第5話 初戦闘
念願の美少女になれて、名前も決まった。
「おっとそうだ。水を飲みに来たんだった」
俺は先ほど作ったコップで川の水を掬う。
見た目は透明だし、問題なさそうではあるけど。
「川の水そのまま飲むのは、やっぱりまずいかな? 《鑑定》」
【綺麗な水】
『飲用可能』
「おお、これそのまま飲めるんだ」
鑑定マジ便利だな。
恐る恐る口に含んでみる。
特に変な味とかもしなかったのでそのまま飲み込んだ。
「うん、普通に飲めるな」
水は生きていくうえで絶対に必要だ。
そう考えて、太めの枝を集めて水筒を作ることにした。
「よし、まずはしっかりイメージを固める」
ただの筒ではなく、蓋にねじ山を作って零れないようにする。
前世で使っていた水筒を思い浮かべながら《神具創造》を発動する。
――コトッ。
出来上がった木製水筒が地面に落ちる。
「よし、成功だ」
蓋の噛み合わせもぴったりだ。
草履や服を作った経験のおかげか、神具創造の使い方にも慣れてきたのかも。
なんにせよこれで、水を持ち歩ける。
水筒を掲げたその時。
――ガサッ。
背後の茂みから、角の生えた一匹のウサギが現れた。
「えっ、ウサギ? でも普通のウサギじゃないよねこれ?」
目が紅い。
いや、ウサギの目は赤いものだがこれはちょっと普通ではない。
赤過ぎる!
いったい何徹してるんですか?
「いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃないな」
これ絶対魔物だよね?
「とりあえず《鑑定》」
【ホーンラビット Lv3】
『額に生えた角を使って突進してくる魔物。小型だが非常に好戦的。肉食。※食用可』
「やっぱり魔物じゃん! ってかウサギなのに肉食なの?」
普通うさぎは草を食べるんじゃないのかよ?
これって、もしかして俺を食おうとしてるの?
「まずい、俺レベル1だし。魔物と戦ったことなんてないぞ」
前世はただの社畜だ。
魔物との戦闘なんてゲームでしかやったことはない。
何か武器を作らなきゃ……何を作ればいい?
ナイフか?
いや、素人に接近戦とか絶対に無理だな。
傍に落ちていた木の枝をゆっくりと拾い上げた。
「《神具創造》」
木の枝が少し長めのバットのような形に変化した。
「あれ? 槍をイメージしたのになんでだ?」
先端が尖ってない。
イメージが足りなかったってことか?
「俺……野球の経験もないんだけど? こんなものでどうやって――」
バットを見つめながらそんなことを考えていると、じっとこちらを睨んでいたホーンラビットが、ゆっくりとにじり寄って来る。
「あっ、これ来るな……」
そう呟いた瞬間。
――ダッ!
ホーンラビットが地面を蹴り、一直線に突っ込んできた。
「うわぁ、ちょっと待って!」
反射的に横へ飛ぶ。
直後、俺が立っていた場所を角が通り過ぎた。
――ズガッ!
ホーンラビットの角が、背後の木に突き刺さった。
「……マジかよ」
あんなの食らったら、絶対に死ぬじゃん。
思わず後ずさる。
落ち着け、冷静に考えろ。相手は小さいがレベル3だ。
対する俺はレベル1で、しかも戦闘経験ゼロだ。
どう戦えばいい?
「いや、待てよ」
俺は相手をじっくりと観察する。
ホーンラビットは角で攻撃してくる、だったら必要なのは槍じゃないな。
そもそも素人の俺に槍なんて扱えるわけないし。
もう一本太めの木の枝を拾い、手にしていたバットと合わせて素材にして今度は鮮明にイメージする。
「厚みのある硬い盾――《神具創造》」
すると、俺の手には頑丈そうな木の盾が握られていた。
「よし、これだ!」
俺は盾を構える。
槍は無理でも、盾なら使えるかもしれない。
俺が狙ってるのはいわゆるシールドバッシュみたいな技だ。もちろん実際にやったことはない。ゲームなんかでしか見たことないから、できるかどうかは分からないけどやるしかない!
ホーンラビットが、こちらを睨みつける。
そして――。
――ダッ!
ホーンラビットが再び俺に向かって突っ込んでくる。
「うおおおっ!」
俺は盾を体の前に構えた。
正面から受け止めるのは正直、怖い。
でも、逃げてもまた追ってくるだろう。
なら、こいつの突進を利用するしかない。
ホーンラビットが間合いに入った瞬間。
「うりゃ!」
俺は盾を前方へ突き出した。
――ドンッ!
凄まじい衝撃が腕に伝わり、ホーンラビットの角が盾に突き刺さった。
「嘘だろ? どんだけ丈夫な角なんだよ」
しかし。
ホーンラビットは何度も首を振り、必死にもがいている。
しかし角は盾に深く食い込んだままだ。
もしかして……抜けないのか? これはチャンスだ!
俺はそのまま全力で近くの大木に盾ごとホーンラビットを叩きつけた。
――ドォン!
「ギャッ!」
そんな悲鳴を上げてホーンラビットはそのまま動かなくなった。
「はぁはぁ、倒せたのか?」
心臓がまだ激しく鼓動している。
正直、勝てたのは運が良かっただけだ。
盾に角が刺さらなかったら?
もし、角が抜けていたら?
一匹だけじゃなく群れだったら?
そう考えると、今さらになって足が震えてくる。
「……異世界って、こんなに危険なのかよ」
思わずその場にへたり込んだ。
そして、盾に角を突き刺したまま倒れているホーンラビットを見る。
「しかし、俺でも魔物を倒せたんだな」
そう思うと、なんだか少しだけ嬉しいな。
俺、本当に異世界に来たんだなぁ。
しみじみとそう思った。
でも、本当にここで生きていけるのか少し不安になってきた。
その時――。
――ピコン♪
『レベルが上がりました』
突然頭の中で変な効果音と共に声が響いた。
「うぉっ、今の何? レベルが上がった?」
慌ててステータスを開き確認してみる。
【名前】キアラ
【種族】霊神人
【年齢】16歳
【レベル】2
【ユニークスキル】神具創造Lv1
【付属スキル】鑑定Lv1 / アイテムボックスLv1
【状態】正常
「なんだこれ? ますますゲームっぽいな……でも」
人生で初めての魔物討伐。
そして、初めてのレベルアップだ。
「……これ、ちょっと楽しいかも」
知らない世界で、知らない力を使って、自分の力で生きている。
そう考えると、なんだか胸が躍った。
しばらく初戦闘の勝利とレベルアップの余韻に浸っていたのだが。
ふと、ホーンラビットに視線を向ける。
「確かこいつ、食用可って書いてあったよな」
うーん、肉食のウサギか。
魔物の肉なんて食べていいのかな?
でも、どんな味がするのかちょっと興味がある。
それに、食料を無駄にできるほど余裕があるわけでもない。
実はちょっとお腹もすいているのだ。
異世界に来たならこういうサバイバルにも慣れておいた方がいいだろう。
「……とりあえず、解体してみるか」
そう呟いたところで、俺はあることに気づいた。
「あっ……解体って、どうやるんだ?」
俺の異世界生活は、まだまだ始まったばかりだった。




