第31話 新しい装備のお披露目
翌朝。
目を覚ました私は、下着姿のまま鏡の前に立っていた。
「よし、ついにこの時が来た!」
気合いを入れるように大きく息を吸い込む。
今日はいよいよ、新しい装備のお披露目だ。
両手を広げ、その場でくるりと一回転する。
そして、アイテムボックスの能力を使い、装備品を一つずつ身につけていく。
「まずは手!」
掛け声とともに、両手に手袋が装着された。
「次は足!」
続いて、黒いレースアップブーツが両足を包み込む。
「よし、いい感じだ。そして、メインの衣装!」
濃紺と白のローブが、ふわりと私の身体を覆った。
仕上げにワンドを取り出し、びしっとポーズを決める。
「うん、悪くないな」
鏡に映った自分の姿を、頭の先から足元までじっくりと眺めた。
「ふふふっ、完璧じゃないか」
思わずにやけてしまう。
これぞ、私の求めていた魔法少女スタイルだ!
欲を言えばキラキラエフェクトも欲しいけど、それは今のところどうしようもない。
おっと。それに、この装備は可愛いだけじゃない。
お店で確認したところ、ちゃんと防具としての効果もあるのだ。
ローブには魔法耐性と防汚効果があり、ブーツは疲労を軽減してくれる。
手袋には器用さを高める効果まである。
そして、このワンド。
魔法の発動を補助してくれる、頼もしい相棒だ。
どれも初級冒険者向けの装備だけど、今の私には十分すぎる。
「ふふふっ、これはいい買い物をしたね!」
いずれは神具創造で改良もできるかもしれない。
もっと強く、もっと便利に。できれば、もっとキラキラに!
「よし。まずはレベルアップだな!」
私はワンドを握り直し、鏡の中の自分に向かって力強く頷いた。
……その前に、魔法少女っぽい決め台詞も考えておこうかな。
「マジカル☆キアラ参上!」
……。
ちょっと恥ずかしいな……。
◇ ◇ ◇
しばらくすると、扉をノックする音が聞こえた。
「キアラ、準備できてる?」
いつものように、ライアとミネッサが呼びに来てくれた。
「はい、今行きます」
扉を開けると、二人が私の姿を見て微笑んだ。
「おはよう、キアラ。あら、それ昨日買った装備ね? よく似合ってるわよ」
「うん、すごく可愛い」
「そ、そうですか。えへへ」
やっぱり、可愛いと言ってもらえると嬉しい。
「ふふっ、でもなんだか錬成師というより魔法使いみたいね」
「いいんです! 動きやすいですし、可愛いですから!」
思わず力説してしまった。
そんな話をしながら一階へ下りると、エプロン姿のシルファが駆け寄ってきた。
「みなさんおはようございます。わぁ、キアラとっても可愛いですね」
「えへへ、ありがとう」
うん、やっぱりこれを買って正解だったな。
私はすっかり上機嫌になり、そのままテーブルについて朝食を済ませた。
そして、食事を終えると、身支度を整えたシルファも加わった。
「お待たせしました。じゃあ行きましょうか」
私たちは宿屋を出て、まだ人通りの少ない大通りを歩き始めた。
ちなみに、宿は二週間分まとめて取っておいた。
これで王都へ出発するまでの間、寝る場所には困らない。
宿代は十四日分で二万一千ナール。
装備代と宿代を払っても、所持金は四万ナール以上残っている。
まだ余裕はあるけど、王都へ向かうまで何が起こるか分からない。
ここからは出費を抑えないとな。
そんなことを考えているうちに、私たちは冒険者ギルドへ到着した。
◇ ◇ ◇
中に入ると、ディオナとセレネがすでに待っていた。
「二人ともお待たせ」
「おっ、やっときたか」
ライアが声をかけると、ディオナが顔を上げた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
元気に挨拶するシルファにつられて、私も軽く頭を下げる。
「全員揃ったね。まずは今回の調査について、もう一度確認しておこう」
セレネがテーブルの上に地図を広げた。
「リバークラブが大量発生していたのは、この川の周辺で合ってる?」
セレネが私とシルファに確認した。
「はい、この辺りです」
シルファが地図の一点を指さす。
「なるほど。リバークラブはここ。他に魔物の数が増えているという報告があったのは、こことここ」
セレネは地図の三か所に印を付けていく。
どれも湖から伸びる川沿いに並んでいた。
「やっぱり、水辺に集中しているんですね」
私がそう尋ねると、セレネは頷いた。
「報告された場所だけを見ると、上流から下流へ異常が広がっているように見える」
「でも、湖の周辺では異常が確認されていないんですよね?」
シルファの問いに、ライアが地図を覗き込む。
「そうね。湖そのものが原因とは限らないわ。川の途中で何かが起きている可能性もあるわね」
「なら、まずは異常が確認されていない下流から、湖に向かって調べよう。どこから変化が起きているのか分かれば、原因を絞り込めるかもしれない」
「じゃあ、決まりね。下流から上流へ向かって調べていきましょう」
ライアの提案に、全員が頷いた。
私たちは地図を確認し、最初の調査地点へ向かうことにした。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、出発しましょう」
ライアの声を合図に、私たちはギルドを後にした。
目指すのは、リバークラブが大量発生していた場所よりも下流の川辺だ。
しかし、魔物が増えている原因ってなんだろう?
