第2話 神具創造を使ってみた
「やれやれ。本当に変な子だったわね」
そう呟きながら私は椅子に腰を下ろした。
トントンと、転生手続きの書類を片付けていく。
そのとき、一枚の書類がひらりと床に落ちた。
「おっと、いけないいけない」
拾い上げて何気なくその書類を読んでみる。
「あっ、これさっきあの子にあげた神具創造の説明書ね――」
ゆっくりと読み進めていると、ある文字が目に飛び込んできた。
「えっ?」
そこには小さな字で、こう記されていた。
【神具創造】
※神格存在以外使用禁止。
※転生者への付与禁止。
アリシアは思わず二度見した。
しかし、見間違いなどではない。
「しまったぁぁぁぁぁっ!」
紙を握りしめ、勢いよく立ち上がる。
「どうしよう!? 回収! 回収しなきゃ!」
その場をぐるぐる歩き回りながら考える。
もう転生手続きは完了してしまった。
あの子が死んで戻って来ない限り、回収は不可能だ。
「やってしまったわ。これ絶対主神様に怒られる……どうしよう」
アリシアはがっくりと膝から崩れ落ちた。
「でもこれなんで付与禁止なのよ? そこまで危険な能力じゃないでしょうに?」
さらに説明を読み進めると。
「あっ……」
※過去二件の世界崩壊事例あり。
「ちょっと待って、なんでそんな危険物が一般の書類と一緒に置いてあるのよぉぉぉっ!」
天界にアリシアの叫び声が響き渡った。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、最初に視界に入ったのは青々とした葉っぱだった。
「ん? ここはどこだ?」
ゆっくりと体を起こし、周囲を確認する。
木々の隙間から差し込む光がまだら模様になって、地面を照らしていた。
見上げれば枝葉が空を覆い隠している。
風が吹くたびに葉が揺れ、穏やかな音を立てている。
少しの間そんな景色をぼーっと眺めていたが、次第に頭がはっきりしてきた。
そして、先ほどまでの女神との会話を思い出す。
「そうだ、俺……転生したんだ!」
慌てて体に視線を落とす。
「どうなった? 俺、ちゃんと美少女になれたのか?」
視界に入ったのは、小さな手、すらりと伸びた足。そして慎ましく膨らんだ胸、股間には前世で付いていたものは見当たらず、ツルツルであった。前世の自分が思い描いた理想の姿だ。
「やった、俺。女の子になってる! ……えっ」
そこで一瞬、思考が停止した。
「……何これ?」
間違いなく女の子にはなれた、それは非常に喜ばしいことだ。
本来なら飛び上がって『よっしゃあー! 女の子になれたー!』と声を上げたいところだ。しかし、その前に一つ重大な問題がある。
「いや、なんで全裸なんだよ!」
そう、俺は一糸まとわぬ姿で森の中にいたのである。
思わず胸元と股間を両手で隠した。
「おい、アリシア! ちゃんと服くらい用意しろやぁー!」
空に向かって全力で叫んだ。
つい女神を呼び捨てにしてしまったが仕方ないだろう。
いくらなんでも美少女を全裸で森に放り出すとか酷過ぎないか?
いや、まだ美少女かどうか確認は出来てないが。
しかし、これはまずい。
こんなとこ誰かに見られたら、俺の異世界生活が早々に終わってしまう。
特に男なんかに見つかった日には『グヘヘ、お嬢ちゃんそんな格好で何してるんだぁ~い』とか言って襲われてしまう。
何とかしなければ……あっ。
「そういえば。神具創造……貰ったんだっけ?」
しかし、スキルや能力ってどうやって使うんだ。
「えっと、ステータス」
何気なく呟くと目の前に半透明の画面が表示された。
「うわ、なんかゲームみたいだな」
【名前】なし
【種族】霊神人
【年齢】16歳
【レベル】1
【ユニークスキル】神具創造LV1
【付属スキル】鑑定Lv1 / アイテムボックスLv1
【状態】正常
「なんだこれ?」
名前なし?
いや、これも気になるけど今は服の方が優先だ。
全裸で名前を気にしている場合じゃない。
「種族が霊神人ってなんだ、人間じゃないのか?」
でもどう見ても体は普通の人間の女の子だ。
……そういえば、これにも鑑定って使えるのか?
「《鑑定》」
【種族:霊神人】
『神の加護を受けた特殊な種族。※鑑定Lv1では詳細な情報は閲覧できません』
おっ、出た。
神の加護って、アリシアのか?
