⑥
安心しろ、とは言ったものの、問題はどうやってやめさせるかである。
大伴は教室に帰りながら早速策を練る事にした。
速水が大伴に言ってきたって事は速水では峯扇を説得できなかったって事だろう。
じゃあ自分が何を言っても無駄な気がするのだが、
多分峯扇は俺のこと嫌いだろうからなー。と思う大伴。
「ちっ、めんどくせー。友達に心配かけんなっつの。」
なんて呟きながら、廊下の角を曲がると、ぽふんと軽い衝撃が大伴の身体に当たった。
「きゃっ」
やばい。
女子とぶつかってしまった。
大伴は急いで尻餅をついていた女子に手を差し延べようとして、
「お、お前かよ」
「私で悪かったですね」
大伴の手を避けるように立ち上がる女子、改めて峯扇。
ジトッとした目で大伴を睨む峯扇。
別にそういう意味で言ったんじゃないのに、可愛げがないやつだ。
心配する速水の気持ちが大伴にはわからない
「む?なんですか、その顔」
「べっつに。それよりお前、走る練習してるんだって?」
このままだとまた口ゲンカになりそうだと判断した大伴はさっさと本題に入ることにした。
「友達の速水が心配してんぞ?勝ちたいのは分かるけど、人には不得意なことってあるし、友達に心配かけんなよ」
「嫌です」
即答。
「お前なぁ、速水が可哀相だろ。アイツは、めちゃくちゃ心配してんだぞ」
「わかってます」
ぴしゃりと言い放った峯扇は大伴の身体を避けて歩き出そうとする。
断言してもいいが、峯扇は絶対わかってない。
話は終わってねぇぞ、と大伴はさっさと行ってしまおうとする峯扇の手を掴んだ。
「な、なんですか?」
「お前なんでそんなに必死なんだよ?そんなに負けたくないのか?」
「せんぱいには関係ありません」
たしかに敵の自分には関係ない。別に知りたくもない。
速水に為だ。
それに、なんとなく、見過ごせない。
大伴がジッと峯扇の顔を見ていると、
「……はぁ、わかりました」
峯扇は観念したように身体から力を抜いた
*
「私、勉強苦手だったんです。中学生の頃は成績悪くって」
廊下から人通りの少ない中庭に移動して、峯扇はぽつりと喋り出した。
「私の家族みんな学歴が良かったんですよ。だから私だけ疎外されてたって感じで」
「それが嫌で私がんばったんです。毎日毎日勉強ばっかりして、必死に努力して、日本でも有数の進学校に入学しました。結局この学校に転校しましたけど」
峯扇は小さく笑ってから、まっすぐに俺を見た
「でも、あの努力があったから今の私があると思ってます。あの勉強した時間は無駄じゃない。無駄な努力なんて、無いんです」
「才能っていうのはその物事に努力できるか、どうかです。私は運動は苦手だけど、だからって諦めるのは嫌なんです。」
「だから私は練習はやめません。たとえ悠にやめろって言われても、大伴せんぱいに負けることになっても。では失礼します」
くるりと方向転換した峯扇は力強い足どりで校舎に向かっていき、
大伴はそれを止められなかった。
意外すぎてどう反応すればいいかわからなかったからだ。
あの峯扇が、全教科満点の天才の峯扇が努力の人だった。
意外すぎて言葉も出ない。
「はは……」
大伴は乾いた笑いと共に、考える。
峯扇は勉強苦手だけど努力して、諦めないで、全教科満点なんてすごい事を成し遂げたのである。
それに対し、自分は勉強なんてできるわけねぇ、なんて言って諦めていた。
「ちっ」
無造作に頭をかいて、大きく息を吐いた。
自分がとても情けなく感じた。




