第30話 魔法少女への第一歩!
「「ええっ!」」
ギルドの一角に、私とシルファの驚きの声が響き渡った。
「……十四万四千ナール!?」
「こ、こんなにたくさんもらっていいんですか?」
私とシルファは唖然とした表情で目の前に積まれた硬貨を見つめていた。
「はい。討伐した魔物の数に応じた正当な報酬ですので、ご安心ください」
「そ、そうなんですね……」
予想以上の金額だけど、これはありがたい。
これだけあれば、冒険用の装備も新調できるし、当面の宿代にも困らない。
それに、今まで我慢していた屋台の美味しそうな料理だって食べられる。
うん、お金に余裕ができるっていいね。
……ところで。
「えっと、シルファ。このお金どうしようか?」
「そうですね、じゃあ半分ずつ分けましょう」
「半分? そんなにもらっていいの? ほとんどシルファが倒したんだよ?」
私が慌てて言うと、シルファはそっと首を横に振った。
「私一人じゃ全部は持って帰れなかったですよ。それにこれからは仲間になるんでしょ?」
仲間か。
その言葉が、なんだか胸に響いた。
改めてそう言ってもらえると、ちょっと嬉しくなってしまった。
そっか。私たち、もう仲間なんだ。
「……うん。ありがとう、シルファ」
「はい!」
こうして報酬は、きっちり半分ずつに分けることになった。
一人七万二千ナール、少しお金に余裕ができたけどどうしよう。
本当は可愛い服とかが欲しいけど、やっぱり装備を整えるべきかな?
魔物に遭遇した瞬間、服だけ可愛くても意味がない。
いや、可愛い服は大事だけど!
「えっ、なに? もしかして二人でパーティ組むことになったの?」
私たちのやり取りを聞いていたライアが、興味深そうに身を乗り出した。
「あっ、はい。そうなんです」
詳しくは説明できないけど、王都に行くことは伝えておいた方がいいかな。
私はシルファと顔を見合わせた。
何を考えているのか察してくれたようで、彼女は静かに頷いた。
「あの、それで私とシルファは二週間後に王都に行くことにしたんです」
「えっ、王都?」
そう告げると、ライアたちは一斉にこちらを向いた。
けれど、その表情はどこか嬉しそうに見えた。
「それはちょうどよかったわ」
「えっ、どういうことですか?」
「ふふっ、実は私たちもそろそろ王都に拠点を移そうと思ってたのよ」
ライアの口から出た言葉は、思いもしないものだった。
「キアラをどう誘うかずっと考えてた」
いつの間にか隣にいたミネッサが、私の顔をじっと覗き込んでくる。
「そ、そうだったんですか? でもどうして王都に?」
「私たちはAランクを目指してるの。もっと強い魔物と戦って、実力をつけるためにね。だから、いずれ王都へ拠点を移そうって前から話してたのよ」
「えっ、じゃあ……」
ライアさんたちも一緒に王都へ?
だとしたら、それはとても心強い。
頼れる知り合いもいない土地へ行くのは、やっぱり不安だし。
……いや、待って。
「ところで、なんで私を誘おうと? 荷物運びくらいしかできないですよ?」
「それは、キアラが可愛いから」
ミネッサは私の手を握ったまま、じっと私を見つめた。
そして、目を閉じると私の首に腕を回してきた。
――ぎゅうっ!
「ふぇ? ちょっ! ミネッサさん?」
突然、抱きしめられた。
えっ、なに? どういうこと?
「キアラ、いい匂い」
「えええっ!?」
「コラコラ、何やってるのよ。ごめんね、キアラ」
ライアが慣れた様子でミネッサを引き離した。
「むぅ……もう少しだけ」
「ダメ」
「……残念」
ミネッサはなぜかとても名残惜しそうな顔をしていた。
はぁ、びっくりした。
でも、可愛いって言われたのはちょっと嬉しかったけどね。
いや、別に胸が密着したから喜んでるんじゃないよ?
……ほんとだよ?
「まぁ、冗談はさておき」
ライアが咳払いをして、話を戻した。
「私はね。キアラはいつかすごい冒険者になるんじゃないかって思ってるのよ」
「私がですか?」
「ええ、アイテムボックスを持っているだけじゃなく、錬成師なのに魔法まで使えるんですもの」
ああ、それはたぶん霊神人っていう種族だからなんだろうけど……。
これは説明できないな。
ここは笑顔で乗り切ろう。うん、笑顔は万能だ。
……たぶん。
「それに、せっかく仲良くなれたんだもの。これからも一緒に冒険できたら嬉しいわ」
ライアがパチッとウィンクをした。
……うわぁ。
やっぱりこういう仕草は大人の女性っぽくってちょっと憧れるな。
「そう言ってもらえると、私も嬉しいです。それで、ライアさんたちはいつ王都へ行くんですか?」
「そうね。できればキアラたちに合わせたいけど、そこはあとでみんなと相談するわ」
「わかりました」
◇ ◇ ◇
「話は済んだ? そろそろ依頼の話を進めていい?」
それまで黙って依頼書を眺めていたセレネが、淡々と口を開いた。
「ああ、そうだったわね。まずはどこから調べましょうか?」
ライアとセレネが真剣な表情で話し始めた。
私も参加するんだしちゃんと聞いておかないと。
「報告によると、魔物の大量発生はリバークラブがいた川付近が多いそうなのよ」
川の周辺ばかり?
