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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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13話 身体の変化

主人公視点に戻ります。

暗転。

足元が消失したような浮遊感。

前後不覚。


「ウグッ。」


一瞬何が起こったか分からずに混乱していると、混乱が落ち着くより先に地面に叩きつけられた。

思わず口から情けない声が出る。

いや、別に痛くないけど吃驚したんだよ。


腹が地面に密着して腕を四方へ伸ばした状態での着地になってしまった。

いや、落ちてきたのかも分からないから着地って言うのはちょっと変かもしれないけど。

地面にぴったりと密着したお腹が硬い物に触れてひんやりする。

どうやら今俺が触れてる地面は土とかじゃなくて石畳の床みたいだな……。


って、ここはどこだ!

冷静に地面の分析をしている場合じゃない。

エヴァーンはどうなった?

何が起こったんだ?


えーっと確か、エヴァーンの契約書が入った机を見つけて何とか魔領法で叩き斬ったところ迄は覚えている。

ただ、実際に机を裁断した事でエヴァーンの契約書を破棄できたのかまでは確認する暇が無かったけど。

そうだ、机を叩き斬った瞬間に魔領法の中を何かが通って俺の方迄やって来たんだ。

んで、どうするか迷ってる内に、その何かが俺の元まで辿り着いて、気が付いたら此処に居たと。

十中八九、その何かのせいだろうな。

タイミングとかも考えて。


ちっ、あの時迷わずに魔領法を消せば良かった。

あそこで魔領法を解除したらエヴァーンの援護ができなくなるって思って躊躇ったんだよなぁ。

あっちはどうなったんだろう。

少なくとも帝都の時と違ってここは酷く静かだ。


コロンと近くの地面に転がる遠写しの魔結晶も反応がない。

エヴァーンがきったのか、勝手に切れたのか……。


とりあえず、起き上がって辺りを見渡す。

まずパッと眼に入ってきたのは地面と同じ材質でできてるであろう灰色の石製の壁。

石造りの部屋みたいだな。

天井からは淡く消えそうな魔道具の灯りが辺りを辛うじて照らしている。

右の壁際には大きな金属の残骸が置かれてる。

金属以外にも何か透明な物が割れたような欠片も一緒だ。

天井の淡い光を辛うじて拾ってキラキラと自己主張してる。

なんか宝石っぽいね。

宝石より安っぽい気がするけど。

反対側の左の壁には大きな良く分からない部品を組み合わせた物。

多分魔道具かな……?

動いてないから魔力も発してなくて魔道具かすらもいまいち分からないけど。


今度は後ろを振り返ると大きな扉があった。

正面にも小さなボロい扉。

いや、俺からすると小さいだけで人間サイズだと十分な大きさの扉か。

俺がぎりぎり通れるかなってくらいの扉だし。

ボロいけど。

それで言うと後ろのはすごく大きい扉だな。


ぐるりと見渡した感じだと窓がなかったのと、湿った土の雰囲気と空気から恐らくここも地下だろうなって直感する。

こっちのは帝都で過ごしてた地下室とは比べ物にならないほど大きいけど。

大きな物も散乱してるしね。


よくよく床を見ると結構埃が積もってる。

もう長い間使われてないのかな?

