25話 二人の吸血鬼
先週は殆ど投稿できず申し訳ありませんでした。
「見つけた。」
ドアを開けた俺の目の前で立っていた二人の不死者。
その内の片方が俺と目があうと同時にそう言葉を発した。
タイミングと言葉の内容的に偶然じゃないから多分待ち構えてたんだろう。
見つけた、とは言われたがそれを聞いても、見つかった、とは別に思わないな。
そもそも探されてることを知らなかったし。
と言うか誰だ?
ヴァゴス、知ってる?
『いや、俺様も知らねぇな。
……赤い眼って事はおそらく吸血鬼だな。
それに黒髪にあの服…イズランディアの出身か…?
まぁ、ファンディ魔王国には普通に吸血種もそれ以外の不死者も闊歩してるからな。
そこら辺に居たところで不自然ではないが……。』
ヴァゴスも心当たりは無いらしい。
服?
言われてみれば片方の奴は変わった服を着てるな。
何と言うか一枚の布を羽織って腰の布で縛って纏めてる感じだ。
なんとなく高そうな雰囲気がする。
「こら、急にそんな事言ったら失礼でしょ。
いつも初対面の人相手にはしっかりと礼儀正しく話しなさいって言ってるじゃない。」
俺が困惑していると言葉を発していない変わった服を着た方…と言ってもエヴァーンと同程度の年齢だけど…が小さい方に向かって叱るように言う。
「えー、別にいいじゃない。
そんな事を気にしてるのっておねーちゃん位じゃん。」
叱られた方は口を尖らせ抗議する。
叱った方はそれを無視して此方に目線を合わせると軽く頭を下げた。
「はぁ…。
突然ごめんなさい。
もしよければ何処かで話をしたいのだけど、お時間ある?」
あー、どうしよう…。
そりゃ何かを話すくらいの時間は無い訳じゃ無いけど。
『……まぁ、話すだけならいいんじゃないか。
街中で襲ってくることもないだろう。
何の用事か俺様もちょっと興味がある。』
了解。
じゃあそう返事しよう。
「少しナラ問題ない。」
「そう、なら良かった。
直ぐそこに美味しいブラッドソーセージの店があるのよ。
そこでいい?
あ、勿論奢るから値段は気にしないで。」
そう言うと「ついて来て」と言って歩き始めた。
それに従って無言で後を追う。
にしてもブラッドソーセージ?
『血と肉を腸詰した料理だ。
血を使ってるからお前の舌にも合うかもな。
尤も使ってるのは人間でも竜でもなく家畜の血だろうがな。』
それを竜とか人間で作ったら俺の舌にも合うかもな。
取り敢えず反対するつもりもない…と言うより血をメインに使った料理って事でちょっと楽しみだ。
さっきヴァゴスの言ってた吸血鬼用の店なのかな?
『いや、普通の店だと思うぞ。
ブラッドソーセージは別に吸血鬼専用の飯って訳じゃねぇ。
元は人間が素材を無駄にしない為に開発したもんだ。
血は栄養があるからな。
ま、癖が強いから好きな奴は好きだが苦手な奴は苦手だ。
なんせ生肉より圧倒的にマシとは言え鉄臭いからな。』
血って美味しいのにな。
勿体ない。
『それは吸血鬼の舌の話だろうが。
さっきも言ったが人間とは舌の作りがちげぇよ。
そもそもお前は元が竜だからな。
竜も人間と比較すると舌の作りがだいぶ違うぜ。
人間の舌も竜の舌も体験した俺様が言うんだから間違いねぇ。』
そう言われると人間が感じる味も気になるな。
ヴァゴスが視界繋いだみたいに味覚も繋げないのか?
『可能か不可能かでいや可能だぜ。
ただ、眼の時と一緒で調整に面倒だがな。
一回設定しちまえば楽なんだが……。
まぁ、それはまた今度ゆっくり時間がある時にだな。
残念だが今は無理だ。
ただでさえ得体の知れない奴らだってのにそんな気を抜くような真似できねぇよ。』
ヴァゴスの言に釣られてちらりと前を歩く二人の背中に眼をやる。
こっちは気にせずに二人とも前を向いて歩いている。
俺はついてきていて当然って感じだな。
それとも後ろを向かなくともこっちの存在を察知できるのかもしれない。
あ、今の間に見ておこう。
この後の話し合いがどう転がるにせよ情報は大事だしな。
取り敢えず前を歩く二人の吸血鬼の内の大きい方に向けて鑑定を放つ。
もう何回も使ってるから慣れたもんだ。
そう思って鑑定したが、期待とは裏腹に始めて見る表示が返ってきた。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
鑑定が妨害されました。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
は?
『……俺様も最初に声をかけられた時に真っ先に使った。
だがお前と同じくその結果だ。
因みに小さい方の奴も同じ結果になったぜ。』
加護による能力が通じないって事か?