……餌が増えたとか?
それとも、水質に何か変化があったから?
考えてみても、今の私にはさっぱり分からない。
こういうとき、探偵みたいにひらめけたら格好いいんだけどな。
……現実は、ただの見習い錬成師である。
しばらく歩いていると、川のせせらぎが聞こえてきた。
どうやら、最初の調査地点に到着したようだ。
それにしても。いつもなら少し疲れを感じる距離を歩いているのに、今日はなんだか足取りが軽い。
これがブーツの効果なのかな?
思った以上にいい買い物だったかもしれない。
「特に異常はない」
先頭を歩くミネッサが周囲を注意深く観察しながら告げた。
川面には朝の光が反射し、きらきらと輝いていた。
水は澄んでいて、底に転がる小石まではっきりと見える。
見た目は、どこにでもある穏やかな川だ。
でも水に問題があるかもしれないんだよね?
そう思い川に近づいて、こっそり鑑定してみた。
「《鑑定》」
【綺麗な水】
『微量の魔力を含んだ水。※飲用可能』
魔力を含んだ水?
でも、これだけじゃ異常があるとは言えないよな。
そもそも、この世界の川の水って全部こんな感じなのかな?
うーん、比較できるものがないと判断できないか。
念のため、周囲の石もいくつか鑑定してみたが特に異常はない。
しかし、そのまま川に沿って上流へと少し進んだところで、ミネッサが足を止めた。
「あそこ、何かいる」
全員の視線が、彼女の指さす方向へ集まる。
水面下で黒い影が動いていた。
一瞬、大きな魚かと思ったけど、違う。
魚にしては大きすぎる。
その影は水底を滑るように、こちらへ近づいてきていた。
「魔物ね、キアラは下がってて」
ライアとシルファは咄嗟に剣を抜き、ディオナは大斧を構えた。
「あっ、はい!」
私はミネッサと一緒に後方へ下がり、杖を構えるセレネのそばについた。
その直後、水面が大きく盛り上がった。
何かがこちらへ向かってくる。
そう思った瞬間、激しい水しぶきとともに、巨大な影が飛び出してきた。
――バシャァァァンッ!
「きゃっ!?」
反射的に身をすくめる。
顔を上げ、恐る恐る視線を向けると、目の前には巨大な魔物がいた。
黒く硬い鱗に覆われた巨体。
四本の脚には太い爪が並び、長い尾が水面を揺らしている。
大きく開いた口からは、岩すら噛み砕けそうな鋭い牙が覗いていた。
そして、血のように赤い瞳が私たちを捉えた。
「な、何あれ……!」
巨大なワニのような姿をした魔物だった。
その身体は、リバークラブなんかとは比べものにならないほど大きかった。
「なんでこんな場所にこいつがいやがるんだ」
ディオナが魔物を見つめたまま呟いた。
【お知らせ】木曜・金曜は投稿お休みさせていただきます。
少しの間お待たせしてしまいますが、よろしくお願いいたします!
次回は11月7日(土)10:30に投稿します。