俺が起き上がったところだけ、埃が飛んで石畳が本来の色を映し出している。

幸い呼吸は必要としてないからあんまり埃っぽいとかって感じることは無いのが救いだ。


さて、どうしたものか。

とりあえずは辺りには何かが動く気配はない。

今のところはこの部屋には俺しかいないみたいだ。

まぁ、エヴァーンとかアルーダとかって気配がしないからアンデットが潜んでると分からないんだけどさ。

ただ、ピンポイントでここにアンデットが潜んでるって事もないだろう。

隠れる場所もそんなに無いし。

因みに俺はデカいから気配を消そうにもどうしても目立つ。


一先ず背後にある大きい扉の方へと近づいてみる。

試しに押してみるがビクともしない。

むう。

ん?よく見ると大きい扉の中にはめ込まれた小さい扉がある。

丁度人間一人が通れる位の大きさの扉だな。


多分、人間が出入りするときはこっちの扉を使うんだろう。

人間が使うには目の前の扉は大きすぎるしな。

さっき見た魔道具とかを運び入れる時にこっちの大きい扉を使ったのかな。


念の為に大きい扉の中にはめ込まれた扉も押してみるが動かない。

ふーむ。どうしよう。


ん?よく見るとはめ込まれた扉の方の下側に人間の足跡があるな。

前足でなぞってみると足跡の上にも結構埃が積もってるから結構前の物みたいだけど。

ただ、足跡の周りの埃はもっと厚いから浮き彫りになってたんだな。

足跡を目で追ってみるとこの部屋をまっすぐに横断し、奥側の小さいボロい扉のほうに続いていた。

行きと帰りの両方の足跡があったから奥にいるって可能性は低そうだけどね。


扉に触って気が付いたけど、この扉、大きい方もはめ込まれた小さい方もかなりぴっちり閉まってる。

俺の魔領法が通る隙間もないから水も通さない位ぴったりと閉まってるっぽいね。

なんだか不思議な感じだ。

俺の知ってる扉って大なり小なり上か下に隙間がある感じだったから。


さてはて、多分魔纏法か魔領法で全力を出せばこの大きい扉も多分だけど吹き飛ばせるだろう。

現状、完全に閉じ込められているならそうするのも止む無しといった感じだけど、一応奥のボロい方の扉を見てからでも遅くはない、と思う。


うーん、ただ恐らくだけど外に繋がってるのはこっちの大きい扉だろう。

なんとなくだけど。

ただ、中途半端に出て行って騒ぎになっても困る。

なんせ現状が全く理解できてないからな。

この場所がさっき迄居た場所とどう関係あるのかすら分からない。

一瞬で場所が変わったって事は空間魔術の一種なんだと思うけど……。

俺は術式に詳しくないからな。


インジェノスの帝都で味わってた地下室から出る時の感覚とはまた違う感じだったけど、そもそも術式の理論が分かってないと、違うから何なんだよ、って感じだしね。


さて、現状は此処からすぐに出ていくか、調べてから出ていくか……。

少なくとも予想外の戦力だったザミエールが出て来た事でエヴァーンが窮地になってるのは容易に考えられる。

いや、まぁ、逃げるのなら可能だって言ってたか。

ましてや俺っていう足手まといが居ないなら一人でも逃げ切れるかな?

なんにせよ、ここが帝都の近くだっていう確証があるなら直ぐに出て行って急いで助けに行くんだけど……。


もし、ここが帝都から遠く離れた場所だった場合、ろくに準備も調べもせずに出て行ってしまうとそれはそれで不測の事態が起こった時に困るかもしれない。

それに、場所が分かって帝都に行ける事が分かったは良いが、思いの外遠くて昼間になってしまったりだとか。

そう考えると安易に外に出るのも考え物だ。

幸い、今のこの場は地下って意味合いでは安全そうな場所なんだし……。


……耳を澄ませてみるけど何の音も聞こえない。

とっても静かだ。

帝都の地下室に居る時も静かだったけど上の階を走る人間の足音や、偶に人間の怒号とかが聞こえてきた。

それにさっきの作戦中は遠写しの魔結晶から良く音が拾えた。


けどここは耳を澄ませても本当に何の音もしない……。

いや、反対側のボロい扉の方からは微かに何かの音がする。

首だけ振り返って集中すると僅かにゴポッと泡が弾ける様な音が耳に入る。

水の音か……?

何とも言えないな。

うーん、どうしたものか。


そうやって俺が大きい扉の前で悩んでる時だった。


唐突に俺の身体がグラッと揺れる。


ぐっ!

なんだ。


何かしらかの攻撃か干渉かと思い、急いで辺りを見渡すがさっきまでと変わった様子はない。

ただ急速に身体から力が抜けていった。

フラッと身体が言う事を聞かなさそうによろめき始める。

普段は感じない筈の眠気に似た感覚が背中を通って頭に這い上がってくるのが感じられる。


ぬ、アンデットである俺に眠気?

これ、既視感があるな。

なんだっけ?


