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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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14話 邂逅

小さいボロい扉はさっき調べた大きい方と違って隙間だらけだった。


なんで大きい方はあんなにぴっちりと閉めているのかな……。

ふと振り返って部屋を見渡すと壁にも天井にも隙間には固めた粘土の様な物で封がされていることに気が付く。

何か気密性が高くないといけない事情があるんだろうか。


ちょっとだけドア前で考えたけど、やっぱり情報が少なくて何とも言えない。

まぁ、俺は基本知識が足りてない事が多いからな。

考えても答えが出ない事が多いよ。


軽く嘆息して思い切って扉を押すと抵抗なく奥側へと開いた。

っと、何とか通れるよな……?

恐る恐る扉の向こう側を覗くと、今いるこの部屋と同じくらいの広さみたいだった。

暫く覗いていても特に何かが動く気配は無かったから、扉をくぐって隣の部屋へと移動する。

翼がちょっとつっかえたけど、魔領法で背中側に密着させることで事なきを得た。

普段なら普通に翼を動かして曲げれるんだけど、一対増えて二対になった弊害か翼がうまく動かせない。

全く困ったもんだ。


隣の部屋もさっきの部屋と同じような感じだな。

消えかけの灯りに埃の積もった部屋。

そして反対側にさらに奥へ行く扉……こっちも大概ボロいな。

というか最初に調べた大きい密閉仕様の扉以外全部ボロいぞ。


地面の埃にうっすらと跡を残す人間の足跡はまっすぐ反対側の扉の方へと伸びていった。

この部屋は横断しただけみたいだな。


部屋の左右には金属でできた土台に透明な板を円柱状に丸めたものをぶっ刺したような魔道具がずらっと並んでる。

中には何かの液体が入ってるものもあるな。

液体が全部淀んですごい色してるけど。

中には何かが腐敗したような良く分からん塊が浮かんでる。

本で読んだから知ってるぞ。水槽っていうんだろ。

普通は中に魚とか水の中に住む生物を入れるらしいけど。


さっきの部屋にあった金属と宝石もどきの透明な破片はこの魔道具が壊れた残骸だったみたいだな。

なんだってこんなに水槽があるのかは分からないけど……。


む、水槽と水槽の間にある机の上に紙が置いてあるぞ。

だいぶ埃積もってるけど。

本とかと違って只の紙が積んであるだけだな。


近づいて、魔領法で作り出した腕で埃を払って紙束を持ち上げる。

っと、ボロっと紙の一部が崩れた。

古すぎるだろ。

ソッと優しく触れるようにする。

えーと、何々……。


……読めねぇ。

俺の知ってる言語じゃないな。

まぁ、言っても俺はヒュマス共通文字とファンスター文字しか知らない。

と言うか言語が全部で何種類くらいあるかも知らないしな。

インジェノスは俺が生まれるより前だけど人間至上主義を掲げてたから、そこにあった文献もヒュマス共通文字で書かれたものしかなかったんよね。

因みにファンスター文字は竜天獄にいたころに祖父から学んでた。


あ、でもこっちの紙は読める文字だな。

ヒュマス共通文字だ。


えっと、人造粘菌生物の経過レポート?

