26話 同族達の用事
店員に案内された先は扉付きの小さい部屋だった。
小さいと言ってもあくまで俺基準の話で、人間なら十人弱は入れそうな程の広さだ。
真ん中にテーブルが置いてあり、そのテーブルを挟んで二人の吸血鬼と向かい合う形で座り込んだ。
因みに向こうは椅子があったが、俺が座る場所には椅子の代わりに大きな台座が置かれた。
台座の表面はふかふかした布のようなもので出来ていて座り心地がいい。
腹這いになった場合に身体のどこに布が当たれば心地いいか理解してる奴が作った感じだ。
うん、さっきの店のも良かったけどこっちの方が心地いい。
やっぱり値段って言うのは色んな質に関与するんだな。
「取り敢えずブラッドソーセージを10…いや20本。
後は適当に盛り合わせを持って来て。
血に関する料理優先でお願い。」
俺が座り心地を堪能ししている間に対面に座った大きい方で変わった服を着た吸血鬼の方が店員にそう注文をする。
店員はそれに軽く一礼をすると後ろに下がり個室の扉を閉めて見えなくなった。
注文方法も違うんだな。
なんか今のところさっきの店と同じ点が見当たらないぞ。
『飯を食う場所って点では同じだけどな。』
そんな事を考えてたら茶化すようにヴァゴスが反論してきた。
「さて。」
注文を終えて此方へ向き直った吸血鬼と目が合う。
チラリと横を見ると小さい方の吸血鬼もこっちをジーっと見ていた。
視線を戻すと大きい方の吸血鬼が口を開いた。
「急に声をかけたからまだこちらの名前も言ってなかったわね。
まずは自己紹介からしましょうか。
私はイザヨイよ。イザヨイ・ツキシロ。
こっちは…。」
「はーい。私はアカツキだよ。
アカツキ・ホホツエ。」
先に大きい方の吸血鬼が声を発する。
その後に小さい方が元気よく自分の名前を紹介した。
「もう分かってるかもしれないけど二人ともそちらと同じ吸血鬼よ。
そっちの名前も教えて貰えると助かるんだけど。」
えーっと。
どうしよう。
名乗る名前は港と同様にヴァゴスでいいのかな?
もし鑑定されたら厄介だし。
『ああ、それでいいだろうよ。
と言うより俺様が話す。
お前が話して何か襤褸が出たら嫌だしな。』
ぬう。
信用が無い。
いや、自分でもその方がいいって思うけどさ。
と言うか吸血種ってばれてるんだな。
『まぁ、店の選び方的にばれてるんじゃねぇかな、とは思ってたが。
ファンディで同族にばれた程度じゃ気になんねぇよ。』
ヴァゴスは俺にそう補足して喉へと意識を移した。
「あー、ヴァゴスだ。
姓は無い。只のヴァゴスだ。」
俺の管理下から離れた喉が勝手に蠢いて音を発する。
「ヴァゴスさんね。
もう一人の方の名前もお伺いしてもいいかしら?」
「っ!?」
ぬ?
にこやかに当たり前のように発せられたその言葉を一瞬理解できなかった。
ヴァゴスも一瞬固まって続けて言葉を出しそびれてる。
一瞬の間だったけど取り繕うには開けちゃいけない間だったな。
もっともここまで断言されてるって事は相手も確信があって言ったんだろうけど。
「あら?
ごめんなさい。
ひょっとして隠していたい事だったかしら?」
固まった俺達を見て申し訳なさそうにイザヨイが謝った。
ヴァゴスは数瞬の間どう返すか逡巡してたみたいだが、取り繕う事を諦めて口を開く。
「………ああ。
もう一人はグリムルだ。
こっちも姓は無い。
只のグリムル。」
「そう。
ヴァゴスさんとグリムルさんね。
よろしく。」
そう言って手をこちらへ出してきた。
なんだ?
ジッと俺がその手を見てると小さい方…アカツキだったか?が、クイッとイザヨイの袖を引っ張った。
イザヨイはチラッとアカツキを見ると一瞬悲しそうな顔をして手をひっこめた。
なんだったんだ?
『握手…かね?
手を握り合う動作だ。
一部の地方での人間の…まぁ、挨拶みたいなもんだな。』
ああ、そうだったのか。
知らなかったから反応できなかった。
悪いな。
「んで?
もし問題が無ければなんでもう一人に気が付いたのか教えて貰ってもいいか?
今後は露見するリスクは可能なら避けたい。
そっちの言ったように一応身を隠して動いてるからな。
鑑定では分からないようにしてたはずなんだが……。」
自己紹介の区切りが付いたからか、ヴァゴスがイザヨイにそう尋ねる。
尋ねられたイザヨイは少し困ったように首を傾げた。
「ええ、そうよね……。
なんで…なんでって言われると私も困るんだけど…。
分かるものは分かるとしか言えないから。
そうね、強いて言うなら記憶がダブって見えたから…かしら。」
記憶がダブってた?
どういう意味だ?
ヴァゴスが生物を食った時に得る様な他人の記憶って事か?
そんな事吸血鬼でもおいそれとできるとは思えないし、第一俺もヴァゴスも食われちゃいない。
もしくは別の何かしらの能力か?
「……どういう事だ?」
俺と同様ヴァゴスもその説明だけじゃわからなかったみたいで続いて質問を投げる。
「私は匂いで分かったよー!
身体から二種類の違う匂いがしたから!
