④
「なんの用だよ?」
教室を出てたどり着いたのは、昨日二人が盛大に揉めた場所だった。
「昨日大伴せんぱいは言いましたよね?私みたいなのはどうせ運動オンチなんだって」
言ったような気がする。しかしこいつなんて目で睨むんだろうか。
まるで親の敵を見るような視線で大伴を睨みつけて、峯扇は続ける。
「撤回してください」
「はぁ?」
まさか、こいつはそれだけの為にわざわざ呼び出したのだろうか?
もしかして、と大伴の頭の中に疑問が浮かび上がる。
「お前……もしかして本当に運動オンチなの?」
「っ!?」
図星。
勢いで言ったのに当たってるとは思ってなかったが、
峯扇の慌てぶりを見ると、どうやらそうらしい
「詮索はしなくていいんです!!とにかく早く撤回してください!!」
必死に言う峯扇。しかし大伴には昨日の恨みがあるわけで。
「ヤダ」
「な、なんですか!!」
「頼み方がダメ」
わざと昨日言われた事を言う。
へっ俺の気持ちを味わいなー、という心境の大伴。
「くっ……昨日の仕返しですか?わかりました!!」
峯扇は俺を睨んだまま、ズンズンと突き進んでくる
なにがわかったんだろうか?あきらめたというわけではなさそうだが。
大伴は後ずさりをしたが、すぐ後ろの壁が避難の邪魔をする。
峯扇は身体と壁で俺を挟んで(胸が大伴の身体に当たってるのに気付いてない)睨み上げる。
「勝負しましょう。大伴せんぱいの得意な100メートル走でいいですよ」
「はぁあああ!?」
大伴、今日一番の驚き
だって勝負になるわけがない。
陸上で勝負するって事は絶対に大伴が勝つって事である。無謀すぎる。
「なぁ、俺の陸上界でのあだ名知ってる?」
「……スピードスター」
忌々しそうに言う峯扇。
そう、大伴は陸上界では『スピードスター』の大伴恢人、なんて呼ばれている。
誰が言い出したのかは分からないが、この異名は大伴の速さに対する称賛と羨望の証である。
「その俺と陸上勝負って……。やめといた方がいいぜ?」
「う、うるさいっ!!私が負けたらなんでも言うこと聞きます。せんぱいが負けたら言葉を撤回してください!!」
「え?……なんでも?」
止めようとしていた思考が一気に切り替わる。
なんでも言うことを聞くって言った?
つまり、大伴が勝てば卒業のチャンスがもう一度舞い降りることになる。
「いいぜ、勝負してやる。さっきの言葉忘れんなよ?」
「あ、当たり前です!!せんぱいこそ負けてから言い訳しないでくださいよ。勝負は三日後です、いいですか?」
「あぁわかった。それでいい」
俺が負ける?
はっ、ありえるわけねーだろ!!と大伴は心の中でほくそ笑んでいた。
*
「ふふっ。余裕すぎる」
勝負の約束をした大伴は軽い気持ちで一日を過ごして今は帰宅の道を歩いていた。
なぜなら自分の勝ちは必然で当然で自然と考えているからだ。
実際、必ずといって良いほど大伴が勝つだろう。
「大伴くんゴキゲンだねぇ。なにかあったの?」
途中会って一緒に帰っている赤坂がニコニコしながら大伴に聞く。
「ふっ、まぁな。これで俺に死角はねぇぜ!!」
「死角?……あっそうだ!!今日あの天才ちゃんを見たよ!!」
天才ちゃんというのは峯扇のことだ。。
今頃後悔しているだろう。なにせ負けたら大伴の言う事を聞くんだから。
しかも負けはもう確実みたいなものだ
そんな事を考えていたら、赤坂が衝撃の事実を大伴に言ってきた
「なんかね、体操服来て運動場を走ってたよ。補習かなぁ?」
「……は?」
運動場を走っていた?……
まさか練習しているのだろうか?
本気で自分に勝つつもりでいるのか!?
相手は高校最速の人間なのに
「けっ……」
しかし、数日練習したところで勝てるわけがない。
大伴が今までどれだけ走ってきたと思っているのだろうか。
「バカじゃねぇの?」
「え?大伴くん何か言った?」
「べっつに。刹里ちゃんよ、ファミレスでも行くか?今日はおごってやんよ」
「刹里ちゃん!?大伴君どうしたの!?」
スポーツはそんなに甘くはない。付け焼き刃では勝てないのだ。