人造人間、触媒と核の相性について、生物錬金術第三世代、人造生命の生成法、スライムの細胞、封縛結晶の運用、魂魄の有効利用について……。


駄目だ、専門用語ばっかりだ。

取り合えず見た感じは何かの実験施設だったみたいだな。

死霊魔術の研究がメインだった第零研究塔とはまた趣が違うが、此処も何かしらの研究施設だったっぽいね。

もっとも、この様子だと随分と長い間研究が進んでないみたいだけど。

いや、研究する場所を変えただけっていう可能性もあるのか。

理由はわかんないけど。


お。

多分誰かに説明するように作ったであろう概要の書いた紙を発見した。

専門的なことは少ないけど大枠が書いてありそうだな。

細かい内容を理解したい訳じゃないからこういう内容の方が助かる。

取り合えずこれを読んで、分からんかったら適当に他の紙も見てみるか。


概要書と適当に積まれた書類の理解できる箇所だけ読んでいくとなんとなーく何をする施設だったのかが分かって来たぞ。


まず、学問体系の話として、生物錬金術っていう体系の中に人工的に生物を造ろうとしている学問があるみたいで、その研究施設だったみたいだな。

最終目的はヒュマスとかエルフを人工的に再現する事。

それによって死んだ人の復活や簡易で安価な労働力の確保が目的か。

なるほど。

…なんか簡易で安価な労働力って聞くとアンデットに走って滅んだアルクカタンを彷彿とさせていい気はしないけど。

まぁ、あれってアンデットを労働力として見做した事自体は間違ってないとは思うんだけどね。


ただ、身体の仕組みが複雑な人間を造るのはほぼ現段階では無理らしくて、前段階として粘菌生物…まぁ、スライムだな…を造ることがとりあえずの目標だったと。


この周りにある水槽は培養器だったのね。

……中身は腐ってるのが大半だけど。

まぁ、研究がこんな状態で放棄されてたら中身もとっくに死んでるわな。


うーん、人造スライムの創造は成功たのか。

核となる生物の一部と触媒となる液体を用いればスライムの身体を培養することはできるらしい。

生物の一部と何かしらの液体を混ぜ合わせて術式をかけるとスライムができる。

簡単だね。

術式が紙数十枚レベルだったけど。

多分錬金系の術式なんだろうな。

俺には何のことかさっぱり。


核にする生物と触媒の液体を変えることで色んな種類のスライムが作れるらしいね。

ちょっと楽しそうだ。

竜天獄にスライムはいなかったし。


例えば核に生物の一部…研究には細胞って書かれてるけど…に動物の肉、触媒に水を使ったら肉の感触のぶよぶよする肉塊スライムができるらしい。

それ、スライムじゃなくてただの肉の塊ではって思うのは俺だけか?


因みに核に天然のスライムの一部、触媒に水を使ったら普通のスライムが量産できたらしい。

便利だねー。


って思って読んでたけどどうやらその方法で作った身体には中身が無いらしくて、造って育っても動かないんだって。

水槽で培養が終わって外に出してもピクリともしないとか。

つまりは死体しか作れないってこと?

ダメじゃん。

ふむふむ。……あー、だからこの封縛結晶?とか言うのを使ってその解決を図ろうとした、と。


うん?それについての追記もあるな……。

えっと、詳細は封縛結晶の運用に関するレポート参照のこと、か。


封縛結晶、封縛結晶……さっきその文言はちらっと見かけたぞ。

ここらへんに……あっとあった。

「封縛結晶の運用に関するレポート」って書かれた紙束の上には「機密」って書かれてる。


……まぁ、いいや。


えーっと、何々、封縛結晶は生物の根源である魂の剥離を……なんかもう少しわかりやすく書いてる箇所ない?


……なさそう。

こっちも術式と錬金の図解が載ってたけど、どこかの内容をパクったのかそもそも知らない言語で書かれてたよ。

多分読めても理解できないと思うけど。

諦めて分かるところだけ読む。

と言うか結果だけ分かればいいから最後のほう読めばいいのか。


えっと、ふむふむ……。

あー、なんとなくわかった…?かな?


うーんと、……要約すると封縛結晶とは色々なんやかんやすると生物の魂を封じ込める事の可能な物質である、らしい。

色々なんやかんやのところは専門的過ぎて分からんかった。


ああ、つまり仕組みはよく分からんけど生物の魂を封縛結晶に閉じ込めてそれをスライムの身体に入れるって事か。

それもどう入れるのか良く分からないけど。


人造スライムで身体は作ったけど魂が無いから動かなかったよ。

だから、封縛結晶を使って身体に魂を入れたら動くかなって事か。


因みに準一級取引制限物に指定されてるってさ。

取引制限物ってのを初めて聞いたからなんか取引が制限されてるんだねってこと位しか分からん。

ああ、国の許可がないと扱えないのね……。


ついでに許可を出した国について書かれてたら此処が何処かって分かったのに、それらしい紙は見当たらなかった。

残念。


全部まとめると、ここで行われてたであろう研究は人造スライムを作って、作った身体に封縛結晶とか言うのを使って魂をぶち込んだよ。

これで人造生物造れるんじゃない?

って感じだな。

ふう、凡そ理解できて満足。

専門系の内容は理解できると楽しいな。



とか考えていると、天井の灯りの明滅でふっと我に返る。

かなり熱中して読み耽ってたみたいだ。

気が付くと、かなり喉が渇いていた。

あー、どうしよう。

吸血鬼になったばっかりで吸血欲求の事完全に忘れてた。

今この状況に血なんてないからな……。

まだ我慢できるが後何時間も我慢できる自信がないなぁ。

と言うか吸血鬼って血を飲まないとどうなるんだろうな。

エヴァーンに聞いておけばよかった。


気になったからっていつまでも読んでないで先に進まないと。

読むのは楽しいけど、この内容じゃ現状に対する解決策は載ってなさそうだしな。

紙を漁って「飢餓状態の吸血鬼の吸血欲求を簡単に満たす方法」みたいなのが見つかる望みがあるなら続けて読むけど、絶対ないだろう。


っと、紙を一旦諦めて先に進もうとしたら目の端にチラッと「最終」って見えたから気になってそれだけ魔領法の腕に取って見てみる。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

