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第29話 討伐報酬と不穏な依頼

 その後、私はシルファと一緒に冒険者ギルドへ戻った。

 扉を開けて中に入ると、まだお昼だからか他の冒険者の姿はなかった。

 受付の向こうから、書類をめくる音だけが聞こえてくる。


「エルナさん、依頼完了しました」


「シルファさん、お疲れ様でした。キアラさんもお怪我はありませんか?」


「あっ、はい。大丈夫です」


 ちょっと怪我はしたけど、アリシアに治してもらったから今は無傷だ。

 それより、アイテムボックスに入れてる大量のリバークラブはどうしよう?


「それとリバークラブをたくさん持ってきたんですけど、どこに出せばいいでしょうか?」


「何匹くらいでしょうか?」


「たぶん二百匹近くいたと思います」


「えっ、そんなにいたんですか?」


 数を伝えるとエルナは顔を上げ、驚いたように私を見つめた。

 うん、私たちもあんなにいるとは思わなかったからね。


「はい、なんだかギルドで聞いていたよりかなり数が多かったんですよ」


「そうでしたか、それは申し訳ありません。でもリバークラブはそこまで増える魔物じゃないんですが……。これは原因を調査する必要がありそうですね」


「やっぱり、普通じゃなかったんですね」


「ええ。これはギルドから調査依頼を出すことになると思います」


 エルナは手元の依頼書に目を落とすと、何やら考え込んでいた。


「あの、討伐した分を出していいですか?」


「そうですね、ではそちらにお願いします」


 指定された場所に、アイテムボックスからリバークラブを取り出す。


 ドサッ! ドサドサッ!

 大きなハサミを持つ魔物の死骸が、次々と床に積み上がっていく。

 その光景を前に、エルナはしばらく言葉を失っていた。


「すみません。少し数が多いので、職員を呼んできますね」


 エルナは慌てて受付の奥へ向かい、数人の職員を連れて戻ってきた。

 職員たちも驚いていたが、すぐに手分けしてリバークラブの数を数え始めた。


「……本当に、お二人だけでこんなに倒したんですね」


「はい、シルファが頑張ってくれたおかげです」


「ふふっ、キアラだって頑張ってたじゃないですか」


 彼女は少しはにかむように笑った。

 そう言ってもらえると、なんだか嬉しい。


「では、査定をしますのであちらで少しお待ちください」


「はい、お願いします」


 そうして、私とシルファはテーブル席に座って待つことにした。

 しばらく待っていると、ギルドの扉が開いた。

 外の明るい日差しとともに、見覚えのある顔ぶれが入ってくる。


「あっ、キアラにシルじゃない。討伐はもう終わったの?」


 四花の輝石のメンバーたちだった。


「はい、思ったより数が多くて大変でしたよ」


 ライアは積み上がったリバークラブに視線を向けた。


「うわっ、凄いわねこれ。何匹いるの?」


「ははっ、今、職員さんに数えてもらってます」


「キアラ、怪我してない?」


 ライアの後ろからミネッサがひょっこり顔を出した。


「はい、シルファのおかげで無事討伐できました」


「いや、キアラが手伝ってくれたおかげですよ」


「そう、なんだか仲良くなったみたいね」


 そんな私たちのやり取りを見ながら、ライアたちも同じ席に着いた。

 すると、受付からエルナが一枚の紙を持ってやってきた。


「あの、ライアさん」


「ん? どうしたのエルナ?」


「ちょっと調査依頼をお願いできないでしょうか?」


「調査? どんな内容なの?」


「キアラさんたちが行ったリバークラブ討伐なんですが、通常では考えられないほど数が多かったそうなんです」


 エルナは今回の状況を簡潔に説明した。

 その説明を私も聞いていたのだが、どうやら今回の異常は私たちが遭遇したものだけではないらしい。


「他でもこうした異常発生の報告が何件か出ています。数日かかっても構いませんので、調査をお願いできませんか?」


「なるほどねぇ。確かに、一度調べてみる必要がありそうだな」


 ディオナが依頼書を受け取り、チラッと目を通し、そのままライアに手渡した。


「他でも同じようなことが起きてるなら、放っておくわけにもいかないわね」


 ライアは受け取った依頼書に目を通すと、少し考え込むように顎へ手を添えた。


「エルナ、ちょっと相談するから待っててもらえるかしら?」


「わかりました、よろしくお願いします」


 そしてエルナは私とシルファに視線を移す。


「それから今回の依頼成功でシルファさんはDランクに、キアラさんはEランクに昇格になりますので」


「えっ、私まだ二回しか依頼受けてないですよ?」


 すると、エルナは私の耳元でそっとささやく。


「キアラさんはアイテムボックスをお持ちなので、素材の運搬能力を高く評価されています。今後の活動への期待も込めて今回は特例で昇格していただくことになりました」


 なるほど、要するに上のランクになった方が高価な素材なんかをたくさん持って帰ってくれるからってことかな?


 まぁ、理由はどうあれランクアップできるのは私としてもありがたい。

 受けられる依頼も増えるし、お金も稼げるだろう。

 ここは、ありがたく受け入れよう。


「わかりました、ありがとうございます」


「ふふっ、では報酬を持ってきますので、少々お待ちください」


 軽く会釈をして、エルナは受付の方へ戻って行った。 


「二人ともランクアップおめでとう。キアラ、こんなに早く昇格するなんて凄いわね」


「ははっ、まぁアイテムボックスのおかげなんですけどね」


「でもこれでキアラと一緒に依頼受けられる」


 ミネッサがぽつりと呟いた。

 その声には、ほんの少し嬉しそうな響きがあった。

 そんなに一緒に依頼を受けたかったのかな?


「そうね、じゃあこの依頼キアラたちも一緒に来る?」


「えっ? いいんですか?」


「ええ。実は今日も結構な数の魔物を倒したんだけど、ほとんど持ち帰れなかったのよ。キアラが来てくれると助かるんだけど、どうかな?」


 うーん、私としても経験を積むチャンスだし、ライアさんたちには命を助けてもらった恩もある。王都へ行く前にその恩返しをしておきたいと思ってたところだ。

とはいえ私一人では決められないな。


「シルファはどうする?」


「えっ、キアラが行きたいなら私は別にいいですよ」


「よし、じゃあ決まりね。エルナ、この依頼受けるわ」


「そうですか、ありがとうございます」


 エルナがほっとした表情でこちらに歩いてきた。

 しかし、その手にはなにやら大量の硬貨を乗せたトレーを持っていた。


「その前にキアラさんとシルファさんの報酬ですが」


 エルナはトレーをテーブルに置いた。


 ジャラッ!

 硬貨がぶつかり合い、思った以上に大きな音が響いた。

 トレーの上には、銀貨や銅貨が山のように積まれている。


 ……えっ、まさかこれ全部が今回の報酬?

 いったいいくらあるんだこれ?


「リバークラブ百八十匹ですので、報酬の合計は十四万四千ナールになります」


「「ええっ!」」


 ……それって何円ですか?

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