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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第三章 吸血竜の邂逅
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12話 シドの想定外

シド視点です。

さて、どうなったかね。

私は誰も居ない部屋でかれこれ数時間ほど報告を待っている。

が、扉は閉ざされたままだよ。

失敗は無いと思うが成功の報告があるまでは不安な胸中だよ。


ザミエールとエヴァーンが戦うとかなり激しいものになるだろうからね。

非常に不本意ながら戦場になると予測される第零魔術師隊の研究塔からは既に研究員全員と見張りの兵士は避難させたね。

正直なところエヴァーンが暴れるとなっては、生半可な戦力は置いておくだけ無駄と言うものだ。

少なくともこれで人的被害はかなり抑えられるとは思っているが……。


ただ、作戦自体の成否はまだ判明してないね。




そもそもの今回の発端はエヴァーンの行動から発生したものだ。


元々エヴァーンの行動を不信に感じたのは一年ほど前。

一年半ほど前からエヴァーンが徐々に命令に関して背く事が多くなった……厳密に言えば元からそこまで命令に忠実ではないんだが、以前は十の命令に対して三くらいは従っていたものが更に減ったんだよね。

更に言うなれば従う命令も直ぐに終わるものを選んで、と言った感じになったね。


一応隷属契約では「極力命令には従う」だからあまりにも命令を聞かないとエヴァーン自身も負荷がかかって、辛くなるはずなんだがね。

ただ、命令違反の判断は一年ほどのスパンで見ての話だから、実際に命令違反と判断されて負荷がかかるのは一年程度後ということになるね。

この際に考えられるのは一時的に何かを行いたい場合と後先考えなくてもよい場合だね。


まず一時的に何かを行いたい場合。

この場合は、いったん命令をある程度削ったとしても後で多めに命令を受ければ一応は命令に従ったとみなされる事から取れる手段。

ただ、今までエヴァーンがこの手段を使ったことはあるが、その多くが遠方への命令に従うというものだね。

遠方行きの時間のかかる命令を受けて、命令に従っている時間を多めにする事で埋め合わせるって事だね。


エヴァーンに対する命令は回数と時間が関係しているから、せめて追加で命令を受けずともすむ遠方への時間のかかる命令にのっかる事が多かったね。

ただ、この場合に対する今回の違和感は遠方への命令も一切受け付けなかったんだよね。

以前であれば余程私と顔合わせをしたくないのか、むしろ自ら遠方への依頼はこなしていたから流石に不思議には思ったものだよ。

だから、この可能性は低いとみるね。


次に後先考えなくてよい場合。

この場合は自身が消滅しても良いと思っている場合と命令違反と判断される一年後には命令を聞く必要がなくなる、すなわち自由になれると考えている場合の二つがあげられる。


ただ、エヴァーンが諦めた様子は到底見られなかったから消滅を覚悟したって感じではないね。

つまりは自由になる算段があるというのが一番濃厚になるね。


となるとどういう算段で自由になるのかって事になる。

まず特定するべきは命令を断るエヴァーンがどこで何をしているか、を調べるのが一番手っ取り早い気がするんだよね。

私の死者創造で作ったアンデットたちは全員従順かつ私の魔術の核が体内に残るから、凡そ何処に居るか分かるんだよね。

まぁ、聞いたら全員素直に教えてくれるから分かる意味ってあんまり無いんだけど。

ただ、隷属契約のアンデット…まぁ、私はエヴァーンしか持っていないけど…はそもそも術を私がかけた訳では無く、あくまで他者と他者、死霊魔術師と吸血鬼の契約でしかない。

だから何処に居るかとかは分からないんだよね。


そこで帝王陛下に頼み宝物庫に置いてある、とある幻想遺物(アーティファクト)の力を借りる事にしたね。

普段であればあまり貸出許可は下りないんだけどエヴァーン関係だと意外とあっさり貸し出してくれるものだよ。

まぁ、あまりこちらの言うことを聞かないとはいえ帝国の戦力のトップクラスだからね。

何かあってからでは遅いと考えていらっしゃるんだろう。


借りたのは『隠者の追跡者ハーミット・ストーカー』と言われる準A級幻想遺物(アーティファクト)で、確か人神メルロイの迷宮での出土品だったかな?