『さぁな。
俺様も今まで長い間生きてきた中でこの表示が出た奴は何人かいる。
恐らく何かしらの能力か加護で鑑定を無効化する類のものなんだろうぜ。
ま、何にせよ情報を入手するのは難しいってこったな。』
うーん、残念。
『別段敵意を持たれて戦う寸前って訳じゃねぇんだ。
そこまでどうしても知っておかないといけないって情報じゃねぇ。
話すだけなら別に鑑定で能力が分からなくても困りゃしねぇよ。』
まぁそうなんだけどさ。
こう、なんか情報的に優位に立っておきたいじゃん?
出来ないこと考えても仕方無いけどね。
『言いたいことは分かるがな。
ただ、見れないものは嘆いても仕方がねぇ。
警戒するくらいしか出来ねぇだろうから切り替えていこうぜ。』
警戒はしてるよ。
何かあったら直ぐに魔領法を展開できるようにしてはいる。
『ただ、先に手は出すなよ。
先に手を出したらこっちの罪だ。
あくまで向こうから手出ししてくるまで待機だ。
まぁ、雰囲気的にそんな事は無さそうだけどな。』
それも分かってるよ。
ファンディの法律だろ。
そんな風に警戒しつつヴァゴスと話していると前の二人は階段を上り、二階に向かうのかと思いきやそのまま二階でも更に階段を上った。
三階だな。
……三階って値段が高い店じゃなかったっけ?
『正確には高い傾向にある、が正しい。
実際高いんだがな。
三階で一番安い店でも一階の店の一番高い商品と同じ程度の値段だ。
ま、何にせよ奢りって言われてるじゃねぇか。
あんま気にすんな。
お前が手持ちの金で三階まで来たら間違いなく止めてたけどな。』
さっきのナグケルの休憩所の店で一番高そうなのは1万ルガロ弱だったな。
つまり三階の店は一番安くても1万ルガロはするって事か。
もし頼んでやっぱり奢らないって言われたら支払いに困るな。
本当に大丈夫かちょっとばかし不安だ。
『態々ピンポイントでお前を店で嵌める意味もねぇだろ。』
まぁ、それはそうだけどね。
別段金持ちって訳でもないし。
と言うか店でやっぱ払わないって言っても誘った本人が得をすることは無いだろう。
『いや、まぁ、店とグルだったり嵌める事自体が目的だったりの怨恨なら可能性はあるけどな。
ただお前は別段この国に来て恨みを買ったりしてないだろ。』
まぁ、それはそうだね。
恨みを買うほど人と知り合ってない。
…ああ、いや最初に接触した極彩色市場のアレーナム魔道具売ってた店主は買いに来なかった事を恨んでるんじゃないのか?
『まぁ、多少根に持ってはいるだろうが金をかけてまで俺様達に復讐したいって思う程じゃねぇだろ。
それこそそんな事をあの商人がしても1ルガロにもならねぇ。
商人なら自分に利の有る事をするはずだ。
そうじゃない事を感情論でする商人は大体直ぐに居なくなる。
そういう世界だ。』
ふむ。
じゃあ本当に心当たりはないな。
『最初からそう言ってるだろ。
そもそも心当たりがあったら適当に理由付けて逃げるようお前に勧めてるぜ。』
それもそうか。
「着いたわよ。」
ヴァゴスとそんな風に話をしていたら前を行く二人から声がかかった。
二人とも店の扉の前で振り返って此方を見ている。
壁を見上げると古そうな扉の上に看板が掲げられていた。
『夜の帳』
シンプルな店名だ。
因みに扉は相変わらず押して開ける形式だな。
ふと左右を見渡すとこの店の扉と隣店の扉までが結構遠い。
ナグケルの休憩所なんて数歩歩いたら隣の店の扉があったのに、ここはその数倍距離があるな。
『上に行けば行くほど高級志向って言っただろ。
それに合わせて一店舗当たりの店のサイズも広いのさ。
この屋敷には全部で41店舗あるがそのうちの半分は一階だ。
そして三階が一番店舗数が少ない。』
成程ね。
前を行く吸血鬼二人が躊躇なく店の扉を押して開く。
扉は開くと同時にカランコロンと音を奏でた。
そのまま店前で立ち止まる訳にもいかないから二人に続いて店内に入る。
「いらっしゃいませ。
何名様でしょうか?」
と、直ぐに店員がこっちに走り寄ってきた。
しかも丁寧な言葉だな。
流石高い店は違う。
中の店の壁も黒く光沢のある高そうな材質だ。
「三人。
一人は異形種。
個室でお願い。」
「はい、かしこまりました。
こちらへどうぞ。」
そう言って店員が先頭に立って歩いて行った。
追従する吸血鬼の後ろを俺もついていく。
さて、何の用事なんだろうな。
いつもお読みいただきありがとうございます。