……ああ、思い出したぞ。

前に死肉竜から屍鬼竜に個体進化した時と同じ、か。

ぐう、前の時もそういえば進化した後にこんな感じで疲労感と眠気が後から襲ってきたな。

確か、その後起きたら尻尾が増えてたんだったか。

個体進化をした際に身体が作り替わる場合に起こる事象だってエヴァーンが言ってたのを思い出す。

でも何も今みたいな緊急事態に来なくてもいいじゃないか……。


くそ、一応周囲には即座に俺を脅かすような危険なものは見当たらないとはいえ、現状を全く把握できていない今の状態で動けなくなるのは拙い……。

しかも、前回の経験上、これで意識を失うと数時間は起きれないぞ。

帝都でのエヴァーンとザミエールの攻防もそれまでには絶対決着がついてしまうだろ。


ぐっ。

ただ、俺の身体自体は意志とは裏腹に急速に力を失ってその場でドサリと崩れ落ちた。

それに引き続き俺の意識も真っ暗な水底に落ちていくように急速に閉ざされていった。

ちくしょう。



▼△▼△▼△▼



ゴポリ……。


自らをすっぽりと覆う培養液の中にその物体は佇んでいた。


ゴポッ……。


「!?」


突如として自分のいる場所からそう遠くない場所で空間の歪みを感知して内心歓喜する。


よくやくだ。


やっとだ。


ゴポポッ……。


その物体は早く彼がこちらに来ないかと待ちわびた。


目の前の扉が開かれる瞬間を。


ゴポッ……。


ただ、空間の歪みを感じてから数時間、その物体の目の前にある扉は開かれなかった。


「………。」


その物体は自分の勘違いだったのかと思い始めていた。


ゴポリ……。



▼△▼△▼△▼



頬のヒンヤリとする感覚で目が覚めた。

そのまま身体を起こす。

アンデットになってから寝起きは誰にも負けない自信がある程、すっきりと目を覚ます事ができる。

まぁ、多分アンデットは元から睡眠なんて娯楽程度の取っても取らなくてもいい程度のモノだから寝惚けるなんて事は無いのかもしれないな。

……首を落とされた後に回復した時は少しボーッとしたような気がするけど何の差なんだろうか。


一応、辺りを警戒するけど気絶する前と何ら変わった様子はない。

相変わらず酷く静かな場所だ。


さて、意識が飛ぶ寸前に味わった眠気が嘘のように喪失してはっきりと頭が冴えわたっている。

個体進化に伴う身体変化で意識を失ったんだよな。

前の時にエヴァーンに言われたけど、本来アンデットの進化には身体変化が伴わないんだとか。

基本的に個体進化で身体変化を伴うのは魔獣が多いらしい。

もっとも屍鬼人から吸血鬼への変化で牙が少し伸びるだとかの細かい変化はあるけど、その程度じゃ意識が飛ぶことは無いらしい。

ただ、俺の場合は尻尾が増えるっていう大きな変化だから意識が飛んだんだろうって話だったな。


死肉竜から屍鬼竜に個体進化した後に俺が気絶した際、全く想定してなかったのかエヴァーンが酷く慌ててたのは少し見物だった。

本人に言うと絶対怒られるから言ってないけどね。

知識があって大体が想定通りに進むエヴァーンからすれば、その分想定外の事態が発生すると思ってるより焦るらしい。


さて、まぁそれはさておき、今回も気絶したって事は身体が変わったんだろう。

まず前回の個体進化でも変化が生じた尻尾を振ってみる。


……早速違和感を感じる。


尻尾を可能な限り曲げて、首も後ろを向いて確かめる。

先端が四つ(・・)ピコピコ動いているのが視界に映った。

はぁ……また増えてる。

しかも二本も。

これで計四本だよ。


増えた半面、少し尻尾が細くなったっぽいな。

勘弁してほしい。

前回増えた時も尻尾の操作に慣れるのに結構時間がかかったのに。

今回は前回の倍も増えたとなったら制御に慣れる時間も倍に増えそうだ……。


まぁ、増えた物は嘆いても仕方ないので諦める。

細くなって数が増えたってことは、細かい制御が効くから応用が利くようになったとも考えられる。

悪い面ばっかり見ても仕方ないだろう。


さて、次に足を見てみる。

…前足も後足も特に変化は無し。

頭…は鏡でもないと見れないな。

一旦無視しよう。

ただ、まぁ、前足で軽く触った感じ、目とか鼻とか口に変化はなかったけど。

吸血鬼は牙が伸びるって言われるけど、竜である俺の場合は元から十分長いからか別段変化は無かった。


そうやって体のあちこちを調べていく。

悠長だなとは自分でも思うけど、正直なところ、もう十分時間を使ってしまってるので急ぐ事自体は諦めてるってのが本音だ。

既に数時間は経ってるだろうから、エヴァーンの戦いも流石に決着もついてるだろう。

今の場所がどこであろうと絶対に間に合わない。


しかもあの夜に戦っていた時刻は深夜過ぎ。

そこから数時間後だとそろそろ太陽が昇る時間帯だ。

つまり、日光を遮断する物が何も無い現状は外に出ても日光に焼かれて消滅するだけだ。

あんまり焦っても仕方ないなって考えたんだよ。

気持ちは焦ってるけどさ。


と言う訳であちこち全身を調べていくと羽も一対増えている事が分かった。

つまり今回の個体進化…屍鬼竜から下位吸血竜への進化では尻尾が二本増えて羽も一対増えたって事になるね。

……正直羽と尻尾が増えても結構邪魔なだけなんだけど。

せめて足とかが増えたら人間みたいに物を持って戦ったり出来そうなんだけどな。

尻尾が細くなって巻きつけたりし易くなったとはいえ、人間の腕ほどの汎用性があるわけじゃないし。

まぁ、俺は魔領法の腕があるしいいけど。


因みに個体進化に伴う身体の変化後でも魔纏法と魔領法は問題なく使えた。

これが使えなかったら戦力が大幅に下がるって話以前の問題だからな。

安心。


さて、急ぐって選択肢が潰えた以上はこの場所を調べて慎重に進む方向性で行くか。

エヴァーンがどうなったのか割と心配だし、気になるけど、自分より強い相手を慮るのもな。

まぁ、それでも心配なものは心配なんだけど、現状は俺が手出しできないから一旦思考の隅に追いやっておこう。

まずは俺が生きてそこまで行くことが大事だ。

死んだら終わりだ。

本当にな。


さて、じゃあ大きい扉とは反対側の俺が辛うじて通れそうなボロい扉の方を調べてみるとしようか。


いつもお読みいただきありがとうございます。


感想や評価、ブックマークをいただけると狂喜乱舞します。

引き続き本作をよろしくお願いいたします。

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