ヤギの頭を被った女性の裸婦像が頭上に水晶を掲げた形をした物だね。

ヤギの頭にある口に追跡したい対象の身体の一部の捧げると、水晶に追跡対象のいる方角と凡その距離がわかる代物だよ。

大体効果は半年続く。

因みに効果継続中はヤギの目の部分が光る。

微妙に悪趣味だよね。


まぁ、それはともかくとして、アルーダが持ってきたエヴァーンの髪を捧げて半年ほど追跡したんだよね。

それで、実際に場所を特定しようとしたんだが、いざ場所を特定しようと思ったら隠者の追跡者ハーミット・ストーカーに反応が無くてね。

髪を捧げた当初は実際に反応があったんだが、場所の特定をする際になると水晶に何にも映らないんだよね。

ただ、ヤギの眼は光ってたから効果は持続してると判断はできたんだけど。


エヴァーンを研究塔で見かけた目撃情報とかがあった際に隠者の追跡者ハーミット・ストーカーを見ると水晶にも反応はある。

さて、一体全体どういう事か少しの間悩んだね。

なんせ、そろそろ帝都から居なくなったか?と思って水晶を見てみると大体反応が無くなっているんだから。

でも、とある時に隠者の追跡者ハーミット・ストーカーを暫くの間見続けていると、エヴァーンが特定の方角へと行った後にぷつりと水晶から反応が消える事が分かったね。

消えた方角と距離から場所を割り出すと≪怒れる自然の大遺跡(ムーマーの迷宮)≫の入口近辺だった。

これでピンときて、最近強化の為に頻繁に遺跡に送ってる子竜のアンデットのタイミングと照らし合わせたら、ドンピシャだったよ。

そして、何回か調べる内に、丁度子竜を遺跡に送ったタイミングで反応が消えて、子竜が戻って来る頃合いには反応が戻る事が分かったんだよ。


迷宮の中はそもそも迷宮を作った神の神界の一部らしいからね。

おそらく別次元という扱い故に反応が消失していたのだろう、と考えるよ。


ここまでくればエヴァーンがほぼ常に子竜の影に潜んでいる事までは推測が容易についたね。

思い返してみれば最近命令を聞きに来るタイミングも子竜が帝都に戻っている時が多かった。


そして、自由になる為の何らかの措置で子竜を使おうとしているのだろうと言う事までは分かった。

その為に手っ取り早く子竜を個体進化させたいのだろうね。

おそらく子竜が吸血鬼クラスに進化して自我を得たタイミングで、私が子竜の縛りを強化するより先に何かをさせたいのだ。

いつも私が屍鬼人から吸血鬼に進化させた時に自我が安定するまでは放置して、追加で制限を設けるのに時間があるからその隙を狙うつもりなのだろうね。


残念ながら何をどういう経緯で企んでいるのか細かくは分からないね……。

正直、いくら素体が竜で吸血鬼になったとしても最初の位階は下位(レッサー)、そこまで強くなく出来ることも少ないはず。

とすれば例えエヴァーンの意思で操れたとしても何かを行わせる事なんか出来ないと思うんだけどね……。


私の想像だがエヴァーンが子竜に仕込むのは私の暗殺…に見せかけた事故死かね。

自我を得たタイミングは命令の内容の解釈が私の意識からそのアンデットの意識の解釈へと変化するから、そのタイミングで事故に思わせる算段なんだろうと考えるね。

私に対する害を禁じたとはいえ、自我を得た竜本人が「この程度では死なない」と思って私に向かってした行動は結果として私が死んでも命令違反にはならないからね。


私が死んでもエヴァーンの隷属契約は契約書が破棄されるまでは厳密には持続するのだが、隷属先の主不在となれば以前にかけられた命令も無効になる。

つまり、そうなればエヴァーンは自分で自分の契約書を破れると言う事になるね。

恐らくエヴァーンが描いている計画はそんな感じなのだろう。


つまり、私は子竜が進化して、いつも通りに研究塔の地下へ帰ってきたタイミングでは絶対に私が接触しなければ良いだけの話だよ。