しかしレベル1の鑑定ではあまり詳しく分からないようだ。
次にステータス欄の神具創造をポチッと押してみる。
【神具創造レベル1】
『日用品などの一般的な道具を作れる(ナイフ、食器、衣類、ロープ、テント、寝袋など)』
なるほど、レベル1でも簡単なものは作れるのか……。
「おお、キャンプ道具一式作れちゃうんだな」
どうやらこのスキルはレベルが上がる毎に作れる物が増えていくようだ。
「あ、でもこれレベル1でも服作れるんじゃないか。よし、試しにやってみよう――《神具創造》」
『素材が不足しています』
そんな文字が表示された。
「ええ? 素材必要なの?」
まぁそれもそうか、いくらチートスキルでも無から何かを作り出すのはさすがに無理か。
「えっと必要な材料は?」
どうも服を作るには布などの素材が必要なようだ。
「しかし、こんな所に布なんてないよな?」
いや、待て。
布って確か綿とか麻なんかの植物から作るんだよな?
ここは森の中だ、植物がたくさん生えている。
鑑定スキルを使って探せば布の材料が見つかるかもしれない。
「よし、ここでじっとしていてもしょうがない。とりあえずそれっぽい物を探してみよう」
そうして、俺は全裸のまま森を歩き、手当たり次第植物を鑑定して回った。
森の中なのでまともな道はなく、獣道を慎重に歩いて行く。
遠くの方に天に届きそうなほど巨大な木が見えた。
「うわぁ、でっかい木だなぁ」
どこからか聞いたこともない鳥の鳴き声も聞こえた。
そういえばここは異世界なんだよな。
魔物とかもいるんだよな?
魔王や邪神までいるって言ってたし。
そんなの全裸レベル1の俺ではどうにも出来ないぞ。
冷静に考えると、かなり不安になってきた。
その時。
「痛っ!」
足の裏に痛みが走り、思わず飛び上がる。
どうやら石を踏んでしまったようだ。
「やっぱり、裸足で森を歩くのは危険だな。これ靴は作れないのかな?」
そう思い神具創造の生成可能品を見てみると、【草履】の文字があった。
「おっ、草履あった。えーと、必要な素材は……草?」
草なら何でもいいんだろうか?
少し疑問に思ったが、やってみれば分かるだろう。
とりあえず試してみよう、その辺りの雑草を適当に引っこ抜いて集めた。
「それっ、草履になれ!《神具創造》」
雑草が淡い光に包まれる。
「おお。これは!」
思わず期待に胸が膨らんだ。
しかし、光が収まった後に出来上がったものを見て、俺は思わず天を仰いだ。そこにあったのはなんというか、草を無理やり編み込んで形だけを草履っぽくした草の塊だった。
「はぁ、なんだよこれ? ただの草じゃん」
とてもじゃないが履いて歩けるようなものではない。
「どういうことだ? もしかしてイメージが足りなかったとか?」
ありえる、こういうのは明確なイメージが大事ってどこかのラノベにも書いてた。
「よし、もう一回やってみよう」
幸い周囲に草はいくらでも生えてる。
俺はもう一度草を集めた。
今度はしっかりイメージを固める。丈夫で歩きやすくて脱げにくい、そんなスポーツサンダルのようなものをイメージする。
「頼むぞ! スポーツサンダルになれぇぇぇっ! 《神具創造》」
すると、雑草が淡い光を放った。
次の瞬間――。
「おお、本当に出来てるよ!」
少し不格好だが確かにサンダルのような草履が出来ていた。
恐る恐る履いてみる。
ちょっと見た目が悪いという点を除けば十分だ。
歩きやすさも先ほどまでとは比べ物にならない。
「うん、いいじゃないか。これならいくらでも歩ける」
神具創造は俺が思ってた以上に面白いスキルなのかもしれない。
草から草履が作れるんだ。
レベルを上げていろんな素材を集めたら、もっと凄い物を作れるようになるかもしれない。そんな想像するだけで胸が高鳴る。
この能力があれば、この世界でも楽しく生きていける気がする。
しかし、ひとまず足元はこれで大丈夫だが、それ以外は丸出しであることには変わりない。俺は服の素材を探すため、全裸に草履という変態スタイルで再び森の中を歩き出した。
次話は20:10に投稿します。




