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第4話 女神アリシア

 天界の主神の間。

 天井さえ見えないほど広大な神殿の中央。

 そこにある荘厳な玉座に、一人の女性が腰掛けていた。


 主神イシュタル。

 この世界に存在する、すべての神々を束ねる最高神である。

 そして今、その前には一人の女神が呼び出されていた。


 そう、私である。


「失礼しまーす。主神様、お呼びでしょうか?」


 私は引きつった笑みを浮かべながらおずおずと入室する。

 急に呼び出しを受けて来たのだけれど。

 呼び出された原因は分かってる、間違いなく神具創造の件だ。


 主神様は普段は優しいのだが、怒らせると滅茶苦茶怖い。前に仕事をサボった別の女神が三日三晩説教されて泣いていたのを見たことがある。


 どう言い訳しよう?

 ヤバい……なんだかお腹痛くなってきた。

 そんなことを考えながら、恐る恐る玉座の前まで進み、膝をつく。


「アリシア」


 イシュタルが静かな声で名前を呼ぶ。


「は、はい」


「なぜ神具創造を転生者に与えたのですか?」


「あの、そのぉ。なんと言うか、書類が紛れ込んでまして」


「その書類を事前に整理したのは誰ですか?」


「えっとぉ……誰でしたっけ?」


 冷や汗をダラダラ流しながら視線を泳がせる。

 まずい、これは非常にまずいわ。

 どう答えれば許してもらえるんだろう?


「アリシア、質問に答えなさい」


「あっ、私です」


 正直にスッと手を上げた。

 素直に認めたら許してくれたりしないかな?


「つまり原因はあなたですね」


「はい、そのようです」


「神具創造がどのような能力かは理解していますね?」


「はい、もちろんです!」


「では説明してみなさい」


「えっとぉ……なんというか、すごく凄い能力です!」


 その答えを聞いてイシュタルは頭を抱えた。


「はぁ、まったく理解していないのですね?」


「すみませんでした!」


 私はその場で全力で土下座した。

 これでなんとか許してください。

 お願いします!


「あの神具創造はレベルが低いと大したものは作れません。しかし成長すれば、物質だけでなく概念にすら干渉する可能性があります」


「えっ、概念、ですか?」


「ええ、使い方を誤ればそれこそ魔王や邪神以上の脅威となるやもしれません」


「そんなに凄い能力だったんですか、あれ?」


「例えば、素材さえあれば伝説級の武具を量産することも可能です。これがどれだけ危険なことか分かりますか?」


「は、はい! それはとっても危険ですね!」


「はぁ、全然分かっていなさそうですね」


 イシュタルは呆れたようにため息をついた。

 そして少し考えた後、再び私に視線を向ける。


「さらに成長すれば、『病気にならない薬』や『壊れない剣』など、本来存在してはならない物すら生み出せるかもしれないのですよ」


「ゴクッ、世界のバランスが壊れちゃうってことですか? それはヤバいですね」


 もしかして、私……とんでもない物を渡しちゃったんじゃない?

 あの子が望んでいた能力がたまたま揃ってたから適当に渡しちゃったんだけど。

 そんな軽いノリで渡していい能力じゃなかったのね。

 ようやく事の重大さを理解してきたが、もう遅かった。


「アリシア、あなたには罰を与えます」


「ええっ!」


 罰と聞いて私は思わず飛び上がった。

 いったいどんな罰が?

 覚悟を決めたように神妙な面持ちで背筋を伸ばす。


 背中に一筋の汗が流れるのを感じた。

 しかし、イシュタルが口にした言葉は、私の予想をはるかに超えていた。


「責任を持って、あの転生者を監視しなさい」


「あの……それってどういうことでしょうか?」


「人間界へ行き、あの者が能力を悪用しないように見張るのです」


 一瞬、思考が停止した。

 えっ、今人間界って言った?


 私が人間界に行くの?

 しかもあの変態の監視役?

 いやいやいや、私は人間を見守る側の女神であって変態の監視員じゃないのよ。


「なんでえええええっ!?」


「ついでにあなた自身も成長してきなさい」


「ちょっ、待ってください! まだ心の準備が――」


 ――パチン。

 イシュタルが指を鳴らした。


「へっ!?」


 次の瞬間、私の姿は主神の間から消えていた。


 ◇ ◇ ◇


「きゃああああああああっ!?」


 気付けば私は空から落ちていた。


「ちょ、ちょっと待って! 聞いてない! 私、こんなの聞いてないんだけどぉー!?」


 翼を広げようとするが、人間界に送られた影響なのか女神の力がうまく使えない。


「う、嘘でしょ!? なんで飛べないの!?」


 眼下には、どんどん地面が近づいてくる。


「いやあああああっ!」


 神なのに、着地に失敗して死ぬなんて神界の歴史に残る黒歴史じゃない!

 そんなの絶対嫌なんだけど!?

 必死に両手をパタパタと振り、何とか重力に逆らおうともがく。

 しかし、それも虚しく真っ逆さまに落下していく。


「主神様ぁぁぁぁぁっ! これは酷くないですかぁ! 私死んじゃうぅー!」


 ――ドサッ。


「ふぎゃっ!?」


 衝撃に備え身構えていたが、体が何か柔らかいものに突っ込んだ。


「あれ……私、生きてる?」


 恐る恐る目を開けると、周囲には大量の干し草が積まれていた。

 どうやらこの干し草のおかげで命拾いしたようだ。


「た、助かったぁ……」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 しかし――。


「えっ……ここ、どこ?」


 慌てて周囲を見回す。


 どうやら私が落ちたのは牧場のようだ。

 少し離れた所には石造りの建物や行き交う人々の姿が見える。


「本当に人間界に来ちゃったんだ……」


 ショックでその場にへたり込んでしまった。


「私、これからどうしたらいいの?」


 お金もないし、知り合いもいない。

 天界にも帰れない。

 いや、これって実質ホームレスじゃない?


 私、女神なのに……。

 そう呟き空を見上げる。

 そこには綺麗な青い空が広がっていた。


「せめて、もう少し説明してから送ってくださいよぉ……」


 当然、返事をする者はいなかった。


 ◇ ◇ ◇


「まったく……世話の焼ける女神ですね」


 そう呟いたところで、イシュタルはふと書類を確認する。


「……あら?」


 アリシアを送る先はあの街で良かったのだろうか。

 数秒考える。


「まぁ、離れた場所でも同じ世界ならいずれ会えるでしょう。頑張りなさい、アリシア」


 イシュタルはそっと目を閉じた。

こちらは基本週末に投稿しますので、次話は来週金曜日になります。

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