⑦
「結果を教えてください」
「……ああ」
テストが終わって数日。
大伴は速水に呼び出された。
場所は恒例の廊下ではなく、速水が指定した放課後の教室だ
生徒は全員下校した後らしく、今は大伴と速水しかいない
「……」
速水は無言で右手を伸ばす。
大伴の手には全教科のテストの点数が記されている長細い紙が握られている。
まだ峯扇にも見せていないそれを寄越せというジェスチャーだろう。
「なぁ、渡さないと駄目か?」
「駄目です」
「……そうだよな」
大伴は一人呟いて、速水の手に紙を置いた。
速水はすぐにそれを見て、驚いたように僅かに目を見開いた。
「スゴイですね。全部80点越えてるじゃないですか……」
まぁ、一応努力したから、と大伴は言う。ひとえに、優秀な師匠のおかげだろう。
しかし、
「でも、100点はありませんね」
速水は現実をたたき付ける。
そう、大伴は100点は取れなかった。最高得点は現代文の92点。8点も足りなかった。
大伴は条件を満たせなかった。
「いきなりこんなに点数を上げるのはスゴイと思います。努力も認めます」
でも、と速水は続ける。
「100点は取れてません。だから、もう椿樹には近付かないでくださいね」
嬉しそうに言う速水。友達に悪影響を与える人物を排除できるとあれば、それは嬉しいだろう。
大伴は峯扇の前から消える。
峯扇はやる必要のない先生役をやめて、自分の勉強に専念する。
勉強の仕方なら峯扇から教わった。
わからない所は赤坂や先生に聞くなりすれば、後は全部自分できるだろう。
しかし、
「あの条件無かったことにはならないか?」
「……え?なに言ってるんですか?」
速水は信じられないものを見るような目で大伴を見た。
「駄目に決まってます!!あの条件を忘れたんですか!?」
「覚えてる、けど……」
大伴だって自分の言ってることが矛盾してることぐらい分かってる。
このまま速水の言う通りにしてれば、もうアホみたいな量の課題をやらなくていいのに。
「でも、アイツと勉強してる時は、そう悪いもんじゃなかったんだよ」
口うるさく、スパルタだった。
ケンカのような罵り合いもしょっちゅうだった。
だが、彼女ほど根気よく勉強を教えてくれる人物もいなかった。
今までいた、すぐにサジを投げる教師たちと違って。
「あいつはただの使命感かもしれないけどな。俺は嬉しかった」
だから、もう少しだけ峯扇と勉強させてくれ。大伴は呆然とした速水に言った。
教えてもらってる時は微塵も気付かなかった感情。
人間、失う瞬間になって気付くものなのかもしれない。
「……やっぱり」
大伴の言葉を全て受け止めた速水は、地の底から出したような低い声で言った。
光彩を失った目で大伴を見る。
「やっぱり、大伴せんぱいも椿樹のことが好きなんですね……」
「はっ!?」
なにを言ってるのだろうか、この女は。
今のはそういう話じゃなかった筈。しかも、
大伴の聞き間違いじゃなければ、「大伴せんぱいも」って言った気が……。
「も、もしかしてお前……」
恐る恐る速水に問い掛ける。ありえないと思う反面、まさかという考えがよぎる。
「……えぇ」
速水は短い相槌をうって、続ける。
「私は椿樹が好きなんです。友達としてではなく、一人の女性として」