それって水が影響してるってことなのかな?
それとも川の上流で何か起きているとか……?
「よし、じゃあまず川の下流から上流にある湖まで調べてみましょう。調査は明日の朝から、キアラとシルファもそれでいいかな?」
私とシルファは顔を見合わせて頷いた。
「「はい」」
こうして、翌朝からの調査が決まった。
◇ ◇ ◇
私たちはギルドを後にし、ライアとシルファと一緒に街を歩いていた。
向かっているのは、ライアおすすめの武具店だ。
報酬も手に入ったことだし、いよいよ装備を整えるのである!
「ほら、あのお店よ。安くていい物が多いから駆け出し冒険者はみんなあのお店で装備を揃えるのよ」
「へー、それは楽しみですね」
期待に胸を膨らませながら、店の扉を開けた。
店内には革鎧や金属鎧が並び、壁際には頑丈そうな盾も立てかけられていた。
いかにも冒険者用のお店といった雰囲気だった。
「うわぁ、まさにファンタジーだな」
前世ではゲームなんかで画面越しに見ていた装備が、目の前に実物として並んでいる。思わずちょっと感動してしまった。
「キアラはローブとかがいいんでしょうか?」
私が店内の雰囲気にあっけに取られていたら、シルファが声を掛けてきた。
「あっ、そうだね。えっと、ローブはこっちか」
そして、私は一着のローブに目を止めた。
濃紺と白を基調とした見習い魔導士のローブだ。
胸元や裾には繊細なレースがあしらわれ、袖口やスカートには白いフリルが重ねられている。どことなく魔法少女の衣装に見えなくもない。
「これ、可愛いかも……」
私はそっと手に取り、値札を確認した。
八千五百ナール。
決して安くはないけれど、今の私なら十分に買える金額だ。
「キアラ、それが気に入ったんですか?」
「あっ、うん。見習い魔法使い用だけど、どうかな?」
「いいと思いますよ。試着してみたらどうです?」
「うん、そうだね。ちょっと着てみるよ」
私はローブを抱え、試着室へ駆け込んだ。
そして、着替え終わって鏡の前に立った瞬間――。
「……うわぁ」
まさに、私が思い描いていた魔法少女の姿だ。
セパレート風のデザインは上品なのに、肩や二の腕が大胆に露出している。
濃紺と白の組み合わせが、白い肌によく映えていた。
腰には革のポーチも付いていて、可愛らしさの中に冒険者らしさも感じられる。
「うわぁ、やっぱりこれいいね。思ったより動きやすいし、なにより可愛い!」
私は迷わず購入を決めてしまった。
防御力も大事なんだろうけど。
でも、気分が上がる装備であることはもっと大事なのだ。
うん、これは必要な買い物だ。
決して趣味だけで選んだわけじゃない。
そう自分に言い聞かせながら、店内を見て回る。
そして、黒のレースアップブーツや黒い革の手袋も購入することにした。
「ふふふっ、これでまた一歩魔法少女に近づいたな」
心の中でこっそり勝利宣言をしながら、私は会計へ向かおうとした。
そのとき。
視界の端に、あるものが飛び込んできた。
それは一本の『ワンド』だった。
白樺の木には、ピンクとゴールドの装飾が施されていた。
先端にはハート型のフレームがあり、その中央で紅水晶がきらりと輝いている。
まるで魔法少女が持つステッキのような、愛らしい短杖だった。
ローブとの組み合わせもばっちりだろう。
「これは……欲しい!」
わなわなと震えながら吸い寄せられるようにワンドへ近づき、値札を確認した。
「えっ? 一万ナール?」
これは高い、でも欲しい。
私はワンドから目を離せないまま、頭の中で所持金を計算した。
今の所持金は約九万ナールだ。
ローブが八千五百、ブーツが五千、手袋千五百。
ワンドも合わせれば、二万五千ナールか。
うん……まあ、なんとかなるだろう。
私は目を閉じ、手に持っていた商品とワンドをカウンターに置いた。
「すみません、これ全部ください!」
ふっふっふっ、これが魔法少女『マジカル☆キアラ』への第一歩だ!




