第8話 ファーストコンタクト
翌朝。
鳥の鳴き声で目を覚ました俺は、木の穴から出て川で顔を洗う。水面に映った自分の顔を見て再びニヤニヤした後、アイテムボックスから肉を取り出す。朝ごはん用に昨日の肉を少し残しておいたのだ。
火を起こし、串に刺した肉を焼く。
焼けるのを待つ間にも試しておきたいことがあった。
「まずは枝に火を着ける、そして《収納》」
アイテムボックスに入れてしばらく待つ。
数分後、枝を取り出すと、入れた時と同じように燃えていた。
「おおっ、やっぱりアイテムボックス内は時間停止してるんだ!」
これは嬉しい、水や食料をずっと保存できるってことだ。
「これって生き物も入れられるのかな?」
でも、小動物とかで試すのもなんか可哀想だし。
「なら魔物で試すか?」
いや、でも失敗したら怖いな。
いずれ魚かなんかで試してみよう。
そして肉を食べ終わると、立ち上がり火を消す。
「さて、いつまでも森にいるわけにはいかないし。そろそろ人のいる所へ行きたいな」
そうして、俺は出口を探すため森の中を歩いた。
とはいえどう進めばいいのか分からないので、とりあえず川に沿って歩いていたのだが。しかし、森はどこまでも続いている。
「これどうすれば森から出られるんだ?」
きょろきょろと辺りを見回していた、その時。
――ガサッ。
草むらから、犬のような獣が姿を現した。
「うっ、魔物だよねこれ? 《鑑定》」
【フォレストウルフ Lv10】
『森に生息している狼の魔物。肉食。※食用可』
「レベル10? いやいや、こんなの勝てるわけないじゃん!」
思わず一歩下がる。
フォレストウルフは俺を睨みつけ、牙を剥き威嚇している。
喉の奥から低い唸り声が響く。
――逃げる?
いや、絶対向こうの方が足は速い。
背を向けた瞬間に追いつかれるだろう。
――戦う?
いや、さっき勝てるわけないって言ったばっかりじゃん!
「どう考えても無理なんですけど」
えっ、これ終わった? 俺の異世界生活ここまでなの?
「いや、まだだ。せっかく理想の美少女になれたんだ。こんなところで終わらせてたまるか!」
アイテムボックスから石のナイフと盾を取り出す。
盾には穴が開いているけど、ないよりはマシだ。
手が震えている。
それでも、盾を下ろすわけにはいかない。
盾を構えたのと同時に、フォレストウルフが襲い掛かってきた。
「グォォォ!」
「うわっ!」
フォレストウルフの突進を盾で受けたが、耐え切れずそのまま後ろに弾き飛ばされた。
「ぎゃあ」
そのまま地面に叩きつけられ、盾を落としてしまった。
「しまった」
しかしフォレストウルフが、ゆっくりとにじり寄ってくる。
起き上がって盾を拾おうとする。
しかし、焦りで手が震え、うまく掴めない。
フォレストウルフはそれを見逃さなかった。
一気に間合いを詰め飛びかかってくる。
ヤバい、死ぬ!
そう思った瞬間、どこからか声が響いた。
「伏せて!」
「えっ?」
思わずその場に倒れ込み、身をかがめる。
――ヒュン!
「ギャゥン!」
風を切る音が聞こえたと思ったらフォレストウルフの体を一本の矢が貫いた。
「えっ?」
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「……助かったの?」
倒れているフォレストウルフの前で呆然としていると――。
「大丈夫だった?」
声の方に視線を向けると、二人の若い女性がこちらに歩いて来る。
「危なかったわね、怪我はない?」
心配そうな表情で俺に手を差し伸べる。
「あっ、はい。ありがとうございます」
「こんな所で何してたの?」
どうしよう、転生して気づいたらこの森にいました。
……なんて、言えるわけないよな。
「あっ、いえ。その、道に迷ってまして」
「迷ってって、どこから来たの?」
「いや、遠い所からです」
「ああ、何か訳ありなのね」
察してくれたみたいで助かったけど、この二人は誰なんだろう?
こんな森の中で何をしてたんだ?
そう思い、二人をこっそり鑑定してみた。
「《鑑定》」
最初に声を掛けてきたのは、長い赤髪を後ろで束ねた女剣士風の女性だ。
【名前】ライア
【種族】人間
【年齢】19歳
【レベル】25
【職業】剣士
もう一人は、背中に弓を担いだ緑髪の女性。
フォレストウルフを一撃で倒したのは、たぶんこの人だろう。
【名前】ミネッサ
【種族】人間
【年齢】18歳
【レベル】22
【職業】シーフ
二人ともレベル20以上なんだ、これってこの世界だとどのくらいの強さなんだろう?
「あの……お二人はいったい?」
「ああ、私たちは冒険者よ。この森に薬草を採集しに来たのよ」
「冒険者!」
きた!
異世界といえばやっぱり冒険者だよな!
さっきまで死にかけていたのに、不思議と胸が高鳴る。
しかもよく考えたら現地人とのファーストコンタクトだ。
これは是非いろんな話を聞かせてもらいたい。
いやでも、まずはお礼を言っておかないとな。
「えっと、助けてくれてありがとうございます」
「ふふっ、いいわよ。あなたが無事でよかったわ」
「ところで、ライアさんたちはどこから来たんですか?」
「えっ、どうして私の名前知ってるの?」
あっ、しまった。
うっかり鑑定で見た名前呼んじゃった。
「え、えーっと……」
「さっき名乗ったかしら?」
ライアは不思議そうに首を傾げる。
すると。
「あなた。もしかして鑑定スキル持ってるの?」
今まで黙っていたミネッサが突然口を開いた。
「えっ? 鑑定スキル? 本当に?」
ライアも驚いたように目を見開く。
どうしよう、この世界で鑑定というスキルがどんな扱いなのか分からない。
とんでもないレアスキルとかだったらまずいよな。
でも、この二人はなんだかいい人そうだし。
せっかくだから聞いてみるか。
「あの、もしかして鑑定って珍しいスキルだったりします?」
「ええ、鑑定は冒険者でも持ってる人はほとんどいないわ。商人なんかが、たまに持ってるくらいよ」
なるほど。
レアだけど全くいない訳じゃないと。
他にも持ってる人がいるならたぶんセーフだな。
「はい、一応使えます。レベル1ですけど」
「それでも十分すごいわよ。ねぇ、良かったら薬草探し手伝ってもらえない?」
「薬草探しですか?」
「レベル1でも、草の見分けはできるでしょう?」
「はい、たぶんできると思いますけど……」
俺は目を閉じて考える。
草探しなら昨日もやったし、恐らく見つけるのは可能だろう。
それに、この世界についてもっと知りたい。
何より、この二人について行けば街に行けるんじゃないか?
いつまでも森の中で暮らすわけにはいかない。
一人でさっきみたいな魔物に襲われたら間違いなく死ぬ。
「分かりました、俺で良ければお手伝いします」
しまった、つい俺って言っちゃった。
「本当! ありがとう。改めて、私はライア。こっちの無口な子がミネッサよ」
ミネッサは軽く会釈してくれた。
あれ? なんか全然気にしてないみたいだな。
この世界では女が俺って言っても変じゃないのかな?
「あっ、俺はキアラです。よろしくお願いします」
「キアラね。よろしく」
俺は二人と握手を交わし、薬草採取を手伝うことになった。




