香織って本当に営業なんだなと、今さらながら思った。


真理子は入口近くで人数を確認し、真紀は厨房の中心で焼き物を担当する。恵は煮込み、カイルは皿運びだ。


「ワシは?」


老人が尋ねると、真理子が即答した。


「座っててください」


老人は不満そうな顔をした。


「何かできる」


「じゃあ、パンお願い」


真紀が指示を出すと、恵もすぐに声をかけた。


「無理しないでよ」


老人は少し嬉しそうに頷いた。


「任せろ」


*


一組目は、思っていたより順調だった。


恵が煮込みを用意し、真紀が肉を焼く。香織とカイルが料理を運び、空いた皿を下げる間に、真理子が提供数を確認していく。


厨房には肉の焼ける香ばしい匂いが満ち、食器の触れ合う音が絶え間なく響いていた。


「あと四!」


香織の声が厨房に届く。


「煮込み四?」


「そう!」


「了解!」


恵は鍋を確認した。


まだ大丈夫。頭の中も整理できている。


「スープ三!」


「待って!」


恵が反射的に声を上げると、香織が足を止めた。


「……ごめん」


恵は一度息を吐いた。


「煮込み四」


「うん」


「そのあとスープ三」


「うん」


「それだけ今覚える」


「分かった」


カイルが香織に小声で尋ねた。


「本当に一個ずつなんですね」


香織も小声で答える。


「じゃないと怒られる」


厨房から恵の声が飛んだ。


「聞こえてるよ!」


二人が黙ると、真紀が笑った。


*


一組目が帰ると、次の予約まで少しだけ時間が空いた。


店内には使い終えた食器が重なり、椅子の位置もあちこちずれていた。カイルが皿を運ぶ音を聞きながら、恵は椅子に腰を下ろした。


「終わった……」


「まだ半分」


真理子の言葉に、恵は顔をしかめた。


「言わないで」


香織が水を飲みながら言う。


「でも、結構いけるね」


「あなたは接客だからね」


「接客も大変なんだけど」


「分かってるけど!」


真紀が二人の会話に割って入った。


「二組目も同じ流れでいいね」


真理子が頷く。


「今のところ問題なし」


そのとき、カイルが腹を押さえた。


「俺、もう腹減ったんですけど」


恵が顔を上げる。


「食べてないの!?」


「朝、軽く」


香織がすぐに言った。


「だから言ったじゃん、ちゃんと食べなって」


「それ、恵さんです!」


「同じようなもんでしょ」


「違いますよ!」


恵は立ち上がり、パンと少しの煮込みを用意した。


「今食べて」


「でも、次の予約が」


「今」


真理子も頷いた。


「働くなら食べる」


「倒れられる方が困る」


真紀までそう言うと、カイルは四人を見渡した。


「……四人いると、母親が四人いるみたいですね」


香織が笑う。


「豪華じゃん」


「圧がすごいです」


*


二組目の予約客も二十人。


ここまでは、まだ良かった。


問題は、予約客と通常客が重なった瞬間に始まった。


祭りを見に来たらしい客が三組。その直後、さらに二組。


次々と席が埋まり、料理を待つ客が増えていく。厨房では焼き物の注文と煮込みの注文が重なり、真紀の前には次に使う肉の皿が並び始めた。


扉が開くたびに香織が一瞬こちらを見る。


恵は嫌な予感しかしなかった。


真理子が尋ねる。


「通常客、今入れる?」


真紀は厨房と客席を見比べた。


「まだいける」


恵がすぐに言った。


「厨房はいけない」


真紀が振り返る。


恵は真顔だった。


「今、二十人分やってる」


「じゃあ、待ち時間伝える」


香織が頷き、入口へ向かった。


「少しお時間かかりますけど、大丈夫ですか?」


客は快く頷いた。


「待ってくれるって!」


恵は少し安心した。


だったら順番にやればいい。


そう思ったとき、外から大きな声が聞こえた。


「肉串、まだあるか!」


香織と真紀が振り返り、真理子がゆっくり顔を上げる。


恵は目を閉じた。


忘れてた。


*


「夕方からじゃなかった?」


恵が言うと、香織が答えた。


「外の人、もう売ってると思ってるみたい」


真理子が香織を見る。


「誰かに言った?」


「市場で話したかも」


三人の視線が集まった。


「……宣伝した?」


「ちょっとだけ」


恵が尋ねる。


「ちょっとって何人?」


「分かんない」


真紀が笑った。


「じゃあ、出しちゃう?」


恵は勢いよく振り返った。


「今!?」


「焼くだけだし」


「焼くだけが増えるの!」


真理子が口を挟んだ。


「今は予約優先」


真紀は少し考え、カイルを見た。


「じゃあ、カイル」


嫌な予感を察したカイルが身構える。


「なんですか」


「串、焼ける?」


「無理です」