混ざってる感じだったけど混ざりきって無い感じだった!」
が、唐突に横合いからアカツキと名乗った吸血鬼が話に割り込んで声を上げた。
そっちは匂いか…。
普通はずっとヴァゴスに包まれてる俺からは俺自身の匂いなんて全くと言っていい程に出ないと思うんだけどな。
それにヴァゴスは今は実質俺の血液に近い存在だ。
嗅ぎ分けれるようなものじゃないと思うんだけど。
……まぁ実際に混ざってる感じとは言ってるが、そんなレベルで済む話か?
「隠してたなら警戒させたかしら?
でも、私達は誰かに所構わず吹聴するような真似はしないから安心してちょうだい。
ディスプレイに誓うわ。
まぁ、隠しているのであれば心配なんでしょうけど、特別感覚が鋭かったり特別な力が無い限りは貴方達の融合じみた状態だと判別はつかないと思うわよ。
自分で言うのもなんだけど私もアカツキも普通とは言いづらいから。
だからそう心配することは無いわ。」
申し訳なさそうにイザヨイがそう言ってくる。
少なくとも悪意は感じないし申し訳なさそうなのも演技とは思えない。
……まぁヴァゴス曰く抜けてると言われる俺の感覚は自分もあんまり信用してないけど。
半分は何か感じ取ったらヴァゴスがどうにかしてくれるだろうと言う気持ちもある。
丸投げな感は否めないけど。
「……分かった。
ディスプレイへの誓いまでしたんだ。
今はその言葉を信じてやる。
じゃあ続いての質問で悪いが俺達に何の用だ?
まさか街中で一つの身体に二人入ってるのを見かけて怪しく思って声をかけたって訳じゃないんだろ?」
あんまり時間もない事だしヴァゴスがさっさと本題に切り込む。
ヴァゴスのその質問に対してイザヨイが続けて口を開く。
「ええ、そう言う訳ではないわね。
そもそも私は気が付かなかったんだけどこの子…アカツキがね。
懐かしい匂いがするって言ったから気になって。」
話ながらイザヨイがアカツキの方へと目をやる。
視線を感じて自分に話題が振られたことを感じたアカツキがはいっと元気よく手を挙げてから声を出す。
元気いいな。
「久しぶりにファンディに来たら懐かしい匂いがしたの!
それで探したら二人を見つけたんだよ!」
懐かしい匂い?
この二人とは会った記憶は無いけど。
「誰の匂いだ?」
「たちにぃとロムおじちゃん!」
いや、誰だよ。
「アカツキ、それじゃわからないでしょ……。
片方は私達の昔の同僚と…もう片方は何て言ったらいいのかしらね。
まぁ、そうね一応は恩人…みたいなものだったかしら。」
「昔、だった、って事はもう死んだ奴なのか?」
「いえ、袂を分かっただけよ。
ああ、と言っても別に喧嘩別れ、とかじゃないわ。
だから別段仲が悪いって訳じゃ無いわよ。
単に最近会って無かったからちょっと懐かしくて。
それで二人の匂いがするってアカツキが言ったから探したのよ。」
「……因みに最近会って無かったって言ったがどの位会ってないんだ?」
ヴァゴスがそう聞くとイザヨイは少し困ったように考えてから口を開いた。
「うーん、正確には分からないわ。
あんまり日付を数えて無くって。
多分1000年は経ってると思うけど……。
ああ、今って何年だったかしら?」
「1506年だったと思うよ!」
ヴァゴスが声を発する前にアカツキが声を上げる。
「ああ、じゃあ1506年以上は前ね。」
は?
1500年以上?
1500年以上前って……最近どころじゃねぇだろそれ。
どんな時間感覚してやがるんだ。
『さっきの人間も言ってただろ魔人族の時間感覚を当てにするなって。』
驚愕してるとヴァゴスがそう補足する。
いや、まぁ覚えちゃいるけどよ…。
それでも…ええ…1500年…。
それ、もう匂いの元の相手も死んでるんじゃないのか?
『いや、相手も魔人族だろうさ。
随分とざっくりとした時間感覚だ。
まぁ、俺様も1000年って聞いたところで少し前って思う分、あいつらと似たようなもんなんだろうが。』
そういやヴァゴスもかなりの年上だったな。
『前も言ったが魔界と地上じゃ時間の流れが違うんだけどな。
ま、年上な事は否定しねぇよ。』
俺に向かってそう言った後、イザヨイに向けて応答を続ける。
「それで、懐かしい匂いを辿ったら俺様に行きついたって事か。」
「ええ、そうよ。
もっとも、匂いが混じってたらしいから本人達じゃないとは思ってたけどね。
…あの二人が一緒に居る事は無いだろうし。
それでも昔の知り合いの匂いを出してる人が居たとなったら気になるじゃない?
それで話を聞こうと思って声をかけたのよ。」
ヴァゴスが続いて何か声を上げようとしたが「失礼します」と外から声が聞こえた事で開きかけた口を閉じた。
そのままスッと扉が開いてさっき注文を受けた店の人間が皿を持って部屋の中に入って来る。
注文品を持って来たみたいだな。
「先にブラッドソーセージになります。
他の品はもうしばらくお待ちください。」
テーブルに皿を置くと一礼して扉を閉めて出ていく。
「じゃあ、取り敢えず食べましょう。
食べてからでも話は出来るわ。
それに冷めちゃうと勿体ないから。
きっと吸血鬼なら気に入る味だと思うんだけど。」
イザヨイはそう言ってソーセージを取り分け始めた。
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