27話 交渉
俺もヴァゴスもまだ聞きたい事は沢山あったが、イザヨイの言うようにそこまで急ぐ事じゃない。
いや、道のりを急いではいるんだけど少しの間話を聞く位の余裕はある。
序に飯を食う時間も。
それに折角の好意を無碍にするのも気が引けるしな。
……いや、高い店だからじっくり味わいたいとかは思ってない…少ししか。
少しだけね。
イザヨイがブラッドソーセージと一緒に店員が運んで来た小さい皿にソーセージを乗せ換えている。
皿に4本ほど盛るとその皿を俺の目の前に置いた。
「はい、どうぞ。」
無言で受け取って口に運…どうするか。
魔領法使って大丈夫か?
今の形態の手だと口に何かを運ぶのは不得手だ。
さっきの酒場では魔領法を使って上手く装ったけど…。
『………ま、他に手は無いだろう。
俺様が使い易い手に変形するって手段もあるが何にせよ勘づかれるだろうな。
つまりどの手段を使っても一緒ってこった。』
……とっても、酷く、めちゃくちゃ、全くもって気は進まないけど食べないって手段は?
『それもいいが酒場から出たところ見られてるからな。
ここで食べないのも不自然だろ。
なら何で注文の時に言わなかったって話だしな。
いっその事食べさせてもらうか?』
それは……何か嫌だな。
……いや俺の感情で決めるのは良くないか。
露見する危険よりそっちの方がまだましか。
『冗談だ。
多分だが魔領法関係も察されてる。
使っても使わなくてもあんまり問題ねぇさ。
そもそも俺様達の事は無闇に吹聴しないってディスプレイにまで誓ってる。
信頼は出来ないが多少は信用してもいいだろうぜ。』
じゃあ、まぁ、そう言う事で。
大人しく前足の先を魔領法でコーティングして掴み易くしする。
その前足でソーセージを摘まみ上げて…これ繋がってんのか。
『ソーセージってのは腸詰の食べ物だ。
要は生物の腸に肉を詰め込んだ類の食い物だ。
そりゃ繋がってるだろうよ。
細くなってる所で捩ってあるだろうからそこを起点に千切って食え。
まぁ、丸ごと食っても構わんが。』
行儀を気にする奴もいねぇだろ…と呟いていた。
んじゃ手間だしそのままガブっと食べるか。
繋がってるのは気にせずに丸ごと齧り付いた。
幸い人間でいうやや大きめのサイズだろうけど俺の口からすれば丸ごと食うのにちょうどいいサイズだ。
口に含んで噛み締めるとパリッとした一瞬の抵抗感、その後にその抵抗感を突き破って油分と肉汁が溢れ出す。
そして肉自体はねっとりとした味わいにところどころコリコリした触感があって噛み応えがある。
何より一噛みするごとに濃厚な血の味が口の中で踊る。
うーん、絶品だな。
これは旨い。
滅茶苦茶旨い。
満足感で言うなら吸血行為だが、味で言うなら間違いなくこの料理に軍配が上がる。
成程なぁ。この旨さなら値段にも納得だぜ。
……いや、メニュー見てないから厳密にこのソーセージがいくらくらいするかは俺は知らないんだけどな。
「気に入ってもらえたようね。」
目の前のイザヨイは丁寧に食器を使いながらソーセージを口に運び、微笑みながらそう言った。
アカツキは俺と同様手に持って齧り付いてる。
身体が小さいからか俺が食ったソーセージより大きく見える。
あの体格なら一本で腹が膨れそうだな。
「貴方が食べると思って多めに頼んだから気にせずに食べていいわよ。」
イザヨイは手元の食器でソーセージを口に運びながらそう言った。
それと同時に大皿からソーセージがすっと浮き上がると、俺の目の前にあった空の皿まで空を滑る様に運ばれてきた。
今のは……。
ジロッとイザヨイを見るが澄ました顔でどうぞ、とソーセージが新たに盛られた目の前の子皿を手で示した。
『魔領法、かね。
俺様もお前も魔視系の魔眼を持ってないから断定できねぇけどな。
魔術の類かもしれないが……。
魔術だとしたら相当丁寧な術式だ。』
特に説明がされる訳でもなかったから無言で同じ様に口に運ぶ。
……旨い。
無言で全員がソーセージを齧っていると20本あったのも直ぐに数えれる程度まで減り、やがて尽きた。
もうなくなったかと皿を見るが、何度見ても空なものは空だ。
『お前だけで16本食べたんだけどな。』
ぬう…。
「さて、では話の続きをしましょうか。」
脇に置いてあった布で口元を拭うとイザヨイが口を開いてそう言った。
えーっと、確か声をかけた目的が俺達から懐かしい匂いがしたから、って話だったか。
イザヨイの言にヴァゴスが喉から声を発する。
「そっちが俺様達に接触してきた理由は分かった。
で、俺様はそれで何を答えればいいんだ?」
「匂いの元が何なのか知ってるなら教えて欲しいのだけど…。
心当たりはあるのかしら?」
「その質問に答える前にそもそも俺様がそれをそっちに教える事のメリットを教えて欲しいところだな。
その情報を仮に俺様が持ってるとしてそっちに伝えて良い事があるとでも?」
「美味しい食事じゃ不満かしら?」
イザヨイが微笑を浮かべながらそう言うと、俺の視界が左右に揺れた。
ヴァゴスが首を振ったみたいだ。
「ここの店の飯は俺様達がそっちに時間を割く為の対価だろ?