「じゃあ、売る方」


「俺が!?」


香織が笑顔で言った。


「いいじゃん!」


「よくないですよ!」


真理子が止める。


「待って。会計できないでしょ」


「じゃあ、香織が外」


真紀の言葉に、香織が目を丸くした。


「私?」


「接客最強でしょ」


「店内は?」


「私たちで回す」


恵が固まった。


「私たちって……」


「恵、私、真理子」


「真理子は会計あるよ?」


「やるなら時間限定」


真理子の言葉に全員が顔を向けた。


彼女はすでに帳面と時計を確認していた。


「予約二組目が落ち着くまでは出さない。そのあと三十分だけ」


「それでいこう」


真紀が頷くと、恵は頭を抱えた。


結局、やるんだ。


*


二組目の予約客に通常客。


追加のスープ、パン、肉、煮込み。


厨房には湯気がこもり、熱した鉄板から脂の弾ける音が響いていた。客席からは食器を置く音や呼びかける声が次々に届く。


恵の頭の中に、情報が少しずつ積み上がっていった。


まだ大丈夫。


「煮込み三!」


「はい!」


「肉二!」


「はい!」


「スープ四!」


「ちょっと待って!」


「ごめん!」


恵は頭の中を整理した。


煮込み三、肉二、スープ四。


次。


「パン追加二!」


「今言わないで!」


カイルが固まった。


「すみません!」


「いい! あとで!」


「はい!」


恵は鍋に向き直った。


「肉まだ!?」


客席から声がすると、真紀が答える。


「今出る!」


「スープは?」


香織が厨房に顔を出した瞬間、恵の動きが止まった。


頭の中で並べていた順番が崩れ、何から手をつけるべきか分からなくなる。恵は握っていた木べらを止めたまま、鍋を見つめた。


真理子が気づいた。


「一回止めて」


香織も口を閉じる。


恵は目を閉じた。


「……待って」


厨房が一瞬静かになり、鍋の煮える音だけが聞こえた。


恵は一つずつ確認する。


「今、煮込み三出した」


「出た」


「肉二」


真紀が答える。


「焼いてる」


「スープ四」


香織が答えた。


「待ってる」


「パン二」


カイルが頷く。


「まだです」


恵は大きく息を吐いた。


「はい。そこまで」


全員が頷く。


「それ終わるまで、新しい注文こっちに持ってこないで!」


香織が即答した。


「了解!」


「はい!」


カイルに続いて、真理子も頷いた。


「分かった」


真紀だけが笑っていた。


恵が睨む。


「何?」


「いや」


「何?」


「ちゃんと止められるようになったなと思って」


「今それ言う!?」


「ごめんごめん」


でも、恵は少しだけ思った。


確かに以前なら、頭の中がぐちゃぐちゃになったまま、全部自分でやろうとしていた。


今は止めていい。頼っていい。


それが分かっている。


だから、また動ける。


*


ようやく昼のピークを抜けた。


厨房には使い終えた鍋や皿が並び、作業台には調理の跡が残っている。恵は熱気のこもった厨房を見回し、一度本気で床に座りたくなった。


「終わった……?」


真理子が答える。


「予約は」


「通常客は?」


「まだいる」


恵は天井を仰いだ。


「帰りたい」


カイルが笑う。


「二階ですよ」


恵はじろりと睨んだ。


「香織と同じこと言わないで」


「移ったのかな」


「嫌なもの移ったね」


そこへ香織が入口から戻ってきた。


「串、出せる?」


恵が顔を上げる。


「あなた、元気すぎない?」


「外、めちゃくちゃ人いる!」


「聞いてない!」


真紀はすぐに立ち上がった。


「じゃあ焼こう」


真理子が念を押す。


「三十分だけ」


「分かってる」


「追加仕込みなし」


「分かってる」


「売り切れたら終了」


「分かってる」


恵が手を上げた。


「私は?」


三人が振り返る。


恵は真顔だった。


「休んでいい?」


「十分」


真理子が即答すると、香織が言った。


「十五分でもいいよ」


真紀も頷く。


「休んで」


恵は少し驚いた。


止められると思っていた。


けれど、三人とも当然のように言ってくれた。


「じゃあ、十五分」


恵が椅子に腰を下ろすと、香織が水を置いた。


「飲んで」


「何か食べて」


真理子が言うと、真紀がパンを差し出した。


「これ」


恵は三人を見た。


「……優しいじゃん」


「倒れられたら困る」


真理子の言葉に、香織が笑った。


「素直じゃない」


「うるさい」


恵はパンを食べながら、少し笑った。


*


肉串は売れた。


ものすごく売れた。


香織が店の前に立った途端、人が集まり始めた。


