24話 提供された情報
さてさて旨い料理を堪能したところで本来の目的に戻るか。
食いつつ観察した感じだが店主はどうも調理場から動く気配がない。
基本的に客や給仕の人間族から注文を受けて軽く頷いたらその料理を作り始めるだけだ。
一種のそういう装置の様な気がしてくるね。
半面給仕の人間族……胸があるからメスだな。
今のところ人間の性別って外見だと胸位しか判別できない。
生殖器は服に隠れて見えないし。
竜だと顔つきと角の形が全然違うから分かるんだけどなぁ。
メス。
まぁ、ヴァゴスに言わせるならば人間の女だ。
旨そうな血の匂いがする。
多分血をくれって言ってもくれないだろうけど。
『ファンディ魔王国ではそうでもない。
道すがら他種族に血液の提供を求める吸血種は結構いるぜ。
基本的に血に旨味を感じる種族としては他の種族が美味そうな店を見つけるのと感覚的には変わらないんだろうよ。』
へー。
求められた側はどうするんだ?
『そりゃ言われた奴の性格によるとしか言えねぇな。
金の代わりに吸わせる奴も居りゃ、当たり前だが嫌がる奴もいる。
他に条件を付けたりな。
ま、一番多いのは金を払って吸わせる場合だが。
血をやるだけでそこそこの金が貰えるからな。
当然だが断られた上で無理に吸えば犯罪だ。
血を吸い過ぎて殺した場合も同様な。』
ま、それはそうだろうな。
取り敢えずこの国は種族の多様性が多い分だけ平等な気がする。
種族だからどうこう、じゃなくて悪いことしたやつが悪いって感じで。
『いんや、そうでもねぇ。
種族って観点で見りゃ確かに平等だ。
だが良くも悪くもこの国は実力主義なのさ。
力の弱い奴差別だよ。
ま、ある意味それはそれで一番平等なのかもしれねぇけどな。
自然の摂理だ。』
それは仕方ないと思うけどな。
俺だって力が無いから人間に捕まる羽目になった。
簡単だな。
だからと言って当事者からすりゃ恨むなって話じゃないし。
力が無いことを嘆いて相手を恨むのは自由だ。
まぁ恨んだところで大体の場合死ぬだけだが。
実際俺も死んだしな。
『ま、話を戻すなら血が飲みたいなら頼むのは自由だ。
別に変な顔もされねぇよ。
ああ、いや、トカゲっぽい外見で血を求めるのは意外に思われるかもな。
少なくとも吸血種とは認識されてねぇだろうしな。
ただ驚かれるだけで変な顔はされねぇよ。』
成程ね。
覚えておこう。
『言わないのか?』
さっきヴァゴスも言ったが高いんだろ?
お前が言う高いっていうニュアンスはこの国に来てから俺が払えない金額を総じて「高い」って言ってる気がするんだが…どうだ?
『ケッケッケ。
気が付いてたのか。
ああ、残念ながら足りないだろうな。
あの給仕の女が余程金に困ってるなら別だが…いや金に困ってたらそれはそれで高くなるか。
何にせよ今の手持ちじゃ全部払ったところでお前が満足する量の血は吸えやしねぇよ。』
だと思った。
んじゃすっぱり諦めるさ。
どうせ血なんてインジェノスで戦ったら吸いたいだけ吸える。
敵対する相手で俺の不利益にならないなら俺が遠慮する理由なんてないんだからな。
諦めて本題に戻るとするよ。
「オい。」
近くに給仕が通った時に声をかける。
丁度近くの別の客に飯を運んだばっかみたいだな。
ちゃんと聞こえたみたいで振り返ると此方に向かって歩いてきた。
「えっと、なんでしょうか?」
「あア、近くインジェノスに向かう予定がアって話ヲ聞きたい。
インジェのす出身の商人はここに居ナいか?」
そう尋ねると給仕は「えーっと」と首を傾げている。
「なんだい兄ちゃん。
インジェノスの商人を探してんのか?」
突然横合いから声が飛んでくる。
振り返って声のした方を振り返ると俺と同じくカウンターに座ってた客が声をかけてきた。
給仕との会話を聞いてたみたいだな。
給仕と同じように人間族だ。
別に隠すようなことじゃないし素直に頷く。
「アあ。」
「ふむ、因みにインジェノスの何を知りたい?」
「最近の話題ヤ変わっタ事が無かったカ、とかだ。」
「成程な。
ああ、紹介が遅れたな。
俺はグールシュカって香辛料の商人だ。
デバスター大陸でとれる香辛料の輸入を主に生業にしてる。
スパイスに興味があるならいくらか売ってやるぜ?
興味があるなら是非声かけてくれ。
さて、俺はインジェノスじゃねぇがプリマイブ大陸の出身だ。
ま、プリマイブ大陸っつっても南側だからインジェノスとはあんま国交は無い国なんだけどな。
そもそもこの国は航路としちゃインジェノスからはちと遠い。
探しても居るか分かんねぇぞ。」
あらら。
そうなのか。
「そこでだ。
トカゲの兄ちゃんが聞こうとしてたことを俺が答えられる範囲で答えてやるよ。
一応この国に来るまでにインジェノスの商人と情報交換することはあった。
もしかしたらそっちの欲しい情報を俺が知ってるかもしれねぇ。
変わりにあんたは俺に何か奢る。
これでどうだい?