話の内容には含まれてないと思うが?」
「うーん。
確かにそうね。
じゃあ逆に聞くけどどうすれば教えてくれるのかしら?
お金?」
「いや、金は要らねぇ。」
まぁ、もうすぐこの国出ていくからな。
金を貰っても使い道に困る。
……まぁ帝国の一件が片付いたらここに戻って来るのもありだけど。
でも今はそれより欲しいのは…。
「情報が欲しい。」
「情報?」
イザヨイはコテンと首を傾げて聞き返してきた。
「ああ、情報だ。
そっちも俺様の情報が欲しいんだろ?
奇遇だな、俺様もそっちの情報が欲しい。
……まぁ、俺様の欲する情報をそっちが持ってるとは限らねぇけどな。」
「……どんな情報が欲しいのか言って貰わない事には何とも言えないわね。」
「まぁだろうな。
そっちが俺様の求めている情報を知ってたら、俺様もそっちの知りたい情報を伝える。
それでいいか?」
「うーん、もし知らなかった場合はどうするの?
貴方の知りたい情報以外に何か此方が提供できるものは無いのかしら?」
「あー、まぁ質問も幾つかはある。
多分どれかには答えれるだろう。
どれか一個でいい。
全部答えられなかったたらその時にまた何か聞くさ。」
ヴァゴスがそう返すと、イザヨイは迷わずに軽く頷いた。
チラッとアカツキを見るがそっちは話を聞いてるのか聞いてないのかやや退屈そうにしている。
「そう。
じゃあ教えて貰える?
貴方達の知りたい情報について。」
「インジェノス帝国についてだ。」
ヴァゴスがそう伝えるとイザヨイはきょとんとした顔をしている。
そして、暫くしてから口を開く。
「インジェノス帝国ってプリマイブ大陸の?」
「ああ、それ以外に何がある。
インジェノス帝国で最近あった出来事について知ってる事を教えてくれ。
ああ、最近ってのは……そうだなここ1年ほどの間で、だ。
答えれるか?」
「うーん……。
申し訳ないけど私達はこの前までインセプティ大陸の方に居たから…。
ここ数十年はプリマイブ大陸へは渡ってないの。」
ありゃ。
空振りだな。
『まぁ、仕方ねぇよ。
あんまり期待してた訳じゃねぇ。
それなら次の質問をすりゃいいだけだ。』
次の質問に取り掛かろうとヴァゴスが口を開きかける。
だが、それより先にイザヨイが言葉を続けた。
「ただ、知る手段はあるわよ。
ここ1年程の間にインジェノス帝国で何があったかを知りたいのね?」
「うん?ああ、まぁそうだが…。
知らないんじゃないのか?」
「私はね。
ちょっと待ってて貰っていい?」
そう聞かれると頷くしかない。
ヴァゴスが無言で首を縦に振る。
それを見たイザヨイが個室の扉を開けて外へ出て行った。
なんだろう。
『さぁな……。
ま、手段があって情報が手に入るなら何でもいいさ。』
それはそうだけどね。
「ねー、待ってる間に私とお話ししようよー。」
イザヨイの出て行った扉を眺めていると部屋に残ったアカツキからそう声がかかった。
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