生物錬金術人造粘菌生物学レポートNo.243(最終)


御界暦1256年 剣月15日

ルドルチャ・アズライヤー記入


本実験はエヴァンス学長の指示により本日をもって永久凍結が決定。

残存する実験体は全て地下の禁術保管エリアにある13番倉庫に保管。

扉を封鎖し以降の無断接触はあらゆる職員、学生に対して禁止するものとする。

13番倉庫への入館の際は学長と副学長両名の認可を得る事。

その際には必ず魔力封印を行ってから入る事。


なお、実験凍結の要因となった実験体No.73は最奥の封印区画にて滅魔封印収容。

封印の容器となっている培養器の半径2メルトには絶対に近づかない事。

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


ああ、これが実験が終わった要因なのか。

終わったというかなんか不測の事態が起こったのね。

実験凍結って書いてあるし。


ただ、内容的に多分今俺のいるこの場所が13番倉庫っぽいな。

多分この部屋にある培養器の中に実験体が入ってたんだろう。

全部壊れて中の培養液も淀んで、スライムも死んで腐って消えて、って思うとだいぶ昔だとは思ってたけど、レポートの日付的に300年くらい前か。


凍結の原因っぽい実験体の73番ってのがちょっと気になるけど、それに関するレポートは無いな。

奥にあるって書いてあるから見に行こう。

まぁ、300年も前ならもう今はあんまり深く気にしなくていいだろう。


と言うか、下手するとここの研究機関もとっくに地上には無くなってるかもしれない。

奥の部屋を覗くだけ覗いたらさっさと地上に出て様子を見てみるのがいいかもしれないな。

喉も渇いたし野生動物のでもいいから血が飲みたい。


ん?でも人の物と思われる足跡はなんだったんだ。

地面を見ると未だにしっかりと足跡は残っている。

流石にこの足跡は300年前のモノとは思えない。

ごく最近……いや、埃は積もってるから数年は経ってそうだけど、その位ののモノっぽい。

300年も前に凍結された研究に何の用事があって来たんだろうな。

……考えても仕方ないか。


それじゃ、奥の部屋を覗こうかな。

そのまま、書類は机の上に戻して奥の扉の方へと進んでいく。

因みにこの部屋に入った扉は開けたまんまにしてある。

閉じる意味ないしね。


奥への扉もこの部屋に入った時と同じように抵抗なく開いた。

覗いてみるとこの部屋と同じような感じ。


そのまま、中に入って全体を見渡す。

まず、壊れた培養器がさっきの部屋と同じように左右に並んでる。

っと、扉の正面の壁だけが違って、そこには次の部屋への扉の代わりに大きな培養液が置いてある。

俺が入ってきた扉の他には扉は見当たらない。

ここが一番奥っぽいね。

左右の培養液は壊れてたり中身が腐ってたりしてるのはさっきと一緒だから、さっさとさっきの部屋とは違う最奥の培養器に向かう。

さっきの最終レポートで言うとここに実験凍結の要因となった実験体が要るっぽい。


って、近づいてみるとここの培養液はまだ透き通ってるじゃん。

特別な封印処理をしたっぽいみたいな事が書いてあったから、ここだけ長持ちしたのかな。

まだ培養液の中にはプカプカと丸い物質が浮かんでいた。


良く見えなかったからもうちょっと近づいてみる。

特に俺が部屋に入っても反応が無かったからもう死んでるのかもね。


培養器の目の前まで来ると浮いているスライムの全容が見えた。

大きさは俺の頭より大きいくらいか。

ほぼ球体で表面が緑とか紫っぽい金属風にキラキラと光っている。

こういう色なんて言うんだっけ?

それによく見ると拍動している。心臓みたいだね。

ドクンドクンって。

そして詳しく見て、一番うわぁって思ったのは球体全体に満遍なく眼球がついていてぐるぐる動いていることだ。


うーん、これはスライムって言っていいのか?

どっちかって言うと研究の紙に載ってた肉塊が近い気がするけど。


培養器内を覗いてそんなことを考えているとギョロっと目が一斉に俺の方を見た。

ヒッ。

背中がぞわっとした。


そして、球体の身体の正面部分…俺のいる側の部分がゴポッっと泡だったかと思うと表面がグニャグニャ動いてあっという間に裂け目ができる。


その裂け目が開いたり閉じたり運動して、その度にゴポッと泡が出る。

何か見たことがあるなと思って見てたら、分かった。

その裂け目の動きは人間の口の動きによく似てるんだ。

俺がそう気が付いたのと同時に、今までで一番大きくゴポリと泡が出たかと思うと水槽の中から声が聞こえた。


「よう。」


いつもお読みいただきありがとうございます。

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