鉄板の上で肉の脂が弾け、香ばしい煙が通りへ流れていく。こんがりと焼き色のついた肉から食欲をそそる匂いが立ち上り、通りがかりの人々が次々に足を止めた。


「焼きたてですよー!」


「今日だけ!」


「なくなったら終わり!」


香織の声はよく通り、笑顔も目立つ。


さらに、市場で知り合った人たちが次々と声をかけてきた。


「ここだったのか!」


「食堂の人!」


「これ、うまいぞ!」


いつの間にか、客まで宣伝を始めている。


カイルは横で串を渡しながら、その様子に驚いていた。


「営業って、こういうことなんですね」


香織が笑う。


「普通にしゃべってるだけだよ」


「絶対違います」


*


予定していた肉串は、三十分も経たないうちに完売した。


真紀が空になった容器を眺める。


「もっと作ればよかった」


真理子が即答した。


「駄目」


「売れたのに」


「売れたからこそ」


「なんで?」


「予定数を売り切って終わり。最高でしょ」


真紀は少し考えた。


「……確かに」


香織が店に戻ってくる。


「追加ないの?」


「ない」


「外、まだ欲しい人いるよ」


「ない」


「ちょっとくらい」


「ない」


恵が笑った。


「今日の真理子、強い」


真理子は平然と答えた。


「今日『も』」


*


夕方になり、ようやく店の中が静かになった。


窓の外からはまだ祭りの音楽や人々の声が聞こえていたが、食堂には一日の疲れを感じさせる静けさが広がっている。


カイルは夕方の警備に向かい、店に残っているのは四人と老人だけだった。


恵はテーブルに突っ伏した。


「もう無理」


香織も椅子に腰を下ろす。


「楽しかった!」


恵が顔だけ上げた。


「同じ一日過ごした?」


真紀はまだ元気そうだった。


「結構いけたね」


「あなたも別世界にいた?」


恵が理解できないという顔をする。


真理子だけは帳面を開いていた。


香織が尋ねる。


「今見るの?」


「今だから」


「明日でよくない?」


「今日のうちに数字だけ確認したい」


真紀が覗き込む。


「売れた?」


「売れた」


「どれくらい?」


真理子が少し黙ると、三人が顔を上げた。


やがて真理子が答える。


「かなり」


三人の顔が緩んだ。


疲れ切っているのに、自然と笑みがこぼれる。


老人がぽつりと言った。


「久しぶりだな」


四人がそちらを見る。


老人は店内をゆっくりと見回していた。


使い込まれたテーブル、並んだ椅子、厨房へ続く扉。どれも昔からそこにあるものばかりだった。


「こんなに人が入ったのは」


恵は何も言わず、老人の言葉を聞いていた。


「昔の祭りみたいだった」


真紀が嬉しそうに言う。


「来年はもっといけるね」


真理子が即答した。


「もう来年の話しない」


香織が笑う。


「でも、楽しかったじゃん」


「私は半分死んでた」


恵が言うと、真紀が笑った。


「でも、ちゃんと回ったじゃん」


「そりゃ四人もいるからね」


「五人じゃろ」


老人が口を挟むと、香織が笑った。


「そうだった! 五人!」


「カイルも入れたら六人だね」


真紀が言うと、真理子が頷いた。


「今日は本当に助かったね」


老人は楽しそうに四人を眺めていた。


「お前さんたち、面白いな」


真紀が尋ねる。


「何が?」


「誰も完璧じゃないのに」


四人が老人を見る。


「店は回る」


少しだけ静かになった。


恵は三人を見渡した。


自由すぎる真紀。現実しか見ない真理子。人と仲良くなりすぎる香織。


そして、一度にいろいろなことができない自分。


誰か一人だったら、今日みたいな日はきっと乗り切れなかった。


「みんな違うからじゃない?」


恵が答えると、老人は首を傾げた。


「何が?」


「できること」


「そうだね」


香織が頷き、真理子も小さく頷いた。


「まあ」


真紀は不思議そうに言った。


「別に普通じゃない?」


恵は思わず笑った。


やっぱり、そうなる。


四人とも、自分のやっていることを大したことだと思っていない。


「普通じゃないと思うけどね」


真理子が言うと、真紀が振り返った。


「そう?」


「少なくとも、普通の店なら今日の営業はもっと大変だったと思う」


「十分大変だったよ!」


恵が言うと、香織が笑った。


「でも、楽しかったでしょ?」


「……少しだけね」


その答えに、また笑い声が上がった。


大変だった。


もう二度とやりたくないとも思った。


それでも、悪くない一日だった。


窓の外では、まだ祭りの音楽が続いていた。






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