第3話 尊厳確保
その後も俺はしばらく森の中を歩き回った。
草も木も片っ端から鑑定したが、布の材料になりそうな植物は見つからない。
全裸なので木の枝が体に触れないように慎重に木々をかき分けていく。
それらしいものがなかなか見つからず、諦めて少し休もうかと思い始めた頃。
木々の先にぽっかりと開けた場所を発見した。そこには、白い綿毛を付けた植物が風に揺れ、一面が雪のように白く染まっている。
「これって、もしかしたら綿花じゃないのか?」
実物を見るのは初めてだが、まずは調べてみよう。
「《鑑定》」
【繊維草】
『良質な繊維として利用できる』
「おお、やっぱりそうだ。これで布と糸が作れるぞ」
良かった、これでようやく服が作れる。
「これで全裸生活ともオサラバだ」
俺はウキウキしながら繊維草を採取した。
「よし、これくらいあればいいかな」
どのくらい必要なのか分からなかったので、ひとまず両腕がいっぱいになるまで集めてみた。
「さて、まずは布からだな。柔らかくて肌触りのいい布をイメージして……」
「《神具創造》」
草が淡い光に包まれる。
そして――。
ひらひらと一枚の布が地面に落ちる。
「はぁ?」
出来たのはハンカチサイズの小さい布切れだった。
「えっ、あれだけの量でこれしか出来ないの?」
つまり、服一着作るにはもっと大量に採取しないといけないということだ。
「俺、いつになったら服を着れるんだ……」
仕方がないので再び繊維草を集めるために立ち上がる。
必死に頑張って今度はさっきの五倍は集めた。
「はぁはぁ、このくらいあればちょっとした服くらいなら作れるだろう」
今度は繊維を無駄なく糸にし、それを丁寧に織り上げるイメージを加える。
「《神具創造》」
すると、今度は先ほどの十倍くらいの大きさの布が出来た。
「あれ?」
俺は出来上がった布を広げてみる。
明らかに予想より大きい。
集めた繊維草は五倍程度だったはずなのに、出来た布はそれ以上に見える。
これってもしかして素材だけじゃなく、イメージの精度でも効率が変わるのか?
「ありえるな、もっと検証してみたいけど。やっぱりまずは服だ」
でもどんな服を作る?
この布の量なら作れる服は限られてくる。
「うーん、どうしよう。失敗したらまた草集めしなきゃいけなくなってしまう」
布の少ない衣装を頭に思い浮かべる。
水着とか?
いや、それではさすがに露出が多すぎるな。
ならスク水は……いや個人的な趣味としてはありだけど今は無しだな。
じゃあマントはどうだ?
駄目だ、全裸にマントはただの変態だ。
あっ、そうだ。
ワンピースくらいならいけるんじゃないか?
前世で見たワンピースを思い浮かべる。
「よし、半袖で丈は膝くらいまで。薄手のワンピース……《神具創造》」
布が光に包まれ、そして光が収まると。
「おお! 出来てる……え?」
ほぼイメージした通りの物が出来ていた。
ただ、一つ問題がある。
「丈短くないか?」
膝下までの丈を想像したはずなのに、明らかに膝上までしかない。
「これ絶対パンツ見えるだろ! いや、そもそも履いてないけど」
これでは、ちょっと風が吹いたら丸見えになってしまいそうだ。
「くっ、でも仕方ない。何もないよりはましだ」
俺は思い切ってワンピースを頭から被る。
サイズはぴったりだった。
「うん、意外と悪くないな、肌触りもいいし。でも……これは」
思わずスカートをヒラヒラさせてしまう。
「膝上十五センチくらいか? うーん、ギリセーフ……かな?」
ひとまずこれで我慢しよう、落ち着いたらまた作ればいいんだ。
「でも、これだと下着も必要だよな」
再び風に揺れる繊維草に視線を向ける。
「はぁ、仕方ない。もう少し頑張るか」
その後、俺は追加で繊維草を集め、何とかショーツとスポブラを作り上げた。
これでようやく人としての尊厳を確保できた。
◇ ◇ ◇
一息ついたところでなんだか喉が渇いてきた。
「近くに川とかないかな?」
川の水をそのまま飲むのは不衛生かもしれない。でも神具創造なら、木があればコップくらいは作れるだろうし、もしかしたら浄水なんかもできるかもしれない。
そう思い、さらに森の中を彷徨った。
それから一時間ほど経った頃、ようやく小さな小川を見つけた。
「やった、これで水が飲める!」
とりあえず近くに落ちていた太めの枝を拾う。
「コップになれ、《神具創造》」
淡い光が収まると、少し歪な木製コップが出来上がっていた。
「これも少し不格好だけどまぁ問題ない」
そのまま川に駆け寄り水面を見る。
すると――。
「えっ……」
水面を覗き込むと、そこに映っていたのは前世で何度も夢見た姿だった。
前世の自分の面影はまったくない。
背中まで伸びた長い銀髪がさらりと風に揺れている。
宝石のように鮮やかな赤い瞳。
顔立ちは整っていて、正直かなり可愛い。
そして華奢な体つきに白い肌。
自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ可愛い。
少しの間その姿に見惚れていたが、ふと我に返る。
「えっ、本当に俺なのかこれ?」
すぐには信じられず、思わず頬に触れる。
水面の少女も同じように頬へ手を当てた。
そのまま頬をつねると、水面の少女も同じように動く。
「やっぱり、俺だ。本当に美少女になったんだ」
今まで気にしなかったけど、声もちゃんと女の声になってる。
「あー、あー」
透き通るような綺麗な声が響く。
「うん、女の子の声だ!」
次にそっと胸に触れてみる。
「もう少し大きくして欲しかったけど。まぁ、形は綺麗だし贅沢は言えないか」
胸から手を放し小さな掌を見る。
「やった……やったぞ」
喜びのあまり拳を握りしめ、何度もその場で飛び跳ねた。
頭の中で描いた理想の姿、それが今ここにいる!
水面に映る姿を見ながらスカートを摘み、その場でくるりと回る。
「ははっ、やっぱりパンツ見えた」
思わずにやけてしまう。
「俺、めちゃくちゃ可愛くなってる!」
感動のあまり、しばらくその場で立ち尽くしてしまった。
そして両手を突き上げ、叫ぶ――。
「美少女になったぞぉー!」
静かな森に、そんな声が響いた。
……本当に、嬉しかった。
前世の俺は、自分の人生があまり好きじゃなかった。
いや、男として生きることが嫌だったわけじゃないし、別に男が好きだったわけでもない。
一言でいうなら、『可愛い』に対する憧れだろうか?
それに、まったく違う自分として生きてみたかった。
だから転生するなら、女の子になってみたい。
それが、前世の俺がずっと心のどこかで思っていたことだった。
◇ ◇ ◇
「あっ、そういえば名前もまだなかったな」
ステータスには『名前なし』と表示されていた。
せっかく生まれ変わったんだし、この姿に似合う名前が欲しい。
前世の名前、晃は、別に女の子の名前としても使えるかもしれない。
でも今の俺はもう晃じゃない。
俺は少し考えてから、水面の少女を見つめる。
「よし、今日から俺は――キアラだ」
【名前】キアラ
そう口にすると、ステータスに名前が表示された。
前世の名前の文字を入れ変えただけだが、なんとなく悪くない響きだ。
服もできたし、名前も新しくなった。
ここから、キアラとしての新しい人生を始めよう。