奢るものは任せるぜ。
欲しい情報が無ければ奢らなくてもいい。
どうだ?」
うーん。
まぁ、それでいいか。
欲しい情報が無ければ奢らなくてもいいなら聞くだけ聞いてもいいだろうし。
「ああ、ジャあそれでイい。
気になるのハ、最近のインジェノスの帝都の動向ダ。
何か変わっタ事が無かったカ?」
『その聞き方はあんま良くねぇぞ。
普通は今から行くなら注意する事とかを一旦聞くもんだ。
ピンポイントで帝都で何か変わったことがないか聞くのは何か起こる可能性を知ってる奴だけだぜ。
ま、もう言葉にしちまったもんはしゃーねぇが。』
おっと。
やっぱりこういうのは向いてない。
でも極彩色市場でヴァゴスも同じように聞いてなかったか?
『ありゃ世間話の流れで言っただけだからいいんだよ。
今回は明らかにこっちが情報を欲して話を振ってるだろ?
そういう時に直接自分の欲しい情報をダイレクトに言うのはあんまりよくねぇ。
特に商人なんて人種にはな。
しかも俺様はインジェノスとは言っても帝都とは聞いてないぜ。
帝都に限定しすぎるのは更に良くねぇ。』
むう。
気になったことをそのまま口にしちまった。
さっきまでの流れで俺がそのまま話してたからな。
ヴァゴスに変わってもらえばよかったか。
まぁ、もう遅い。
せめて気を付けて言葉にしよう。
「ん?おお…。帝都ね。
うーむ、帝都での変わった事か…。」
相手もあんまり想定してた質問じゃないのか腕を組んで首を傾げている。
「漠然としすぎてて何ともなぁ…。
ああ、先に聞きたいんだが最近ってのは具体的にどの程度のスパンの事を指している?
トカゲの兄ちゃんは魔人族だろ。
時間感覚が違ったら困るから具体的に数値で聞いておかないとな。
俺の認識している最近はここ一年前後を指しているがいいか?」
「いヤ、ここ一か月以内だ。」
「ああ、本当にごくごく最近の話か…。
悪いな魔人族の言うごく最近は偶に十年以内を指してたりするからよ。
うーむ、となると本当に最近だな。
えーと、つまり逆算すりゃ俺が話したインジェノスの奴が取引に出立する寸前か…。
悪いな期間がギリギリ過ぎて多分情報が回ってきてねぇ。
……あー、いや、待てよ。
国を出る寸前にインジェノスの商業組合からは変な通達が出回ったって言ってたな。
何だったか……。」
商人の人間は思い出そうと頭を傾けている。
通達ね。
『因みに商業組合は名前の通り各国での商業をある程度取り仕切ってる組織だ。
大体の商人が属してるな。
別に属してなくてもいいが属してるとある程度旨味がある。
まぁ、上納金が必要だったりするから下っ端商人や取引物の決まってない行商人なんかは属してない方が割がよかったりもするがな。
国際狩人機構と違って国を跨ぐようなデカい組織って訳じゃねぇ。
あくまでその国の傘下にある組織だ。
だから何か商人に知らせる事があれば国から通達が行くのさ。
そして商業組合が組合員に伝える。
商人ってのは各国に行くからな。
情報の収集や拡散に向いてるのさ。
大体の国で似たような仕組みになってる。』
成程ね。
なんとなくだが分かった。
俺が居なくなった頃に出された通達か。
関係ないかもしれないけど気になるな。
「ああ、そうだ!
思い出した。
竜だ。」
ん?竜?
「竜を見かけたら連絡しろって通達だ。
確かデカい奴じゃなくて小さい竜だ。
詳しくは聞いてないが子供の竜だな。」
ほう。
「変な通達だろ?
別に義務じゃねぇが有力な情報だったら報奨金が出るって話だ。
ただ、どういう情報なら有力なのかの話はされてなかったみたいだな。
だから変な話だ、って言ってたぜ。」
人間…グールシュカは思い出せてよかったよかった、と一人で頷いている。
「ふーむ。
変わった話って言うと俺はこの位しか聞いてねぇな。
どうだ?トカゲの兄ちゃんにとっては有力か?」
ふむ。
どうだろう。
有力かな?
『何とも言えねぇなぁ。
取り敢えず帝国がお前を探してるらしい事は分かったしいいんじゃねぇの。
当初の目的のエヴァーンの事は分からなかったがな。
ま、元からこの店だけで情報が集まるとは思ってなかったし。
軽く適当に安いもの奢ってやりな。
酒でいいだろ。
後、奢る序に他の店で帝国の商人が居そうな場所に心当たりがないか聞いてみな。』
給仕を呼んで安いが酒を注文してやる。
酒が来たのに合わせて他に帝国の商人に心当たりが無いか聞いてみる。
「うーん。
さっきも言ったがインジェノスの商人が直接このデバスターに来る事は少ねぇんだよなぁ。
ヒュマスが集まる店なら知ってるからそこを教えてやろう。
二階にある『王様の舌』って店だ。
人間族の舌に合った料理が多い。
ちと強気の価格設定だが味は保証するぜ。」
二階の王様の舌ね。
了解。
俺はグールシュカに礼を言ってから給仕にカードで金を払い、ドアを開けて外に出る。
さて二軒目の…王様の舌だっけ?その店に行くとするか。
そう思って出た廊下で顔を上げると目の前にいた二人の人間と目が合った。
背が低い…人間の子供だ。
エヴァーンと同じ位の年齢とそれより少しは上の人間…。
……いや、違う。
二人とも人間じゃない。
匂いが生者の匂いじゃない。
今迄人間に感じてた旨そうな匂いが全くしない。
目の前の二人は…同族だ。
俺と目が合うと同時に二人の内の小さい方の同族が口を開く。
「見つけた。」
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