第7話 寝床作り
肉を食べ終えた俺は、満足げに息を吐いた。
「ふぅ、量は少ないけど、この小さい体なら十分かな」
ポンッとお腹を押さえ、そのまま腰に手を当てる。
うん、細いウエストに、すらっとした綺麗な足。
これが自分なんだと思うと、思わずにやけてしまった。
「うふふふっ」
やっぱり女の子の体っていいな。
でもこれ傍から見たら完全な不審者だろうな。
そんなことを考えたその時、森に風が吹く抜けた。
長い銀髪がふわりと舞い上がり視界を塞ぐ。
「うわっ」
風はすぐに収まったが、細い毛先がまつ毛や唇にまとわりついていた。
「うーん、綺麗でいいんだけど、慣れないとちょっと邪魔だな」
そう思い、余っていたハンカチサイズの布を使い、神具創造で白いリボンを作ってみた。髪を後ろで纏めて、リボンで縛る。
「うん、とりあえずはこれでいいかな」
ふと、自分の服を見ると、すでに少し汚れてしまっている。
街に行ったら、お金を貯めて可愛い服とか買いたいな。
神具創造や鑑定スキルを使えばお金も稼げる気がするし。
「しかし、街か」
我に返って顔を上げると、辺りはすでに暗くなっている。
今から暗い森を歩いて人のいる街を探すのは難しいだろう。
「さて……どうするか」
魔物もいる森の中で野宿は危険だけど、今日は仕方ないか。
「でもどこで寝るんだ、俺?」
さっき神具創造でテントを作れないか試したんだけど、必要素材に鉄が必要らしい。恐らく骨組みの部分だろう。骨組みを全部木で代用できないか試してみても良かったが、今日はさすがに疲れた。
「洞窟でもあればよかったんだけど」
しかし、周囲を見渡しても木や草しかない。
「木? ……そうだ!」
木に穴でも掘ってその中で寝ればいいんじゃないか?
入口を板かなんかで塞いでおけばたぶん安全だろう。
「あっ、あそこにちょうど良さそうな木があるじゃん」
視界の先に一本の太い木を発見したので近づいてみる。
「この木の内部を削り取るイメージで……《神具創造》」
すると、幹の一部が消えたようにくり抜かれ、小さな空間が出来上がった。
「あれ? でもイメージしたのより少し狭いな」
神具創造は便利だけど、思い通りの形にするのはなかなか難しい。
とりあえず中に入ってみる。
「まぁ、一晩くらいならこれで十分かな」
一旦外に出て、アイテムボックスから採取していた繊維草を取り出す。
こんなこともあろうかと、余った繊維草はちゃんと取っておいたのだ。
神具創造で大きめの布を作る。まぁ、ちょっとしたシーツ代わりだ。
「よし、これで準備オッケーだな。おっと」
寝る前に焚火は消しておかないと火事になってしまうかもしれない。
川で水を汲み、焚火を消火しておいた。
次に、枝を拾い集めて板を作る。
そして木の穴に入り、入口を塞いだ。
「これで安全だろう」
膝を抱えて、壁に寄りかかるしか出来ない狭い空間だけど、なんだか思ったより安心感がある。自分で作った、自分だけの寝床だからだろうか?
「さて、まだ寝るには早いしもう一度ゆっくりステータスを見てみよう」
「《ステータス》」
【名前】キアラ
【種族】霊神人
【年齢】16歳
【レベル】2
【ユニークスキル】神具創造Lv1
【スキル】鑑定Lv1 / アイテムボックスLv1
【魔法】火魔法Lv1
【状態】正常
「おっ、なんか項目が増えてる。火魔法がちゃんとスキル化してるじゃん」
やっぱりさっきのは偶然じゃなかったんだな。
「これって練習すれば他の魔法も使えるようになるのかな?」
アリシアは神具創造は剣も魔法も覚えないって言ってたけど、あくまで自動的に覚えるわけではないっていう意味だったんだな。
さっき《ファイア》を使ったら、火魔法を習得できた。
つまり、神具創造とは別に、自分で練習すれば魔法や他のスキルも習得できるということか。
だとしたら、試してみたいことが山ほどある。
そう考えると、自然と口元が緩んだ。
「これは、明日からが楽しみだな」
そうだ、明日はアイテムボックスの検証もしてみよう。
魔法ももう少し練習したいし。
そして何より、一番楽しみなのは神具創造だよな。
これを上手く使えば、自分の人生だって、自分で作っていけるかもしれない。
うん、せっかく手に入れた新しい人生だ。思いっきり楽しもう。
そんなことを考えながら、俺は目を閉じた。
◇ ◇ ◇
時は少し遡る。
アリシアが牧場に落ちた、その直後――。
ここはロメルタ王国、ラテル街のとある牧場。
「はぁ、これからどうしよう」
全身牧草まみれのまま、私は空を見上げた。
どこまでも続く青い空に、白い雲がゆっくりと流れていく。
鼻をくすぐるのは、土と草の匂い。
遠くからは、牛の鳴き声まで聞こえてくる。
天界には帰れないし、行く場所もない。
がっくりと肩を落とし、途方に暮れていた。
そのとき――。
「おや? なんじゃこれは?」
突然、背後から声が聞こえた。
「ひゃっ!?」
びくっと肩を跳ねさせ、慌てて振り返る。
そこに立っていたのは、白い髭を生やした一人のおじいさんだった。
麦わら帽子を被り、デニムのオーバーオールを着ている。
この牧場の人なのだろうか?
「すみません。草、ぐちゃぐちゃにしちゃって」
「いや、それは構わんのだがね。お嬢ちゃん、そんなところで何してるんだい?」
「いえ、ちょっとこれからどうしようか悩んでまして」
「……どうしようとは?」
「その、お金も行く当てもなくて」
「ほう。それは大変じゃのぅ。ところであんたどこから来たんだい?」
「えっと、その。遠い所からです」
天界から来たとはさすがに言えない。
私たち神々は地上では正体を明かしてはいけないという決まりがあるのだ。
「ふむ、遠い所からねぇ」
その時、私のお腹がぐぅーと大きな音を立てた。
「あっ、すみません……」
慌てて自分のお腹に手を当てる。
うわぁ、恥ずかしい。
そういえばお昼食べる前に人間界へ飛ばされたんだった。
思い出した瞬間、空腹がさらに強くなった気がした。
「……なるほどのぅ」
そんな私を見て、おじいさんは顎髭を撫でた。
「腹も減っとるし、金も行く当てもない。そういうことじゃな?」
「うっ、その……はい」
「なら、とりあえずウチで飯でも食って行きなさい」
「えっ。いいんですか?」
思わず身を乗り出してしまった。
「はっはっは、かまわんよ。腹が減っとる時は難しいことを考えても仕方ないからのぅ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。
ああ、何て親切な人なのかしら。人間にもこんな優しい人がいるのね。
「ところでお嬢ちゃん、名前は?」
「あっ、アリシアです」
咄嗟に本名を名乗ってしまった。
「おや、女神さまと同じ名前なんだねぇ」
「ははっ、そうなんですよ」
まぁ、名前が同じ人なんていくらでもいるしバレないわよね。
その時、不意に牛舎が視界に入った。
なるほど、ここは搾乳牛を飼育しているのね。
じゃあ後でこっそり牛がお乳をたくさん出す祝福を与えてあげよう。
うん、それくらいならきっと規則違反にはならないはずだ。
お言葉に甘えることにして、一緒におじいさんの家へと向かった。