子竜とは接触せずに先にエヴァーンを捕らえる。

その後に部下に子竜の自我を確認させて離れた所から縛りを強化する契約をすれば安全なはずだね。


そう判断して子竜のタグから連絡があったタイミングで作戦を実行する事にした。

当日は研究員と兵士は避難、アルーダにエヴァーンの意思確認を取らせる。

その際に戦闘になればアルーダだけでは些か能力不足と言うもの。

陛下に直訴し作戦当日のみザミエール近衛兵団団長をお借りしたね。

これまた、エヴァーン関係故にそこまで渋られることは無かった。

帝国最強の剣士はエヴァーンを個で圧倒できる唯一といってもいい存在だから、これで安心できると言うものだね。

まぁ、戦闘になってもアルーダ自身はエヴァーン相手に勝てはしなくとも消滅はしないだろう。


肝心の私が死んだらそれはそれで計画がご破算となるから、安全確保の連絡があるまで帝城の一室で連絡を待つことにしている。

そして、かれこれ子竜が迷宮より帰還して、数時間はこの部屋から動かずに待っているがまったく連絡はないね。

一応研究塔を見張る人員も付けているから、万が一、いや億が一にもザミエール団長が負ける事があればその連絡も届くはずだよ。

しかし、何の連絡もない、と言う事はまだ事が起こっていないか起こっている最中かと言う事になる。

私が死ぬ訳にはいかないから、現場には出れずに連絡を待つだけの身となっているから余計にやきもきするね。




そして、更に一時間ほど経った頃に扉がノックされたよ。

……やっとかね。

さて、結果はどうなったか。


「入れ。」


一言そういうと「は!」と掛け声の後に城勤めの兵士が部屋に入ってきたよ。

そのまま扉前で敬礼する。


「報告します!

 ザミエール近衛兵団団長よりシド第零魔術師隊隊長へ伝令。

 作戦は凡そ成功せり、ただ想定外の事態発生。

 安全確認は取れたとの事のため、至急第零魔術師隊研究塔に来られたし。

 との事です!」


その報告に一先ず一旦安堵はした、が想定外の事態という言葉で酷く胸がざわつくね。

ふむ、ただ取り敢えず安全は確保されたと思っていいね。


「伝令ご苦労。

 持ち場に戻っていいぞ。」


そういうと来た時同様に敬礼をすると兵士は戻っていった。

では至急に研究塔に来いとの事だったね。

ザミエールが安全確認が取れたというのなら安心だ。

向かうとしようかね。


帝城から中庭に降りて、研究塔の方角へと歩を進める。

作戦行動が終わったからか、深夜に近いというのに研究員と兵士がどたばたと走り回っている。

今夜は徹夜で任務に就いていたものも多いからね。

吸血鬼に対する作戦故に仕方ないんだろうが。


研究塔に近づくと入り口付近にフルフェイスの大柄な男……ザミエール近衛兵団団長が見える。

大きいから遠めでも確認できて楽でいいね。

近づくと向こうもこちらに気が付いたのか軽く手を挙げた。


「よう、お疲れ。」


「互いに夜分遅くにお疲れさまだな。

 伝令を受け取ってきた。

 詳しい話を聞こうか。」


「おう、思ってたより早かったな。

 見たほうが早いだろうから研究棟で移動しながら説明するぞ。」


ザミエールがそう言いつつ軽く頷いて研究棟を指で示す。

見たほうが早いと言う事だろう。


「任せた。」


「えーっと、まず事の経緯だ。

 作戦行動が開始されてから三時間ほどは何の動きもなかった。

 ただ、三時間ほど経過した後に真祖の嬢ちゃんが地下室から出てきて、まっすぐお前さんの執務室に向かった。」


ふむ、普段全くと言って寄り付かない私の執務室に来たのか。


「んで、そこでアルーダが接触し問い詰めたところ、お前に会いに来たそうだ。

 ……お前さんの言う真祖の嬢ちゃんの練った作戦行動的には子竜のいる地下室に呼ぶつもりだったのかね?

