⑦
そして勝負の日
大伴と峯扇はグラウンドで相対していた。
放課後のグラウンドは人は疎らで、さみしいものだ
勝負の邪魔は何もない。
「よく逃げなかったな」
「当たり前です。逃げるのは信条に反しますから」
体操服を着た峯扇は紅々と瞳を光らせて大伴の前に立っている。
半パンから見えるひざ小僧には絆創膏が貼られていた。
大伴との話の時にはなかったものだ。多分、あの後も練習を続けたんだろう。
「勝負内容は100メートル走。負けた時の条件は覚えてますか?」
「あぁ、覚えてる」
大伴が負ければ運動オンチって言った事を撤回して、峯扇が負ければ大伴の言う事を聞く。
この勝負は峯扇の方がリスクが高い。
それでもこの条件にしたのは負けないと思ってるのか。
それとも……
「じゃあ、始めるか。スタートの合図はどうする?お前が口で言ってもいいけど」
「そんなのフェアじゃありません。後二分でチャイムで鳴りますから、鳴った瞬間を合図にしましょう」
そう言って、峯扇はスタートラインに移動する。
自分の口で言えば少しは有利になるのに。
フェアじゃない。
峯扇はやはりそういう人間なのだろう。
大伴は小さく笑って、スタートラインに着く。
日頃見せる少し屈折した笑みではなく、峯扇を称えるように。
そして、いつもの体勢でスタートの時を待つ。
峯扇もそっくりの体勢で待っている
片膝をつくような、クラウチングスタートの体勢だ。
校舎にあるデカイ時計をちらりと見ると、スタートまで30秒、24秒、10秒
そして、合図のチャイムが鳴る
二人は同時にドンッ!!と地面を蹴ってスタートを切った。
峯扇のスタートはよく練習したと分かるものだった。
だが、大伴の敵ではない。
大伴は四歩で高速の域へと到達する。
ロケットスタートなんて例えじゃ足りない、スタートダッシュ。
彼はこの走りで高校最速になった
顧問に『絶対的な才能による走り』なんて言われた走りだ
ちらりと後ろを確認すると峯扇の姿が見える。
大伴の半分の速さも無い無様な、だけど懸命な走りだ
走りながら大伴は思案する。
峯扇は今の走りも、圧倒的な学力も努力で手に入れた。
しかし自分はどうだろうか?
才能に任せて陸上をやって、才能が無い勉強のことは努力しようとさえしなかった
「……ちっ」
大伴は苦々しい表情で最後まで加速し続けて、ゴールラインをぶち抜いた。
峯扇と圧倒的な差をつけて。