 まぁ、そこでアルーダがお前さんのもとに案内するように言ったが断り戦闘へ発展した。

 俺もそのタイミングで戦闘に参加して、アルーダと二人掛かりで戦闘になった。

 ……そこで良く分からん魔力の塊も存在していてな。

 不明な物に触るのも怖くて、最初に潰そうとしたが思いの外、真祖の嬢ちゃんがそれを強く庇ってな。」


……魔力の塊?

ふむ、ぱっと思いつく限りでは何か良く分からないね。


「口をはさんで悪いが、その魔力の塊はまだ残っているのか?」


「ん?

 いや、この後に話すつもりだったが結論から言うと消えてしまってもう無いな。」


無い、か。

ふむ、残っていれば研究できたかもしれんが……。

まぁ、今は置いておこう。


「話を戻すぞ。

 その魔力の塊もこちらを攻撃する意思があった。

 そこそこの攻撃力だったが細かい制御はできていなかったみたいだな。

 お前さんの執務室を荒らしたかと思ったらそのまま消えた。」


「……執務室を荒らした?」


「ああ、正確にはお前さんの執務室にある机を真っ二つにしたみたいだな。

 そして、これは悪い報告だがそれによって真祖の嬢ちゃんの契約書が破壊された。

 故に今は真祖の嬢ちゃんは自由の身だ。」


「は?」


ちょっと待て。

その状況でなんでそんなに落ち着いて居られるというのだね。

そんな事態になってるとは想定していないよ。

状況的にはかなり最悪だと思うが……。

というかその魔力の塊は何だというのだね。


「焦るな。

 いい報告もある。

 自由に解き放たれることは阻止できなかったが、その魔力の塊が唐突に消滅した。

 それが余程、真祖の嬢ちゃんからしたら予想外だったみたいでな。

 呆けた隙をついて倒すことには成功した。

 今は対吸血鬼用の檻に入れてある。」


「何とか野放しにする事態は防げたか……。

 しかし面倒なことになった。

 執務室に入り契約書を破棄したと言う事はその魔力の塊はエヴァーンが手引きした仲間と言う事だろ。

 そちらの調査は進んでないのか?」


「あー、そうだな。

 何分とりあえず状況が落ち着いて即座にお前さんに連絡したからな。

 今のところ魔力の塊の正体は不明だ。」


話している間に階段を登り切って、執務室前に到着した。

廊下は床がめくりあがり、ところどころ穴が開いて惨憺たるありさまだ。

こうなると思っていたから可能であればエヴァーンを外に誘い出してから戦闘してほしかったのだが…まぁ、言っても仕方ないことだね。

執務室の中は私の机が引き出し部分できれいに縦に金庫ごと真っ二つにされて、中の書類も裁断されていた。

これはまた……金庫ごととは随分な威力のようだね。


「……まぁ、他に被害がなく良かったと言っておこうか。」


「そうだな。

 後は魔力の塊の主が何処に潜んでいるかわからないって問題がある。

 まぁそっちは正直人海戦術でどうにでもなるだろう。

 既に帝城の出入り口は封鎖してある。

 真祖の嬢ちゃんのほうはお前さんがどうにかするだろう?」


「ああ、そうする。

 魔力の塊の主が分かったら連絡をくれ。」


「ああ、分かった」


とザミエール団長が返事をすると同時にうちの研究員が執務室に飛び込んできた。


「報告します!!!!」


む、酷く慌ててどうした。

ザミエール団長を見て取り込み中かと遠慮するかと思ったがそんな気配はないね。

今回の一件で関係があるか、よほどの事態か……。

まぁ、聞いてみないと始まらないから頷いて先を促す。


「は!

 研究塔地下室より研究対象の吸血鬼化した子竜が消失。

 現在行方不明となっております!」


その伝令を聞いて一瞬理解が出来ずに私は固まった。

想定外の事態が多すぎる。

一体全体何が起こってるんだい。


いつもお読みいただきありがとうございます。


シドが死ぬのを期待されていた方は申し訳ありません。

今のところはまだ生きてます。

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